アイツが俺で俺はオレ(昼)
うちの大人は駄目だ。未成年の一大事に真面目に取り組んでくれないんだから。普通、病院とかに連れて行くだろ(アイツを)。警察とか、なんなら科学研究所だっていい。ともかく引き離そうとするはずだろ?どーなってんだよ・・・。
俺はブツブツ言いながらベットの上で転がっていた・・・当然アイツも同じ行動をとっているのである。2度寝でもしたいけど寝首をかかれるのも嫌だし、コイツ残して別の所に行くのもなぁ、部屋で何されるかわかんねーし・・・。
しゃーない、ゲームでもするかな・・・。
ゲーム機に向かってもう一本余分な手が出てきたので、俺はギロっと相手を睨んだ。向こうも凶悪な顔でこっちを見ている。
「俺ゲームするから、お前漫画でも読めば」「俺ゲームするから、お前漫画でも読めば」
「俺 が ゲームするっつってんだろ!」「俺 が ゲームするっつってんだろ!」
・・・なんつーか、何してんだか。まるで鏡越しに一人でケンカしている錯覚にとらわれ俺達は力を抜いた。会話にならないのはわかっているじゃないか。
無駄に敵意を向けても仕方がない。ちょっとは譲りつつ仲良くなっていくのがいいのではないか?そうしたら俺への変身を辞めて帰ってくれるかもしれないし・・・。広い心で、譲り合いの精神で。
「いいよ、じゃあ、お前緑な」「いいよ、じゃあ、お前緑な」
「なんで俺が緑だよ。赤に決まってんだろ」「なんで俺が緑だよ。赤に決まってんだろ」
コイツ、人のせっかくの妥協を・・・
「!!」「!!」
横目でそっとヤツの様子を見た。奴も焦燥感いっぱいの目でこちらを窺っている。
俺はコントローラーを投げ出してドアへ突進した。人が2人並んで通れないドアは当然ヤツともみ合いになる。肘やひざを駆使しなんとか相手を押しのけようともがいていたが、何かの拍子に転がり出ることに成功した。
俺はそのままの勢いでトイレへ駈け込んだ。戸を閉めると同時にヤツも追いついて、ぎゃあぎゃあ喚いている。
「へっへっへ・・・ざまぁ」
用事も済ませてスッキリ爽やか。その間ものすごい勢いで絶え間なく戸が叩かれている。なんかいい気分だ。このままここに立てこもってやろ~かな~
「この野郎、さっさと出ろ!」「やだね」
焦ってる焦ってる、いひひひ、どこまで持つかな~。
俺は便座に腰かけて、棚に置いてある文庫本を手に取った。多分、これは叔父さんのだな、暇つぶしに丁度いいや。ふぅん『頭の体操第6集』その割には賢くないよな、あの人。え~と、第1問・・・
ドカン
考えにふけりかけていた俺は、ギョッとしてドアの方を見た。
「もういっちょ!」 ドカン
重い衝撃音が狭い部屋に響き渡る。アイツ、蹴りいれてるな!
「おおおおいおい、止めろ、壊れんだろ!人の家壊すな!」
「お前こそ人の家で好き放題すんな!さっさと出て来いよっと!」 ドカン
ミシッ・・・戸が軋んだ音がした。俺は鍵を開けると鉄砲玉のように廊下へ飛び出した。
すぐ後ろで戸の閉まり水音が聞こえはじめ、俺は廊下の壁にもたれて一息つく。戸の真ん中あたりがへこんで見える、様な気がする。
あの野郎。
やがて水を流す音と共にヤツがトイレから姿を現した。どことなく晴れ晴れした顔をしている。ちっ・・・。
俺は皮肉交じりに声をかけた。
「・・・なんだよ、マネしないで話せんじゃん」
「そっちこそ、普通に動けるじゃねーの」
ま、とりあえず会話ができるようになったんだ。ここはキチンとコイツの正体を突き止めないといけない。
俺たちは何事もなく居間へのドアを通り抜け、どちらともなくソファへ腰を下ろした。
「それで」「それで」
・・・・・・
「おい」「おい」
呆れと苛立ちが混ざった顔でアイツがこっちを睨んでいた。それはこっちの表情だっつーの!こっちだってヤツに言いたいことは山ほどあるのに・・・。
「てっめー、いい加減にしろよ!」「てっめー、いい加減にしろよ!」
「また同時かよ!なんなんだよお前!」「また同時かよ!なんなんだよお前!」
その時、ケータイが鳴った。
俺とアイツは一斉にサイドテーブルへ突進する。
アレは俺のケータイだ!誰が俺もどきなんかに渡すものか!
俺たちはテーブルの周りをグルグル回りながら戦った。といっても、どうせ同じだから勝負がつくわけない。アイツの行動を先読みして攻撃を繰り出しても、向こうも同じ考えで動くからだ。
ケータイがうるさく鳴り喚く。ついにテーブルがひっくり返りケータイが転がり落ちたのを見て、俺らはお互い諦めて一緒にハンズフリーボタンを押したのだった。
『よー・・・悪ぃ寝てたか?風邪ひいたんだってな~』
のんきな声がスピーカーから聞こえてきた。
「柿崎か」「柿崎か」
『ん?なんか妙に声が大きくね?お前実は元気だろ』
「治ったんだよ」「治ったんだよ」
大体、風邪なんか引いてねーもん、元気だよ、ピンピンだよ。
『そうそう今こっち3時間目終わったんだけどさ、休み時間にミスター平田が澄子女史にデート誘って断られてやんの。それで授業中ションボリでさー、なんつーか俺らもいたたまれなかったね・・・治ったんなら明日来るんだろ?』
「多分な」「多分な」
『そっか、じゃあまた何か面白いことあったら電話するわ。明日学校でな』
柿崎の声が切れた。
明日か・・・。