↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/17

十七話



 ククリカは暁旅団の五人の男衆、そのうちの一人を目深に被ったフードの陰から盗み見る。

 それは、ドワーフ族の鍛治師だった。

 赤茶け痛んだ長髪を、ドワーフ族特有の三つ編みで所々結んで垂らし。手には身長ほどの大鎚。背の低さと反比例した恰幅の良さ。

 どれも間違いなく、ドワーフ族特有の身体的、職業的特徴である。

 名前はイザーク、トンツク、シンダオのどれかであるが、ちゃんとした自己紹介もなく今に至るので判然としない。


 がしかし、おそらく名前はトンツクだろう。

 それっぽい。語感的に。まずもって王国由来の名前ではない。

 黒づくめのアサシン装束の男の装飾は、異国の銀細工――それも極東地方で見たことのある紋様なので、名前との親和性を考えると、シンダオで間違いないはずだ。

 そうなると、消去法で残りがイザーク。弓使いのレンジャーという事だが、もしかしたら出身は北方の“寒空型大森林連邦国”なのかもしれない。

 と、ここまで推理するククリカ。

 トンツクが魔王の配下であると疑っているのに理由はあるが、確たる証拠があるわけではない。

 今はまだ動くべきでないのだが、トンツクから目を離さず観察は続けようと考えた。

 フードをさらに目深に引っ張り、どこかでさっさとロイに確認を取らなくては、と。ククリカは気配を消すように、暁旅団の面々の会話に耳をそばだてる。


「か、あっ、ろ……ロイ君。キミ、無事だったんだね。そんな、まさか。どうやって」

 座っているのでロイを見上げる形のベルート。困惑と驚きの表情を浮かべている。

 ダスタニャンに続く旅団のメンバーも、あんぐりと口と開けて同様の表情だ。

 否――ドワーフのトンツクを除いて。

 確かに一見、驚いている様に見えるが、その瞳はどこか落ち窪んでいて虚(うつろ)だ。芝居がかっている。ギラリと目を光らせるククリカは、内心で毒吐いた。

「どうやって? んー、普通に……倒しただけだよ、私は」

 血に濡れたドロドロの臭い衣服を物ともせずに、ロイは淡々とそう言い放つ。


「倒したっ!? あの数をかいっ!?」

 裏返った素っ頓狂な声――もはや悲鳴に近いそれが、ベルートの口からまろびでる。

「……いや、がはっ。いやベルート。そんな訳があるまい。ははっ、いやいやいや、あの数を単騎で凌げる者など、もはや伝説のSSランク冒険者、蒼穹の竜殺し(ドラゴンころし)に匹敵してしまうではないか。

