表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すわんぷまん  作者: SAME
33/33

最後のふたりたち(終幕)

 「ええ、それではお返事をお願いしましょうか」


 昨日より大分緊張のとれた黒服ボスが、相も変わらずカウンターテーブルを講演台代わりにし、部屋の中を見渡した。会場(俺の家だけど)に集まった皆も、どことなく落ち着いた雰囲気だ。


 「何か先にご質問があれば答えますが」


 「籍の件ですが……同姓同名は可能なのでしょうか?」


 「申し訳ないですが、やはり名前は変えていただきます。希望があれば新しい世帯として名前を変えずにつくれますが……未成年の方だとそうもいきませんし」


 「山奥に行ったら、家族にいつでも会えるのですか?高校や大学へも行けるのか、職業の自由はあるのか、その辺も教えてください」


 「いくら我々の会社があるとはいえ、普通の町ですよ。自由を奪うことはありません、ただし……」


 そう言いながら、黒服の目が群衆の中から叔父さんを探しだした。

 「昨日の件、2人ともここに残るという話は、やはりできかねますな」



 ほおぅらな?




 「なんでですか?!」


 叔父さんが殴りかからんばかりに立ち上がりかけ、母さんに抑えられる。その様子を冷たく眺めていた黒服ボスが、再び口を開いた。


 「我々には、賠償する責任はありますが、要望をそのまま実現する義務はありません」


 「要望って……当然の要求だろう?他の方はどうかわからないけど、うちはシンクロ行動もなくなってきているし、それにどちらも家族だ。どちらかを出すなんてできるはずがない」


 「それでも決めてもらわなくては。2人とも町に残られては、今回の件が明らかになる危険性が高すぎるのでね」

 叔父さんの反論も、意に介さずあっさり退ける。予想できていたとはいえ、ここまで取りつく島がないとは思わなかったけど。


 「実は生き別れの双子がいたとか最近やっと再会したとかでごまかせるじゃん?」

 俺が横から茶々を入れてやると、黒服ボスが目線だけで威嚇した。


 「……それで、いかがします?どちらが来ます?それともお二人ともいらっしゃいますか?」


 周囲からは特に動きはない。そこで俺はひょいっと手をあげた。


 「その前にもう一つ確認。増えた分の人間の生活保障ってのは、生活費はもちろん学費も含まれるんだな?高校・大学・大学院・留学とかも含まれるってこと?」


 「もちろん。だからこそ一人分ってことなんですがね」


 ふうん、金銭関係はしっかり考えているようだ。


 「母さんや叔父さんには悪いけど、そういうことだ。『残るか、行くか』その選択しかないんなら俺は残らない」

 「おい、右、やめろ」

 「太一!」


 「じゃあ君は」



 「お前らの町にもいかない」


 黒服ボスの表情が一瞬固まった。俺に詰め寄ろうとしていた叔父さんや左の動きも止まる。それに構わず立ち上がって、俺は壇上の黒服ボスへ声を張り上げた。


 「別の選択をとる。大体なんで2者択一なんだ?いつのまにそうなった?

 別な生き方をすることになるんなら、その方法は自分で選べてもいいはずだろ。用意されたモンじゃなくて不便でも好きなようにできた方がいいじゃないか」


 「……自由はあると言っているだろう」

 みるみる不愉快そうに口を曲げた黒服は、それでも穏やかな口調だけは変えず、淡々と言葉をつなぐ。


 「前も言ったが、この事件が対外的に知れたら騒動になる。その危険性は低くしたいんだ。少なくとも我々のところであれば何かあった時に対応できる。他意がある訳じゃない。それは他の人たちもわかっているだろう。それとも?君だけ特別扱いを望むつもりか?」


 ……特別扱いだと?


 「あのさぁ……」


 冷静に、冷静に。必死に言い聞かせていたけれど、もう限界のようだった。今までのやり場のない苛立ちが一気に体中を駆け回る。


 「あのさぁ、せいぜい一週間だ、いきなり自分がもう一人いて、いろんな奴から好奇の目にさらされて、変な奴らに追いかけまわされて……ずっと家に隠れてた奴だっていただろう、無理やり隠されていた奴もいるし、まだ状況の変化についていけない奴だっているはずだ。挙句の果てに誘拐事件、これ全部一週間しか経っていないんだぞ。


 これは俺達のせいか?全部、お 前 ら の 都 合 だろうが!!



