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ルブア軍を刺激しないよう少し離れた所ヘリを地上に着けてもらい、石田はヘリを降りる。
「間宮もヘリを領に一度戻してからこちらの手伝いに来てくれ!」
『了解しました』
ヘリは再び空へ舞い上がり、そして転移していった。
―キーザザー・・・
石田が後ろを振り向くとトラックが石田の側に止まっていた。
「司令~、乗ってくださ~い」
助手席のナイチンゲールが窓を開けて顔を出し呼びかけてくる。石田は走り荷台に飛び乗った。荷台にはすでに瑞山と湯川が座っていた。そしてその荷台の真ん中にはロックリザードの死体が2つ。石田が乗ったことを確認してトラックは動きだした。ルブア軍のそばまで走る。
『私たちは治療して回ってますので、司令はルブア軍の指揮官と話をつけてきてくださ~い』(ナイチンゲール)
「・・・了解」
『ミノリとタツコは司令が攻撃されないよう、警護してね~』(ナイチンゲール)
「了解しました」(瑞山)
「お~けい」(湯川)
トラックが止まる。石田は荷台を飛び降り、周囲を見渡す。ルブア軍の兵士たちはどうもこちらを警戒しているようだった。中には槍をこちらに向けて構えている兵士もいた。
距離は離れているものの槍を向けられて石田はビビる。ドキドキしながら冷静に考える。
(そりゃ・・・まぁ、よくわからない乗り物に乗って、見たことのない服を着た異邦人ともなれば警戒する要素は満載だよな・・・さて、どう警戒を解くか・・・)
トラックのエンジンが止まりサイドブレーキを引いた音がした。続いてドアが開く音がする。停車操作を完了して京藤達がトラックを降りたのだろう。背後でも瑞山と湯川が荷台から降りた音がした。
4人の美女がトラックから降りたことで、ルブア兵士たちの間に動揺が走った。
(・・・あぁん?どこの世界も男は女にゃ弱いってか!?)
戦闘を終えて若干ハイになっている石田は不快感を覚えた。石田はイラついた気分そのままにルブア軍の本隊に向かって歩き出した。すると後ろから湯川と瑞山の会話が聞こえた。
「みのり~・・・なんでランチャー構えてんの?対人戦ならAA-12の方が向いてない?」
「えぇ。でも、先ほどの戦闘を彼らは見てたんですよね。だからこの武器の威力を知っています。だから見たことないAA-12よりこっちを構える方が効果が高いかと思って」
「・・・あぁ~なるほど!賢い。あたしもそっちにしよっか?」
「いえ、2人ともMBT LAWでは万が一に対応できません。タツコはそのまままでお願いします」
「おっけー」
会話の内容に驚いて石田が立ち止まり振り返る。瑞山はMBT LAWを、湯川はAA-12をそれぞれ周囲の兵士に向けて構えていた。京藤とナイチンゲールもそれぞれドアの側で武器を構えていた。
(あー・・・そりゃ動揺が走るわけだわ・・・って!そうじゃない!)
「コラッ!2人とも!戦闘しに来たんじゃないんだから、武器はしまえ!」
「司令。それでは警護任務に支障が出ます。それに武器を先に構えたのは彼らです」
「そーそー」
「・・・はぁ~・・・」
2人は頑として構えを解くつもりはないようだった。石田は2人の態度に若干頭を抱えたくなる。石田はルブア兵らの方に向き直り、大きな声で語りかけた。
「私たちは戦闘しに来たわけではありません!武器を下ろしてください!」
ルブア兵たちはお互い顔を合わせどうしたものか悩んでいるようだった。
「全員!武器を下げよ!」
突然女性の声が本隊の中から響いてきた。そちらに視線をやると周囲の兵士より質の良い装備をした3人が歩いてきていた。その女性の声を受けてルブア兵はそれぞれ武器を下げる。石田が振り返ると瑞山と湯川も構えを解いていた。それを確認して石田は近づいてくる3人に視線を戻す。
3人は2人の男性と1人の女性だった。2人の男性は40代の老練さをうかがわせる屈強な男と、30代前半でボディービルダー体形をした男だった。そしてこの2人の男性から1歩下がった位置に例の声を上げた女性が続いていた。この女性は見た目がアレーシャによく似ている。ただ、その身長がとても高く男性にも引けを取ってない。アレーシャの身長を高くし男装の麗人にした感じの女性だった。
石田はアレーシャによく似たその人物が部隊の指揮官だと判断し、名乗りを上げる。
「私はカズヒデ・イシダという。冒険者だ。ロックリザードを討伐する依頼を受けてこの辺を捜索していたところ皆さんが襲われていたのを発見し助けに入った!」
「助太刀感謝する!私はルブア第5兵団隊長、ロミナ・クルスーム!冒険者とのことだが冒険者証を確認させてもらえるだろうか?」
「分かりました」