 ――いやいや、それはないだろうっ。おおかた若者特有の、話を盛大に盛る類のものだ。話半分に聞くのだベルート。我々冒険者、映像なければ如何様に。それが鉄則であろう」

「あ、ああ……ダスタニャン。そう、だな。うん、すまない。少し取り乱した。確かに、この目で映像で確認するまでは信じるな、が鉄則だものな僕たちはっ」

 まるで自身の正気を取り戻そうとするかの様に、ベルートは胡座をかいた両膝に、とんとんと拳を叩きつける。


 ベルートとダスタニャンの会話は、ロイにとっては大分失礼な内容になっているはずだが。当の本人はそんな会話には全く興味がないようで、

「あー、そのククリ……あ、いや。プルリオねぇさんにニャー、替えの服とかない? だろうか」

 ぺったぺった歩いて、ロイはククリカとニャームゥに近寄る。

「うっ、待て。それ以上近寄るなロイ」

 ククリカはあからさまに袖で鼻つらを抑えて、残った方の手でロイを制す。

「うぅ〜、(くっさ)……ロイ様ぁ、着替えですねぇ。一応、ニャーの寒かった時用の羽織(ショール)あるので、これ使っても良いですよぉ」

 もちろん、これはもう要らないので後で捨てて下さいぃ。と、鼻を摘んだままのこもった声でニャームゥは応答。

 そこから自身の小さいバックパックに手を伸ばし、取り出した羽織をロイに手渡した(実際は放って渡した)。


 ロイはドロドロの軽装鎧上を脱ぎ、地面に捨てる。着込んでいたインナーも同様だ。

 それからニャームゥに貰った羽織。女性用にしては大きめの羽織だったが、やはりロイの体には若干小さい。しかし仕方がないので無理やり着る。

 肩まわりはパツパツだし、腹から胸部にかけて前が閉まらないので、そこも無理くり端と端とを強引に結ぶ。

 それでどうにか一応着ている体(てい)を取り繕うのだ。

 胸部は胸筋を強調するように開いてしまっていて、腹部は丸見え。女性物特有の花柄なのも含め、どこか陽気な観光客風の様相になった。サングラスでもかければ、いわゆる勘違い成金が出来上がるかもしれない。

 それに関しては、誰も突っ込まなかった。


 ロイの奇跡の生還から、一同はなんとか気を取り直し。これからを話し合う。


「んでんでー? メリル救出は続けるの? それとも一旦戻るー?」

 アガスティアがベルートに投げかけた。

「うん。今、態勢を立て直す為に戻ってしまったら、メリルの生存確率は限りなくゼロになるかもしれない。それでなくとも、遭難から十時間以上が経過している。一刻の猶予もない。だから……」

 苦々しくも、力強い眼差しをアガスティアに送るベルート。

「やだベルート、かっこいいじゃん。そうよねそうよね、メリル救出は今しかないわよねっ。みんなもそうでしょ? 今っ! 急なアクシデントに見舞われたからって、逃げ帰ってるようなあたし達を見たい奴、こん中にいるーーーっ!?」

 アガスティアは自身のスマホにズズイと顔を寄せ、「いねぇーよなっ!」と、現在王国で若者に流行りの文芸書(その登場人物の有名なセリフ)から引用して雄々しく叫ぶ。

 それから、

「見てっ」と、スマホをベルートに向けた。


「みんな……」

 感極まったような声を発するベルートに。他の面々も次々とアガスティアのスマホの画面を覗く。

「同接五万人! 過去最多の同接人数じゃないかティア!」

 ダスタニャンが声を荒げ、他の三人も大きく頷く。

 もちろんこの際もククリカは、トンツクの挙動をしっかりと見ていた。(なんだこいつは。見れば見るほど動作が遅いし、周りの反応を見てから自分の反応を決めているような、そんな違和感。人を真似るのは大変か? 魔王の配下よ)と、ニヤリと笑う。

 

 ベルートは静かに立ち上がり(鎧のガチャガチャ音はうるさい)。

「みんな、このまま進む。いいね? 降りたいやつは降りてもいい。ここからは命懸けだ。死ぬか……メリルを助け出せるか。その二択」

 真剣な眼差して同調圧力を増していくベルート。自分にはどこにも非が無いと言わんばかりの、根拠のない自信を全身にみなぎらせた。

 そんな若者が嫌いなククリカは心底反吐が出ると眉根を寄せる。

 が、本来なら若造の冒険者ごっこ(多少なりとも優秀であっても)に付き合うことには全力で反対するし。勝手にやってろよ、というタイプなのだが。

 魔王の配下の事もある。

 これからもう一度準備するために、地上へ戻られた方が面倒だ。

 遭難から十時間以上経過というだけで、ほぼメリルという冒険者の生存は絶望的なのに。戻ったら尚更なのは、ククリカも同意見。

 行って戻ってを繰り返せば、トンツクがパーティを離れる可能性もあるだろう。


 だから、

「私もベルートに賛成だ。メリルとやらの救出は、今しか無い。この機を逃せば助かる命も無駄になろう」

 と、ある程度の誘導を仕掛ける。

「だよねだよね、プルリオねぇさん! 伊達におっぱいはデカくないね! あはっ」

 アガスティアのあっけらかんとしたその言葉に、ククリカは誰にも見えないように、ギュッと拳を握って微量だが肩を振るわした。

 近くのニャームゥはもちろん気付き、はわわと師に寄り添う。


 ロイはといえば、

 髪についた臭い血糊をまるで整髪料替わりに使い。

 両手で髪を掻き上げる。

 それは誰にも見られていなかったが、本人は血糊のオールバックを大いに楽しんでいるようだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。