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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
2章【現代日本における異世界人及び文化の受け入れに関する問題点】
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37・大は小を兼ねるが、大きすぎると不便

前話のあらすじ「飛ばねぇ蛇はただの蛇だ」

 小休止をしてからシィーラの解体作業に入った。恥ずかしいことに、魔力が枯渇した悟は焚き火を用意するとそのまま気を失うように眠ってしまったのだ。悟よりよほど大変な思いをしたアイツァに見張りをさせてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 悟は目を覚ますと、工房の倉庫にワープホールを繋げる。そこにすでに用意してあった大量のタルと木箱を泉の元へと運び出す。そしてアイツァは水と土の魔術を器用に使い、シィーラの血抜きをし始めた。抜いた血も高価な薬の元になるらしい。あらかじめ血が漏れないように上向きにしておいた切断面から血を樽に移し替えて行く。そして懐から手紙を取り出して悟に渡す。


「サティ、お願いなんだけど、この手紙をベアチェに渡してくれない?」


「わかった。でも、なぜベアチェ?」


「ホントは師匠宛ての手紙なんだけどね。シィーラを倒した旨が書いてあるんだけど、ディート師が宿泊してるのって伯爵家の離れでしょ? たぶん、手紙の中身を確認されちゃうと思うの。だから師匠に直接渡せるだろうベアチェに頼むのよ、あんまり情報漏らされたくないしね。あの子なら見ないでって頼めば見ないでおいてくれると思うわ」


「わかった。ベアチェ、頼む、渡す」


「お願いね。あ、あと持って来れそうなら樽と箱買ってきて。たぶんこれ足りない」


 そう言って悟に金貨を1枚渡すと、アイツァは血抜き作業に戻っていった。


 悟はワープホールを潜って工房へ一瞬で戻り、頼まれた通りベーラの街まで向かった。手荷物無しの旅は気楽でいい。街に入ると、なぜか人目がこちらに集まっている気がしたが、気のせいだろう。ディート師が使っている伯爵邸の離れへと向かう。


 いかにもセバスチャンと言う感じの執事さんが「ディート様は帝都へ向かわれました」と教えてくれた。帰還予定は不明らしい。悟とアイツァが伝えたいことがある旨の言伝を頼んで教会へと向かう。


 ベアチェに手紙を渡す。ディート師が帰ってきたら渡すように頼むと「わかりました」と快く引き受けてくれた。天使のような笑顔に癒される。できれば中身を見ないでほしいと重ねて頼むとそれも引き受けてくれた。


 ベアチェが何かに気付いて不安そうな顔をする。


「あの、サティさん。それどうしたんですか?」


 指差すと、服の一部が血に濡れて真っ赤になっていた。なるほど、街中での視線はこれのせいか、と納得する。慌てて言い訳する。


「これ、魔物、狩った、血。怪我してない」


「あ、そうなのですか。無事で良かったです」


 そう言ってベアチェは再びほほ笑んだ。美少女の頬笑みは破壊力が強過ぎる。悟は笑って誤魔化した。


 ついでに軽く世間話をした。なぜか寿ぎの儀式をキャンセルした人たちが再度予約しにきたこと。寄付が増えて教会側もホクホクしていること。街中が何かに盛り上がっていて、詳しく聞いてみたらディート師が飛行船に乗ってシィーラを撃退したのが街中の話題になっていること。皇帝陛下から直々に謝礼を渡されるのではないか、と噂されていること。シャンプーを母上に少し分けたらすこぶる喜ばれたこと。悟は平然を装って話を聞きながら、頬を引き攣らせる。


 ……これはシィーラを倒したことは誰にも言えないな。アイツァの言う通り、秘密裏に処理しなきゃダメだ。 


 悟は内心で冷や汗をかいた。そんな悟の様子に気付かず、ベアチェは「寿ぎの祭りを見に来てくださいね」と言っていた。


「参加者が例年より少し多くいらっしゃいますし、今年の祭りは楽しいですよ。アイツァさんを誘って見に来てくださいね」


「わかった。いつ? 忘れた」


「明後日の昼からですよ。儀式が終わったら暇になるので、良かったら合流させてくださいな」


 ニコリとベアチェは笑った。この笑顔を前にして断るのは難しい。悟は必ず来ると約束して教会を辞した。


 商店でいくつかの樽と木箱を荷馬車ごと買い、ついでに軽食を買って街を出る。空の荷馬車なので軽いけれど、工房まで運ぶのはそこそこ大変だ。悟は辟易とした嘆息を漏らす。そしてふと工房の倉庫に念話の球を置きっぱなしにしていることに気付いて、人目がないのを確認したあと路肩にある旅用の小屋に身を隠して、工房へとワープホールを開いてみた。ぐにょんと目の前の空間に穴が開く。