石田はズボンのポケットから金属製のプレート2枚(冒険者証)を取り出す。そして3人の元へ歩き出す。石田に合わせてボディービルダー体形の男が歩いてきてそれを受け取った。男は受け取るときに石田に話しかける。
「すまない。ここで待っていてくれ」
どうやら完全に石田達を信用したわけではないらしい。石田は素直にその場で立ち止まる。男はイシダの冒険者証をもってロミナ達の元へ帰っていった。男はロミナに冒険者証を手渡す。3人で冒険者証を眺めて不審な顔をした。40代の男が尋ねてきた。
「イシダ殿。すまないが、この冒険者証はFランクを示すものだ。Fランクは簡単な素材収集系の依頼しかこなせないはず。ロックリザードの討伐依頼というのは?」
「それは確かにFランクの冒険者証だ。私たちが冒険者として登録したのがおとといの事。冒険者として登録する際にアレーシャ・クルスーム様から推薦状をいただきまして、ただいまDランクへ昇級するための試験を兼ねた依頼をこなしているところだ」
「ほぅ?アレーシャ様から?その推薦状は今あるのか?」
「いえ。冒険者組合の方に提出しています。今手元にはありません」
「ふむ・・・。それもそうだな・・・」
石田達を警戒しているのは明らかだった。何かしら安全が確認できるものが無いか探っているよだった。
(う~ん・・・どうも警戒されているな・・・。はぁ・・・もう治療せずに去ってもいいか?)
「警戒されるのも、もっともかと思う。しかし、今負傷者の方々が苦しんでいる。そして私たちには治療を行えるものがいる。よろしければ治療を手伝いたいと思うのだが・・・どうだろう?」
「・・・ふむ。それもそうだな。その治療には同席しても?」
「えぇ。かまいません。むしろ手伝っていただけた方が助かります」
「・・・ロミナ様、どうでしょうか?」
「治療をお願いしたい。もちろん、必要なことがあれば言ってくれ。可能な範囲で手を貸す」
「分かった」
石田は振り返り、トラックの方に体を向け指示を飛ばす。
「救援活動開始!」
「「「「了解!」」」」
「司令!病院天幕の召喚を要請します!」(ナイチンゲール)
「要請を確認。これより天幕を召喚する」
「感謝します!イクちゃん。付いてきて!」
ナイチンゲールが駆けだす。京藤もそれに続いてかけて行った。石田はタブレットを取り出し、トラックの隣に天幕を召喚する。
「なんだあれは!?」
「何もないところから天幕が!?」
初めて召喚を見たルブア兵たちが驚き声を上げる。
召喚を終えた石田は、ロミナ達の方へ振り返った。
「今から、治療を行います。負傷者をあの天幕の周辺に集めてもらえますか?」
「・・・あっ・・・あぁ。わかった」
~~~~~~~~~
ルブア兵たちの協力もあってほどなく負傷者が天幕の周辺に集められた。その中をユニットと石田が動き回る。まず、京藤と石田が全員にファーストエイドや治療キットを投げつけて回る。そして治療を受けた者たちを湯川、瑞山、間宮がトリアージして回る(ナイチンゲールが3人にトリアージのフローチャートを渡しその診断を任せた)。そしてトリアージで緊急治療が必要と判断された者をナイチンゲールが病院天幕に運び簡易自動診療装置にかけて行った。
なぜ回復させその後トリアージし、簡易自動診療装置にかけるのか。このことに疑問を持った石田はナイチンゲールに尋ねた。
「それはですね~、治療キットなどは怪我した部分を治療する機能はあるんですが・・・それだけなんですよ~。例えば頭を強打して脳内出血を起こした患者にそれを使えば脳内出血を止められます~。しかし、脳内血管で発生した血栓を取り除いてくれるわけじゃないんです~。そのまま放置すると脳梗塞を起こす可能性がありますからね。万が一のための検査です」
とのことだった。実際、あのロックリザードに吹き飛ばされ大地に強く打ち付けられた兵士が危なかったらしい。血栓を溶かすための薬を処方して事なきを得たらしい。
あとは数人腕や指を失った兵士がいた。そういった兵士を相手にちょっと実験を行った。フォックス族の時失った四肢が再生するという現象が確認された。その時は京藤達によって応急処置が行われたあとでファーストエイドを与えると欠損した四肢が再生した。そのことを思い出しながら色々と試したところ、どうやらファーストエイドと治療キットの効果が重複すると失われた体も再生するということが分かった。あと、体の一部が失われ失意の中にいた兵士にはものすごく感謝された。実験をしていたというのが、少々申し訳ない気にさせられた。
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時間にして3時間程度で全員の処置が終わった。処置が終わるころにはすっかりとルブア兵たちの信用を勝ちとっていた。