 なぜ、お前たちが期限を決める?なぜお前たちが指示をする?賠償する責任があるといったな?


 なら金で終わりじゃなく、元に戻せや!!


 そこのサラリーマンのオッサンにさぁ、今までを全部帳消しにして一からやりなおせって言ってんだよ、お前達は。そこの小学生たちだって、片方は親兄弟や友達とも離れ離れ、棚橋さんの奥さんも、そこの兄さんも、俺達も、皆そうだ。これまで消して別な人間で生きろって言ってんだよ!!


 その選択を、まだ落ち着いてもいないのに、たった一日で決めろと?


 あんた達は、もし、あんたらなら、決めれんのか?そんなお気楽おつまみ感覚で簡単に決めれんのかよ?!」


 左が俺の手首を掴んだ。その感覚でちょっと我に返る。そうだ、怒鳴りあいに来たわけじゃない。俺が言いたいのは……。


 「だから、俺は別の選択を提案する。いつ決めるかは、俺ら被害者に決めさせろ」


 黒服オッサン達の提案に乗るのも、別の町や別の方法を探すのも。それをいつ決めるのかも!


 「でも……そんな時間をかけたって」「でも……そんな時間をかけたって」

 棚橋さんとこの奥さんが遠慮がちに口を開く。まぁ、そういう意見も出るだろう。俺は彼女だけでなく同じ仲間全員が見えるように、体の向きを変えた。


 「いずれ俺と左みたいに違いが出てきます。そうなればお互い話合いもできるし、それからでも決めるのは遅くない、と俺は思いますけど。むしろその方が後々後悔しないんじゃないですか?

 他の方には余計なお世話かもしれない。けど、皆、まだもう一人の自分で手がいっぱいでしょう」


 被害者の中で、一番相方と分離していて、環境の良さのせいで今後の不安もそれほどない状態で、積極的に今回の事件と関われた俺ぐらいしか、今時点で交渉できる奴はいないだろう。


 なら、できるだけ皆が良い方向に行けるようにしなくちゃならない。俺は頭が悪いから、全員納得する良い方法なんかは思い浮かばないだろう。それは諦めた。方法は各自が決めりゃあいい。

 

 俺ができるのは、その決断の時間を延ばすことだ。


 駄目なら、おとなしく黒服達の町に行こうと思う。でも簡単に引き下がるつもりはない。そういうわけだ、オッサン!


 「当然、結果が出るまで最低限のフォローはしてもらう」


 「…馬鹿馬鹿しい」相手は一笑に付した。「その提案を受け入れるとでも?」


 「受け入れるだろ」


 俺が手の中の小物をちょっと上にあげて周りに見せてやると、すぐに訝しげな視線が集中した。その注目がちょっとだけ面白くなって、軽く空へほうって反対の手でキャッチしてみせる。軌道に沿って視線が動くのがわかって、今の状況も忘れて笑い出しそうになった。結構ギリギリかもしれない、今の心理状況。


 「…?!」

 「あの時抜いたんだ。メモリ。何個あるのかは言わない」



 これは賭けだった。



 正確な事を言わず抜き取った…といえば、奴は白衣の男を思い出すだろう。重大な物と思わせることができると思った。(中身は多分大したことはない。重要データは普通、PCに刺しっぱなしにはしない)

 案の定、あの白衣の落下を知っているボスの顔色が変わる。小さく口が動いているところを見ると、何か悪態をついているのかもしれない。


 「貴方達は、必要以上に公になるのを恐れている。だから、早く収めようとしてる。だけど、後になって……こういう決め方をした事を後悔する時が絶対くる。同じ自分なのに、どうしてこう違う生活をしているのかって。どっちかはわからないよ?残った方か行った方か。

 そうなった時、この事件を公開される以上の何かが起きない、とは言い切れないだろう?


