第二章 そうちゃんって、泊まらないよね。
雨の日が続いている、梅雨の土曜日。
私は三年生になっていた。
窓の外を眺めながら、朝ごはんの
りんごをフォークで刺して、かぶりつく。
しゃり、しゃり、しゃり。
りっくんはもう食べ終わったらしい。
テレビを見ている。
「そういえば、ママは?」
「なんか、迎え行った。」
「誰を?」
「……しらん。忘れた。」
テレビから目を離さない。
最近のりっくんは、
“しらん”“忘れた”“あっそ”が多い。
一年生になってから、あんまり喋らなくなった。
まぁ、別にいいけど。
ガチャ。
玄関が開いた。
「めっちゃ濡れたねぇ」
「いやー、助かった、迎え来てもらって」
ママが誰かと話しながら入ってくる。
その後ろから、来たのは……
……だれ?
りんごを持つ手が止まった。
りっくんも振り返る。
顔に、でっかく“だれ?”って書いてある。
その人は私を見て、手を振った。
「あ、すっちゃん? おはよ〜。
りんご美味しそうだね〜」
なんで、私の名前知ってるの。
「青葉、そこらへんに荷物置いてていいよ」
「あいよ〜」
青葉。
私の知らない人。
ママはタオルを渡しながら言った。
「ママのお友達の青葉ね。あおちゃんって呼ばれてるよ。二日くらいうちに泊まるから。」
泊まる?
うちのアパートに、誰かが泊まる?
今まで、なかった。
「どこに寝るの?」
「リビングに布団敷くよ。おばあちゃん家から借りてきたから。」
あぁ。
この間、部屋の隅にあったあれか。
うちって、泊まれるんだ。
家族以外の誰かが、
家の中にいる。
それが、ちょっと変な感じだった。
青葉ちゃん。通称あおちゃんは、
私の向かいで、ママの作ったお味噌汁と卵かけご飯を食べた。
「おいし〜。やっぱ日本の卵は違うね」
そう言いながら、ぺろっと食べて、
そのままソファーで寝た。
……何しに来たんだろう、この人。
りっくんも同じ顔をしていた。
不思議そうに、あおちゃんを見ている。
「あおちゃんは海外に住んでるから。
時差ボケってやつだね」
ママはそう言って、ブランケットをかけた。
海外。
なんか、すごい。
でも、よく分からない。




