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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
2章【現代日本における異世界人及び文化の受け入れに関する問題点】
32/181

31・お土産って喜んでもらえると嬉しいよね

前話のあらすじ「異世界の出入り口を倉庫で作ることにした」

「遅いわよ! もっと早くに戻りなさい!」


「あー、ただいま、アイツァ。元気だった?」


 大荷物を抱えたサティがお気楽そうな顔でワープホールからやってきた。あまりに普段通りだったので思わず肩の力が抜ける。もしかしたらもう戻って来ないのではないかと思っていただけに、不安になっていた自分が馬鹿らしくなった。


 ギロリとサティを睨みつつ尋ねる。


「ところでその背中の荷物はなんですか? 凄く重そうなんですが……」


「えーと、荷物、異世界の物、プレゼント。アイツァやディート師に」


 単語の組み合わせで何を言いたいのか想像する。異世界から持ってきた物でプレゼントってことはお土産のことだなと推測する。


「……お土産ってことですか? 異世界の物を私たちにあげるって意味の」


「そうそれ、おみあげ」


 サティは自慢げに笑っていた。異世界の物など貰っても使いどころがあるのかわからないが、こっちのことを気にしてくれたのは確かなのだろう。とりあえず「ありがとう」と言っておく。


 するとサティがその場で急にへたりこんだ。ワープホールが背後で閉じる。どうしたのか、と問おうとしたらその顔が真っ青だった。似たような経験が何回かあるのですぐ何が起こったかを察する。


「また魔力切れ? だいじょうぶ?」


「だいじょうぶ、たぶん」


 きつそうな表情と声色だったが、返事ができるだけマシだろう。いつもは返事をする間もなく気絶していたので、多少は魔力の使い方が慣れてきたということなのだろうか。


 それにしても、とアイツァは思う、サティの空間魔導はとても燃費が悪い。アイツァが本気で魔術を使っても30分近くは行動できる。それに比べて悟は、色々実験して確認した感じ、概ね3回も使うと魔力切れを起こしだす。体内魔力は一日もすれば元通り全快するようだったが、それにしても3回しか使えないのは使い勝手が悪い。その分、効果は絶大なのだけれど。


「少し休憩してから工房に戻りましょうか。サティはそのまま座ってていいよ」


「はい、わかった」


 手早く焚き火の用意をすると二人で囲んで座る。ついでにサティが居ない間のことについて話した。ベーラの街でファリアブルーの薬が案外高く売れたこと、ディート師にサティが異世界に帰ったことを話すと「もう戻ってこないかもな」と諦めていたこと、ベアチェは逆に帰ってくるんじゃないかと言っていたこと。


「あとサティがベーラと師匠の家を繋いだワープホール、まだ残っているわ。師匠のワープホールを維持する魔術具はどうやら成功したみたい」


「よかった。苦労した、報われた」


「そうね、もう二度とあの石板運びはやりたくない……」


「アイツァ、あまり運ぶ、しなかった」


 サティに睨まれた気がするが、気にしないようにして目を背けた。実は師匠が皇帝命令でワープホールを各街に設置するために魔術具を量産していて、それを設置するのが自分たちの役目だ、なんてことは言わないでおいた。言ったらサティはその場で異世界に帰ってしまいそうだったからである。


 少し休憩して魔力が回復したらしいサティは顔色が良くなっていた。魔力回復したてでワープホールを作ってもらうわけにはいかなかったので、大荷物を抱えて歩いて帰る。この異世界とつながっているこの場所をわかりやすくするため、道中の木々を大きく削って作った目印を何個も作っておいてある。今度から一人でもこの場所に来れるだろう。


 直線距離だと意外と近かった。2時間もしないうちに工房につく。落ち着いてお茶でも飲みたかったが、サティが何やら大荷物を漁っていたので聞いてみる。


「それ、中には何が入ってるの?」


「いろいろ。アイツァ、おみあげ」


 覚えたばかりの「お土産」の発音は他の単語より一段と怪しいが、聞き取れないことはない。いろいろリュックから荷物を取り出して机の上に並べる。アイツァは出てくる物が軒並み見慣れない物なので困惑した。どれもツルリとした見たことない入れ物だったり、半透明の何かに包まれている物だったり、見ても用途が分からない物だったり、つまりよくわからない物ばかりだ。好奇心が刺激されて身を乗り出して見ていた。未知の物なので触るのは躊躇われた。


「……なにこれ?」


「それ、髪、洗う、薬」


「……髪を洗う薬?」


 質問をして答えを貰ったらさらに疑問が増えてしまった。髪を洗う薬とはなんなんだろうか、普通の石鹸でいいんじゃないか?


