1 烈火の魔術師
「グレン!行ったぞ!」
「あいあい!」
届く声の焦燥に、返る声は軽快だ。
眼前の獲物を袈裟掛けに切り倒し、その足で馳せる。
魔獣の牙が後衛に届く前にと、その身がトンと跳躍した。
深紅の髪と炎を纏った剣が、空に赤い軌跡を描く。
太陽を背に振りかぶった剣が影となり、ダイアベアを
頭頂から両断する。
ジュッと音がして、上がるはずの血飛沫が燃え尽きた。
「助かる!」
「おうさ!」
にやりと叫び返しながら、紅蓮は飛びついてくるシャドウウルフを二体まとめて切り裂いた。
「グレン!!!」
悲鳴のように名前を呼ばれた。
向けば前衛二人がベアとウルフの混成部隊に囲まれている。
「テレポル(転移)!」
紅蓮は跳んだ。剣はシュン!と指輪に収まる。
背後へ出ると二人を両脇に抱え、真っ直ぐ上空へ浮く。
「どうする?」
「燃やして良い!」
「あいあい♪」
飛び掛かろうと身を低く構える一匹のウルフを目に映しながら、紅蓮は息を吸い込んだ。
「【イグニス・アルデンス(赫く烈火)】!」
轟!と魔物達の足元から閃光にも似た炎が立ち上がる。跳躍したウルフをうねる炎が地面へ引きずり下ろす。
視覚を奪われた獣達が焔に絡み取られ、ドゥッと地面に倒れ伏し、炎の餌と成り果てる。
「あっっっっっづい!!!」
「燃える燃える燃えちゃう!!!」
紅蓮の両脇から悲鳴が上がった。
「あ。」
紅蓮は慌てて二人を抱え直し後衛の元へ飛んだ。
「もー!炙り焼きになるかと思ったじゃない!」
抱えていた片方がぷんすかと怒る。
その長い髪の一部がチリチリと焦げている。
紅蓮の燃え立つような癖毛が、しゅんと項垂れる。
「いや、助かった。うっかり囲まれてしまった。」
もう片方が頭を下げる。そのマントの裾が焦げている。チリチリの方が倣うように慌てて頭を下げ、紅蓮は、
にへ、と笑った。
見た目は二十歳ほど。膝までのブーツに細身のズボン。チュニックの上に革の編み上げベスト。深紅の瞳の眦を下げて笑う姿は、ともすれば駆け出しの冒険者にも見える。
ただ、腰まで暗紅色のマントと、指に嵌った同色の宝玉がその存在を誇示していた。
「烈火の魔術師殿。助力感謝する。報酬は契約通り、
ギルドに預けておこう。」
貫禄たっぷりのパーティリーダーが口にした。
それが、紅蓮のA級冒険者として、そして傭兵としての通り名だ。
通り名と言えば、「グレン」も本名ではない。
彼女の名前は「紅蓮の魔女」。
その名で呼ぶ者は、魔女仲間しかいないのだけれども。