「司令。全員の処置完了です。1名ほど経過観察が必要な方がいますが、全員の処置を終了しました~」
ナイチンゲールから報告を受けた。
「お疲れ様です。ルブア軍の隊長さんたちに説明を頼む」
処置の最初のころはあの3人が後ろをついて回っていた。しかし数名のけがを治療し、例の腕を失った兵士の腕を再生させたあたりで信用してもらえたようだった。その後少し遠くから離れてこちらを見るようになった。京藤とファーストエイドと治療キットを投げ終えたあと、石田は後の処置をユニットたちに任せてその3人を司令天幕の方へ案内していた。
最初はやはり中に置かれた様々なものに驚いていた。給水機から水を出してとりあえず時間を稼ぎ、その間にコーヒーを淹れた。そしてコーヒーを楽しみつつ話を聞いた。
ロミナはルブア軍の第5兵団を率いる隊長で、アレーシャの姉だった。老練な感じの男性は名前をアッバス、第5兵団の参謀を務めているそうだ。ボディービルダーな男性は名をファレス、第5兵団の副隊長を務めているそうだ。最近、第5兵団の中から数名異動があったそうだ。そのためチームワークを新たにするため、異動者がいた部隊を集めて訓練を兼ねた定期街道警備に出発したそうだ。
街道周辺のモンスターを狩りながら北上して折り返し、後はルブアに帰るだけの行程だったそうだ。突如ロックリザードが現れた。まるで何かから逃げ出すかのように全速力でやってきたとのこと。この街道はモンスターとの遭遇率が高い街道だが、周辺の草の背が低かったり、密度が低く、えさとなる生物も少ない。このためあまり大型のモンスターが現れることはない街道だったそうだ。不思議に思いつつもそのロックリザードに発見されてしまい戦闘に突入したそうだ。
そんな感じの話をしながら待っていたところ、ナイチンゲールが報告にやってきたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・です。一応当人には言ってありますが、今日一日安静にしていただかないといけない人がいます。その人だけは激しい運動やケガするような行動を避けるようにお願いします」
治療者のリストや経過観察が必要な人物についてなどを渡し解説を終えた。「脳梗塞の~」というくだりについて3人はよくわかっていない風だったが、安静にさせてケガさせないようにという事情は理解してくれたようだった。(血栓を溶かす薬は、24時間程度効果が持続するらしい。血栓は元々怪我した箇所を止血するために体が作り出すものだ。それを溶かしてしまうので、怪我をすると止血する事ができなくなっているらしい)
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ。では私はこれで」
ナイチンゲールならもっと雰囲気良く話をしそうなものだが、固い態度を維持したままそそくさと天幕を出て行ってしまった。と、ここで通信が入った。
『司令、報告です。友軍の表示のドラゴンが接近してます』
「・・・ファティか?」
『だと思います。呼びかけてみますか?』
「頼んだ」
『はい。これより接近して呼びかけてみますね』
石田が突然タブレットに向かって話し始めたのを3人は驚いた顔で見ていた。石田は電子スクリーンの前まで行き、電源を入れる。すると画面には広域マップが表示された。そこには確かに緑色で表示されたドラゴンのアイコンが動いていた。そのアイコンはまっすぐとこちらに向かってきている。そのドラゴンに向かって航空機のアイコンが接近していっている。
ロミナ達が石田のそばまでやってきて電子スクリーンを物珍しそうに眺める。そしてロミナがドラゴンの表示に気づきそれを指さした。
「イシダ殿。これは・・・ドラゴンか?」
「えぇ。そうです」
「そうか・・・その、これはいったい何なのだ?」
「え~とですね・・・」
なんと答えるべきか石田が悩んでいる間に古井がファティとの交信距離に入った。
『おーい。ファティ~?』
古井の呼びかけの声が聞こえた。
『お・・・ザザ・・・かの?』
『そうそう。突然ドラゴンが接近してきたから驚いたわ』
『ザザ・・・のぉー・・・・ザ・・・か?』
『うん。いるいる。司令。ファティで間違いありません』
「そっか。よかった。ここからだとファティまで距離があるからか、ファティの通信は聞き取れない」
『あ、そうなんですか。中継機能を作動させますね』
「頼む。あーあー。ファティ?聞こえる?」
『おおぉ!イシダの声じゃ!』
通信機から響いたファティの声に過敏に反応した人たちがいる。そうロミナ、アッバス、ファレスの3人だった。3人は腰の剣に手をかけながらすぐ抜けるような体勢を作り叫んだ。
「「「ドラゴンかッ!?」」」