 見てわかるものはともかく、見ても何に使うのかわからない他の物はどんどん指差して聞いてみる。


「これ、食事、お湯でできるもの。こっち、開けるだけで食べれる。鉄? たぶん鉄製、入れ物。これ、引っ張ると開く。これ、洗剤、服の汚れ落とす。入れ物、プラスチック、異世界の素材。プラスチックは、あー、説明、難しい。これ、文字書く、筆とは違う。これもプラスチック。これで文字、消せる。これ、紙」


「紙!? こんなにたくさん!?」


 半透明な何かに包まれた白い板だと思っていたが、なんとこれは紙の束だったらしい。予想外すぎてびっくりした。


「そう、これ、アイツァとディート師におみあげ」


 サティは半透明の何かに包まれた紙の束のうちいくつかを無造作に渡してきた。慌てて受け取ったが、この半透明の包みの取り方がわからない。困って上下左右くるくる見まわしていると、サティが気付いてくれたのか、半透明の包みを取ってくれた。なるほど、開け口も半透明だったので見落としていたようだ。


 大量の紙を取り出して驚く。物凄く綺麗だ。羊皮紙のように色がまばらについているわけでもなく綺麗な白で、しかもまっ平らで大きさまで整っている。それがまったく同じ見た目で"150"枚近くあるというのが凄い。紙の全体に薄い水色の線が何本も走っているのと左側に開いているたくさんの穴が気になったが、それくらいは何の問題もない。こんな高品質な紙など、帝都へ行っても早々お目にかかれないだろう。そもそも手触りが羊皮紙ではない。どうやってこれだけの物を作ったというのか。


 恐る恐るサティに聞く。


「……これ貰っていいの? 凄くお金かかったんじゃ……」


「異世界だと、紙、安い。たくさんある。気にしないで」


 驚いているアイツァに満足したのか、サティはご機嫌のようだった。他の物はよくわからないものも多かったが、この紙だけでお土産としては十分過ぎるほどだ。


 サティがおもむろに細長い棒状の物を透明な袋から出した。先程の説明では筆のように文字が書けるらしい。その筆もどきで白い紙に文字を書いて見せた。なるほど、紙にあった薄い青い線は文字を書く目印になるのか、と感心した。書かれた文字も不思議で、万年筆より細く薄い文字なのに、しっかり読める線だった。また異世界の言語なのだろうか、非常に複雑で書くのが大変そうな文字だった。そしてまた白と青の四角い物を取りだした。白の部分で先程書いた文字をごしごしこすると、なんと文字が消えてカスのようなものだけが紙の上に残った。まさか紙を削って文字を消したのか? こんな薄い紙を?


 好奇心の赴くまま筆もどきと四角い白い物体を色々使ってみた。筆もどきの先端は折れやすいらしく、何度も折ってしまったが、筆もどきのお尻の部分にある出っ張りを押すとすぐ先端が元通りになった。不思議な代物だ。細くて薄い線に慣れてくると、かなり書きやすいことがわかった。白い紙の表面がツルツルだからなのか、それともこの筆もどきがそういう性質なのか、あるいは両方なのかまではわからない。横からサティがニヤニヤ笑っている気配がしたが、それに構うどころではなかった。


 サティは「残りはディート師とベアチェに渡す」と、まだまだたくさん中身がありそうなリュックを指差した。他に何があるのか興味が尽きないが、二人に渡すとき見せてもらえば良い話だ。今は自分が貰ったお土産の確認を優先したい。


 そして不味いことに気付いた。サティの価値である。新種の魔導の研究対象というだけでも十分価値があったが、それだけでなく、空間魔導を使ったワープホールの作成、そして異世界の高品質な代物を持ってくることができる唯一の存在であることが今確定した。利益に聡い人間に知られたらどれほどの混乱が起こるだろうか。アイツァは頭が痛くなる。ガリム砦のときより問題が大きくなりすぎている。正直自分一人ではもう抱えきれそうもない。


 そのことにまるで気付いていなさそうなサティの自慢げな顔を見て、アイツァは思わず「الطفل مشكلة كبيرة(超問題児)」と紙に書いてすぐに消した。

次話「あいさつ回り」


※ル、ルビのふり方がわからないor2 アラビア語だとダメなのかなぁ……

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