第一話「藤乃」
この世界には、人口のほとんどが異能という特殊能力を持って生まれる。
今日もまた、新たな命が誕生しようとしていた。
「華恵様…しっかり…! 頭は見えております…!」
「っ…うぅっ…いた…痛いっ…子を産むのが、これほど…っ!」
ここは、帝都に屋敷を構える治癒師の名門・水瀬家。
水瀬家の若き当主は、同じ治癒師一族の娘・華恵を妻に迎えた。
それから一年。
華恵の身体には、新たな命が宿った。
水瀬家一族は、両手を挙げて喜んだ。
なぜなら、水瀬家には代々言い伝えがある。
『水瀬家の第一子には、代々、比類なき治癒の才が宿る』ーーと。
十月十日、華恵の体内で命を育んでいるうち、分かった事がある。
それは、華恵の体に宿った命が双子という事。
「おぎゃあっ! おぎゃあっ!」
「う…生まれました…! 可愛らしい…女の子です!」
一人目を取り上げると、産婆が処置をして華恵に赤子の顔を見せた。
生まれたばかりの子を愛おしそうに見つめ、涙がぽろりと一筋流れた。
その五分後、水瀬家の運命を変える二人目の産声が響いた。
「お、おぉ…! なんという事でしょう…この赤子…」
産婆が二人目を取り上げると、赤子の容態に目をぎょっとさせた。
その声に、お産の手伝いをしていた水瀬家の女中が集まってきた。
「まぁ…この子が才能を受け継いだ子…!?」
「凄い…流石は水瀬家に生まれた子」
口々に、水瀬家の将来が安泰する可能性を秘めた第二子を崇めた。
第二子の体は神々しい光に包まれ、命懸けの出産を終えた母の体も光に包み込むと、みるみる容態を回復させたのだ。
女中達の騒ぎを聞き、水瀬家当主が部屋に入ってくると光に目を奪われた。
「これほどの治癒の力…」
「旦那様。そちらは第二子で御座います」
「第二子でこれほどとは…ならば、姉はどんな力を見せてくれたのだ?」
第一子を抱きしめ、愛おしそうに見つめながら尋ねた。
「いえ…その子は、まだ…」
女中が気まずそうに答えたが、当主は狼狽えることはなかった。
「そうか…まあ、七つになるまでには開花するだろう。華恵、でかしたぞ。こんなに凄い力を持つ子を二人も産んだのだから」
「あなた…」
出産を終え、その事を褒められれば華恵の目には嬉しい涙が浮かんでいた。
誰もが思っていた。
第一子である姉は、それ以上の奇跡を見せてくれるのだと。
しかし、一年。
二年。
三年ーー。
月日が流れても、
第一子・藤乃の異能は目覚めなかった。




