魔王さまの魔力
魔王さまの魔力
あるところに、一人の魔王がいた。
その魔王は、退屈していたので、魔力を使って異世界に遊びに行くことにした。
魔王が魔力で次元を歪めて出現した先は、現代日本の小さな一軒家だった。
その一軒家の一室には、何の変哲もない普通の高校生の少年がいた。
少年は、突然自分の部屋に黒い穴が開いたことに驚き、腰を抜かした。
少年が目を丸くしながらその穴を見ていると、中から、幼女と呼んでも差支えのないような小さな女の子が出てきたのだ。
「お、おま、お前は誰だ?」
「わしか?わしは魔王じゃ」
「ま、まおう?」
「そうじゃ。お前などとは、身分が違うのじゃぞ。うやまえ、うやまえ」
少年は、無邪気にふんふんとうなずく幼女を呆然と見つめた。
魔王?
少年の目に映っているのはどう見ても、バカな妄想に取りつかれたかわいそうな幼女だった。
しかし、その見た目に反しての妙に威厳のある態度にしゃべり。異様な穴から突然出現してきた現象。これらの否定出来ない事実はある。
よくはわからないが、自分の想像を絶した存在であることは確かなようだ。だとしたら、下手にさからわない方がいいのかもしれない。
そんなことを混乱した頭で考えた少年は、とりあえず幼女に合わせてみることにした。
「え、えーと。で、その魔王さまが、こんなところに何をしに来たんです?」
「いや、特に目的はない。暇だから来ただけじゃ。さて、何をしようかのう」
少年は自分の部屋で勝手にくつろぎだした幼女を眺めながら、ふと考えた。
もし本当にこの幼女が、アニメやゲームに出てくるような魔王なのだとしたら、こんなチャンスもそうそうない。何か頼んでみるか。どうせ、ダメで元々だ。
「ところで魔王さま。魔王さまと言うからには、当然魔力をお持ちなんですよね?」
「うむ。当然じゃな」
「じゃあ、俺にもその魔力を、ちょっと分けてみてくれませんか?」
「お主に魔力を?」
少年の頼みに、幼女が、そのくりくりした目を大きく見開いた。
こうして見ると、なかなか可愛い。
それに純粋無垢と言った感じで、与しやすそうだ。
少年は、少し調子に乗ってぐいぐいと幼女に迫ることにした。
「ええ。俺もアニメやゲームみたいに、魔法で炎出したり氷出したり、カッコイイことしてみたいんですよ。いいでしょう、ちょっとだけ」
「ふーむ?しかしのう。魔力というのは、これでなかなか貴重なものだし、そうおいそれとは……」
「そうおっしゃらずに。少しだけ。少しだけで結構ですから」
「しかしのう……」
渋る魔王に、少年はやはり無理かと思ったが、この際なのでもう少し粘ることにした。
「そんなこと言わないで。俺も魔王さまみたいに、素敵な魔法とか使ってみたいんですよ。ね?いいでしょう、魔王さま。魔王さまみたいな人って、俺のあこがれなんですよ。僕も魔王さまみたいになりたいんです。お願いしますよ。魔王さま」
「わ、わしみたいにか?む、むむむ……。そ、そこまで言われると悪い気はせんのう……」
少年のおだてに、幼女魔王がにへらにへらと頬を緩め始めた。
こいつはちょろい。
少年がもうひと押しだと踏ん張ると、ついに魔王は根負けして承知した。
「むむむ。お主の、わしと魔力に対する並々ならぬ情熱。しかと確かめた。そこまでわしを好いてくれる存在を、無下にするわけにはいかんのう。良かろう。魔力をくれてやる」
「あ、ありがとうございます」
少年は喜んで、魔王にへこへこと頭を下げた。
これで俺も、アニメやゲームに出てくるような、カッコイイ超能力者になれる。自分のそんなカッコイイ姿を想像して、少年はにたにたと笑った。
「……しかしのう、一度得た魔力は、そう簡単にはなくせんぞ?」
魔王が、そんなみっともない顔をする少年に釘を差すように言った。
「一度身に染み付いた魔力は、滅多なことでは体からはがせん。お主の体と融合し、完全に一体化してしまう。それでもええのじゃな?後悔はせんな?」
「するわけないじゃないですか。さあ、早くくださいよ。魔王さま」
「そう急かすな。こっちにもそれなりの準備はいるのじゃ。とりあえず、今日は早く寝ろ。朝になったら、魔力がお主の体に染み付いとるわい」
「そうですか。わかりました」
少年はその夜、わくわくしながら寝床についた。
次の日、少年が目覚めると、少年の体は奇怪な化け物になっていた。
緑の皮膚。獣のようなもこもこした体毛。黄色く鋭い瞳。鋭い牙。
その姿はどう見ても魔物だった。
「どうなってるんです。魔王さま。これじゃ、完全に化け物じゃないですか」
驚いた少年は、急いで魔王の元に駆けよった。
「魔王さまは、俺に魔力を与えるだけの約束でしょう。魔物にしてくれとは頼んでない。これじゃ約束が違うじゃないですか」
「そうは言われてものう」
少年の詰問に、魔王が困った顔をした。
「魔王の魔力とは、根源的には魔物の魔力だから、それを身につけた人間はやっぱり魔物に成ってしまうのじゃ。わしのような高等な魔物は人間の姿を保てるが、お前のような低級のものはそうはいかん。じゃから、約束が違うと言われても困る」
「そんな。だったら最初に、どうしてそう言っておいてくれなかったんです」
「いや、お主は何だか妙に、わしらのような存在について興味がある様子じゃったから、当然知っておるものだと思っていたのじゃが……」
もはや、どうしようもない事態だった。