 だから、俺は別の選択を提案する。俺ら被害者に決めさせろ」






 誰も何も話さなかった。


 部屋はまるで時間軸の外に出されたように、何の動きもみられなかった。





 やがて、黒服ボスが大きなため息を一つついた。








 「へぇー、かっこつけちゃって」


 母さんがニヤニヤしながら、俺の頭をゴリゴリこする。

 会議は俺の提案が通って、俺たち被害者に一切の選択権が渡された。当面は籍と生活資金だけ保証してもらい、後は各自どうするか決めるという形で。きっとこれから動いていくんだろう。色々なことが。


 「でも、カッコよかったんじゃない?」

 「痛てーって!せめて、撫でてくれ…」

 「あ~ら?まぁ、憎たらしい口をきくねこの子は。ウラウラウラ」


 さらに指の力が強くなった。摩擦熱で禿たらどうしてくれんだよ、母さん!頭上を気にしているすきに、左に脇腹を小突かれた。その表情はちょっとむくれている。


 「なーにが、お前は残れだよ。心配させやがって」

 「必ず行くとは言ってないじゃん……っいいってぇ!!何すんだ叔父さん」


 叔父さんのデコピンが綺麗に決まって、俺はフラフラと後ろに倒れかかった。左は嬉しそうに、額の真ん中が真っ赤だなどと指差して笑っている。なぜ、コイツラは俺を攻撃してくるんだよ。


 「勝手な事をして。何で前もって相談してくれなかった?そんなに信用できなかったか?」


 叔父さんの顔はいつもと変わりなかったが、どこか声が寂しそうだった。母さんもいつの間にか俺の頭から手を離し、真面目な顔をしてこっちを見ている。


 ああ、そうか。


 「そうじゃないよ、ただ……俺らの事だしな」

 左に目線を動かしたけど、微妙に逸らされた。くそ、確かにお前にもちゃんと話してなかったけどさ。


 「とにかく、もう勝手にアレコレ動くな。お前の行動を制限することはしないから、何かやる前にちゃんと話してくれ」

 「そうよ、一応アンタ達未成年なんだからね?何かあったら父さんにも申し訳が立たないでしょ?」


 「はい」

 「左も!」

 「俺もかよ……はい」


 俺たち2人が返事を返すと、ようやく保護者は安心した顔をした。


 「で、叔父さん、何その紙」

 「あいつらが、籍をつくるのに希望する名前を考えておいてくれだってさ」


 一応あれでも、黒服達なりに真面目に考えてはいるんだよ、と、叔父さんは2つ折りの紙を見せてくれた。ずいぶん丁寧に説明が書いてある。彼らは悪い奴じゃない、ただ、立ち位置が違っただけだ。


 俺は用紙を一瞥した後、何か言いたげな左に向かいきっぱり言った。

 



 「お前が『太一』な。それは譲らないよ」





 「じゃあ、お前はどうすんだ?もう、右って呼ぶわけにもいかないだろ?」

 「そうだなぁー、何にしようかなぁ」

 「あ、じゃあ、母さんがつけてあげようか?」

 「反対。姉さんはセンス悪いからな。お前たちの名前な、義兄さんが必死に説得してこうなったんだぞ。元々の案は……」

 



 太一は、もうふたりいない。

 太一じゃない俺は、いったい誰だったのかなんてわかりようがないけれど、これから創ればいい。

 俺は俺の道を進むだけだ。




お読みくださりありがとうございます。

やっと終わらせることができました。途中のUSBメモリ故障とPC真っさらがキツかったです…。

本当にありがとうございました



以下、どうでもいい後記


なんでラブコメがこうなったんだろう……。

右が被害者全員の事を考えていたのは唐突だったかもしれませんが、かなり前からそういう思考描写は入れていたつもり、です。元々、右はそういう役でいましたので。

そして消えた方の話よりも平和的に終われました。でもICレコーダーの出番が消えた…。田中との決着も。

もうちょっと短く終わらせるよう工夫したいなと思いますが、またダラダラ書いちゃうんだろうなぁ。

女性が少ないのは、自分の書く女子の話し方が不自然で耐えられないレベルだからかもしれません。文字にすると男子とあまり変わらないんですよね、イントネーションや時折混ざる笑い方なんかが違うくらいで。要練習です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