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金と菫と百合のドレス/リリア

 




 久しぶりの学園は率直に言って最&高だ。

 お陰で毎日、清々しい朝を迎えられている。早起きは苦手だが、鳥は歌い朝日が煌めき世界が今日という一日を祝福する、恋する乙女フィルターが発動するのだ。


 登校さえすれば絶対にエリック様の顔を拝める上に、先日は好き嫌いの話も聞けた。親しい人しか知らないと微笑むエリック様の顔は眩かった。後光で目がやられる。



 エリック様の好きな人は、彼の好みを知っているだろうか。

 情緒不安定にもそう思うと黒い靄のようなものが心を掠めるが、そんなことを考えていても仕方がない。彼が幸せになれるように、彼の恋を見守るのだ。


 彼の恋が実るまで、婚約が無事破棄されるまで、心の中で思う存分彼を好きでいる。好きな気持ちをやり遂げた時、エリック様への気持ちは、彼を推しとして崇め奉るファンの心に昇華できると信じてる。たとえ多少の痛みがあっても。


 そんな調子で毎日、痛みと幸せとで胸はキリキリ音を鳴らしていた。

 そしてもうすぐ、舞踏会がやってくる。


 ◇



「お嬢様。フォンドヴォール公爵家より贈り物が届きました」



 侍女のアンナが恭しく持ってきた大きな包みに、私はうわああ……! と感嘆の声をあげた。

 こちらを、といってメッセージカードを渡される。エリック様の美しい文字が丁寧に書かれたそのメッセージを見た。



『ドレスを受け取ってくれてありがとう。

 美しい君と踊れる最良の日を楽しみにしている。』




 イタリア人も裸足で逃げ出すであろう殺し文句に撃ち抜かれ瀕死になった私にあらあらうふふとアンナが微笑む。



「最近のお二人の姿を、アンナはとても嬉しく思っています。結婚が楽しみですね」


 いえ、結婚しないんですけどね。

 アンナの言葉に一瞬冷静になったけど、やっぱり微笑みは止められない。


 あーあ、まかり間違ってエリック様の好きな人私だったらいいのに。こんなの九割九分私じゃないか。もしかして私が思うより私の表情筋、死んでるのではなかろうか。


「ねえアンナ。私って、感情表現が下手だったりしないかな?」


 私の質問にアンナは目をぱちくりとして、いいえ、とっても表現豊かですよ? と首を傾げた。


 悲しい。



 ◇



 届いたドレスは、それはそれは美しかった。


 薄く淡い金色の生地が幾重にも重ねられ、見事な金色のグラデーションを生み出している。


 デコルテや肩先が出ているオフショルダーのドレスだけれど、二の腕から手首までレースで覆われていて、露出はあまり高くない。


 胸の部分には散りばめられた菫色の宝石と濃い金糸で百合の花が描かれていた。

 百合はフォンドヴォール公爵家の家紋の一部に使われている。そんな大切な象徴を私が着るドレスに使われているとは、かりそめの婚約者に与えられるドレスとしては分不相応ではないだろうか。恐れ多い……。


 金の濃淡が濃くなっていく裾は、華やかな刺繍が菫色の糸と宝石で描かれていた。

 これでもかというくらい、贅を尽くしたドレスだ。


 その場でくるくる回ってみる。裾が揺れると宝石がきらきらと反射した。なんて綺麗なんだろう。


 あまりにも嬉しくて、少し涙が出そうだ。


「なんて美しいドレスでしょう……生地は最高級のキャランが使われていますね。軽くて美しく透ける生地が大変人気なんですが、非常に希少なものです」


 流行やおしゃれに詳しいアンナが感嘆のため息をついて言った。私は生地に詳しくないけれど、この肌触りや軽さや美しさで、とても良い生地だということがわかる。つまりすごく高価なんだろうな……汚したらどうしよう。



「すぐお礼を書かなくっちゃ」


 髪型はどうしましょう、アクセサリーは、と真剣に考え始めたアンナに声をかける。

 間違いなく、人生で一番最高の贈り物だと思う。




 ◇



 舞踏会前日。


 馬に申し訳ないほど早く馬車を走らせ、早々に学園から帰宅した私はアンナの手によって舞踏会の準備に大忙しだった。

 夕食は、サラダ一皿のみしか許されなかった。確かに控えめにしようとは思っていたけど、悲しい。


 食事のあとはすぐにお風呂に連行される。無駄口を叩かず数人の侍女に指示しながら手を動かすアンナの顔は、鬼気迫っている。何かの上官のようだ。大人しく従う。


 贅沢にたっぷりのお湯を使用し、お姫様のよう……というよりはトリミングされている犬のように洗われた。

 全身泡まみれでゴシゴシ磨かれ、良い匂いのする塩をすりこまれ、流されたかと思ったら全身に謎のヘドロパックを塗り込まれる。妖怪だ。呟いても誰も笑わなかった。


 ヘドロをお湯で洗い流し、良い匂いのオイルやらミルクやらをこれでもかっ! と塗りたくられ、超激痛マッサージを施された。


 肌はものすごくトゥルトゥルで、体もめっちゃ細くなったけれど、すでに息も絶え絶えとなっている。痛すぎて明日、踊れるかわからない。あざになってないのが不思議だけれど、これがプロの成せる技なのだろうか……。



 終わる頃には私を含め全員がぜいぜいと肩で息をしていた。アンナたちにお礼を言うと、みんな良い笑顔で明日の成功を祈っていると言ってくれた。喉元まで何かがこみあげてくる。


 彼女たちが思うような関係ではないから、ここまで手を尽くしてもらって申し訳ないのだけれど、好きな人との初めての舞踏会だ。

 こんなにピカピカトゥルトゥルで臨めるのは本当に嬉しい。

 まあ、袖のあるドレスだから肌を触られることはまずないけれど、気持ち、大事。



 今日は早く休むように言われて、いそいそとベッドに潜り込む。前に貰ったぬいぐるみのたまべえが待っていた。ずっと名無しだったけれど、最近エリック様の好きなものにあやかって名付けてみた。和風で良い。


 たまべえを抱きしめ、明日の舞踏会に思いを馳せる。緊張で眠れないかと思っていたけれど、疲れていたのかすぐ眠りに吸い込まれた。









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8/12 コミカライズ1巻発売です!
よろしくお願いします!
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― 新着の感想 ―
[一言] たまべえ! ネーミングセンスが最高です(笑)
[良い点] 控えめに言って天才だな… 私、なろうで天才ここまで連呼するの初めてかもしれない。 基本婚約破棄系統見ないんですが、これはすごくいい。
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