1話目 商人異世界に召喚される!
夏特有の蒸し暑さで目を覚ました。余りにも暑かったのでクーラーを点けパソコンの電源を入れる。
夏と言えば学生にとっては貴重な長期休暇だ。ただ、社会人には何も関係がない。
俺も1年前まではクーラーも何もない蒸し暑い工場で働いていた。
上司は書類整理と言う言い訳で涼しい事務所で俺達の仕事を見ているだけだ。
残業は当たり前で、無理なくらいのノルマを押し付ける。
当然1日で終わる訳が無く罵声を浴びせらせる。
先輩から聞いた話しだとエリートで出世コースに居たらしいが、不正がバレて左遷されたらしい。その苛立ちを俺達にぶつけているようだ。
皆が早く居なくなれば良いっと思っていたある日事件が起こった。
その日は特に蒸し暑い日だった。突然本社からお偉いさんが視察にやって来た。
クソ上司はそのことを知らなかったようで慌ててお偉いさんのご機嫌取りに向かった。
俺は相も変わらずベルトコンベアーで流れ作業をしていた。
途切れ途切れに聞こえてくる話しだと、ここで作っている製品の3割が不良品だったらしい。
クソ上司は真っ青になって言い訳をしていた。
何でも「ここの作業員は不真面目な者が多く直ぐにサボる」「何度も同じ事を言っているのに理解しない」「自分の事しか考えられず協調性が無い」「ここを遊び場と思っているようで遊具を持ってきている」聞いていて呆れた。
どれもクソ上司の事だ。1日中事務所でサボっているし、作業効率を上げるためにサウナのような倉庫にクーラーを設置して欲しいと言っても聞かない。事務所ではオンラインゲームやソーシャルゲームをし続けて、しまいには特典欲しさに人の携帯を勝手に弄ってゲームの登録をしていたらしい。
何故こんなクズの言う事を聞いていたのだろうか? コンベアーに流れている金属で殴ってしまえば五月蝿い口を永遠に黙らせる事が出来るのではないかと考えていた。
もし本部から来たお偉いさんの行動が後少し遅かったら俺は刑務所に居たのかもしれない。
お偉いさんはクズの話を聞いた後カバンに入っていた封筒をクズに手渡した。
クズは受け取り中の書類を見ていたが段々顔色が悪くなりしまいには崩れ落ちるように倒れた。
どうやら俺がここで働くようになる前に職員が熱中症で亡くなっていたらしい。その家族が工場の責任者を訴えたらしい。
そのことで急所本部のお偉いさんは視察をしたらしい。
会社としては工場と言っても冷暖房完備で十分な休憩時間が有るように指示していたらしいがクズはそのお金を着服していたようだ。
クズが裁判等で現場から居なくなったことで一旦工場を閉める事になった。
その間従業員は2ヶ月間の長期休暇、そして残業代と迷惑料合わせて500万を貰う事になった。
思わぬ大金が手に入ったので工場を辞めることにした。本社の人事部の人に辞表を出して辞める事を伝えた。
工場再開まで2ヶ月間も期間があったので直ぐに辞めることが出来たが「人生辛いことばかりじゃないよ! めげずに頑張って!」と人事部のお姉さんに言われた時は少しウルっとした。
取り敢えずお金も有ることだし暫くはゆっくりしたかったので、自宅のアパートでだらだらする事にした。
自宅に帰り冷蔵庫からビールを取り出して飲む、何時もより美味しいかった気がした。
何時もは仕事をしている時間なので何と無く落ち着かなかった。取り敢えず宝くじを確認することにした。
宝くじは毎月買っていた。宝くじが当たればあんな仕事をする必要も無くなるし、家で一日中のんびりと過ごす事が出来ると思い買い続けた。
だが、今まで一度も当たった事が無い。高額配当の物は全て買っているが一番安い配当すら当たらないので期待していなかった。
していなかったのだが……どうやら当たったらしい。しかも6億と3億と1億……何度か見直したが当たっていた。
初めは夢かと思った。仕事が余りにきつすぎて都合の良い夢を見ているんだと。
口座にお金を振り込んで貰い何日か過ぎた頃やっと夢じゃないと思った。
10億もの大金を持っているのだと思うと興奮した。そして真面目に働くのが馬鹿らしくなった。
豪遊しなければ一生遊んで暮らせるお金を手に入れたのだ。クズが居なくなってから運が良くなった。クズの不運が影響していたのか、もしくはクズが呪っていたのだろう。
俺はこのお金で楽しく生きていくので成仏して欲しい(まだ死んでいません)
働かなくても良くなったので以前からハマっていたオンラインゲームをする事にした。
MMORPGで複数のジョブの中から一つ選ぶゲームだったが、周に1~2回それも1時間しかイン出来なかったので商人のジョブにした。
短い時間しかイン出来ないとなるとイベントやレベル上げすら満足に出来ない。
作業のようなレベル上げや誰かに寄生するぐらいなら、商人としてお金を稼ぐ方が面白そうだと思ったからだ。
実際プレイしてみると楽しかった。始めは買った商品を少しでも高く買ってくれる露天や店に転売してお金を稼ぎ、お金が貯まったら露天にて買取や販売をした。
何時も上手くいくわけではなく、大損や一文無しになった事もあった。
それでもやり続けた。一文無しになっても良かった。大損こいても良かった。買った商品より安い物を見つけて悔しくても良かった。
自由に生きていると思ったから、それは1年たった今でも変わらない。それどころかもっと楽しくなったような気がする。
身一つで始めた商売は今や12の店舗を持ち、その内の一店舗は廃都を手に入れる事に成功した。
店舗数は多いものではないが、個人で所有している店舗数としては多いものだろう。
なんせ大きい商会は大半はギルド所有の物が多い。そして出過ぎた杭は叩かれやすい。
しょっちゅう店舗を潰そうと大量の買取や店舗の前で安い商品を露天で売ってたりする。
こんな嫌がらせは日常茶飯事になってしまった。まぁ、それでも価格競争で逆に相手の店舗が潰れたりしているので面白いが。
しかし朝早くだとインしているプレイヤーが少ない。直ぐに芋洗いのようにプレイヤーがごった返すと思うがこんなに少ないと寂しい気がする。
取り敢えず商品の価格設定をするため店舗にキャラクターを移動させた。
移動中広場に出た所でいきなり画面が発光して目が見えなくなってしまった。
画面が壊れて発光したのかもしれない。近くの電気屋で新しい画面を買ってこないといけないかな? っと思っているとだんだんと目が見えるようになってきた。
「……は!?」
ただし自分のキャラクターが着ていた服を着ていて、コスプレのような格好をした日本人らしき人達が多く居る広場っぽい場所にいた訳だが。
白昼夢だと思いたいが今まで感じたことの無い第六感が現実だと訴えている。
なんだろう? 現実世界では大金を持っているのに何故異世界に居るのだろうか? たしかにゲームは面白かったが中に入りたいとは思っていなかった。
出来るならやり居直して欲しい。俺の居ない時にして欲しいものだ!
「やり直しを要求する!」
叫んだ声は周りに奇声や叫びにかき消された。