「……真面目に運ぶ必要なかったなこれ。次からは教会の裏手でも借りようかな」


 人目のない場所さえ確保できれば、工房との移動も一瞬でできそうだった。悟はため息をついた。人は楽をするために持てる技術を進歩させて使うものだ、と自分を納得させた。工房へとワープホール経由で荷物を運びこむ。


 工房から樽や木箱を外に出し、アイツァのいる泉まで荷物を運ぼうとして、悟はさらに横着をできることに気付く。集中してアイツァの魔力の波形を探った。だが今度は上手くいかない。念話の球経由なら距離をある程度無視して波形を探れるのだが、個々人の波形は距離が開くとダメなのだろう。諦めて樽や木箱を工房から外に出し、荷馬車を引いて泉へと向かうことにした。道なき道を荷馬車で運ぶのは思っていたよりしんどかった。


 ヘロヘロになって泉に到着すると、アイツァは「御苦労さま。だいぶ早かったわね」と労いつつ晩御飯を用意してくれた。良い匂いが鍋から漂ってくる。嗅いだ覚えがある匂いだった、主に今日の昼当たりに。


「……また、ラーメン?」


「美味しいからいいじゃない。ほら、サティの分もあるわよ。野草と干し肉も入れてみたの」


 悪びれずこちらにお椀を一つを渡してきた。アイツァは昼と夜に同じ物を食べて飽きないのだろうか。ラーメンの味は美味しかったが、干し肉の塩分が染み出してしまっていて少ししょっぱかった。健康に悪そうな味である。


 アイツァがラーメンを啜りながら話しだす。


「とりあえず血抜きは終わったわ。あとは素材を種別ごとに分けて木箱に突っ込むだけね……でもこれだけ量があると解体するだけで手間だわ。何日かかるかしら……」


 巨大なシィーラの死骸を見上げてアイツァはぼやく。たしかにこんなデカイ化物の体を分解しようとしたら、どれほど面倒なことか想像に難くない。


 遠目では何となく大きい、というくらいしかわからなかったが、近くで見るとその迫力は物凄い。たぶん真っ直ぐに伸ばしたら30mくらいあるだろうか。胴体の太さは電車より一回り小さいくらい。こうもりのような羽はそのままテントの屋根代わりにできそうなくらい大きかった。頭もデカイ。口を開けたら悟が立ったまま食われそうだ。目玉も人間の頭より大きいのだ。デカイにもほどがある。


「明日から解体作業の毎日ね。手伝ってもらうわよ、サティ」


「……わかった」


 二人でシィーラの死骸を見ながらため息をついた。明日から大変そうである。





 結論から言うならば、解体するだけでなんと11日もかかった。


 全身の鱗を剥ぎとるのに1日、肉や内臓を取り分けて箱に収納するだけで5日もかかった。骨も捨てられないため木箱に収納したが、これが無駄に嵩張るため作業が遅々として進まない。さらに頭の解体は困難を極めた。頭は魔力の籠りやすい場所であり、素材の一つ一つが高級品だという話なのだ。そのためどの部位も無駄にできず、全部回収しなければならないのだが、人間の体より大きい頭蓋骨というのは扱いが大変なのである。持ち上げようにも人の力ではびくともしないほど重いのだ。アイツァが土や水の魔術を上手く使ってなんとか頭を動かし、牙や目玉や頭蓋骨を解体して工房へと運びこんだ。素材の解体というより工事現場でのプレハブ解体のように見えた。悟は解体作業中に何度も全身が筋肉痛になった。


 シィーラの素材全てを工房に運び込んだあと、アイツァがウキウキしながら「これ全部売ればサティと山分けしても一生遊んで暮らせるわね。でもできれば目と血は研究用に使いたいなぁ、どうしようかなぁ」と嬉しそうに困っていた。楽しそうで何よりです。

次話「寿ぎの祭り」



※前話でお伝えした通り、この37話を明日の投稿とみなして、16日のアップはお休みさせていただきます。毎日1話アップ!と豪語しつつこの体たらく、本当に申し訳ございません m(_ _)m


 ついでと言ってはなんですが短編を2話投稿しました。内容はいまいちかなーと思ったけど興が乗ってしまったのでつい……。

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