アイツが俺で俺はオレ(朝)
何か嫌な予感がして体を起こした。
向こうの壁にかかっている時計は、5時10分を指している・・・なんだよ、まだ寝れるじゃん。再び布団にもぐって、ってアレ?なんか肩スースーするな。
その時!
俺は左に何か大きな物体を感じ、再び飛び起きた。
「誰だ!」「誰だ!」
同時に同じセリフを発して、お互い向かい・・・?
どこかで見たような奴だな。
あ、俺じゃん、コレ。え?なんで俺?
・・・鏡?
混乱しつつも、そっと右手をそいつに伸ばした。何の障害に当たることなくそいつの肩にたどり着く。向こうも同じように手を伸ばしたらしく、俺の左肩に重みを感じた。
うん、鏡じゃないね。鏡じゃない。ということは?誰こいつ?
「お前宇宙人?」「お前宇宙人?」
昔のSFものではよくある展開だよな、地球人とそっくり同じに化けて水面下で地球を侵略するとかいう。どうやら俺はその化ける対象に選ばれてしまったらしい。まぁ、特に特徴のない平凡な高校生だからなぁ。
俺はそっくりなオレを見ながら、ポリポリと頬を掻いた。向こうも、唖然とした顔でこっちを見つめながら頬を掻いている・・・
・・・。
イラッ
「テメエ!イチイチ真似すんじゃねーよ!」「テメエ!イチイチ真似すんじゃねーよ!」
「だから!!」「だから!!」
「ちょっと太一ちゃん。朝早くから、うるさいわよー」
部屋の戸をノックして、母さんが顔をのぞかせる。いささか不機嫌なようだ・・・ヤツを殴ろうとしていた俺は、いい具合に邪魔された格好になって振り上げた手を下ろした。
「あ、母さん」「あ、母さん」
て、おいっ!
「おめーの親じゃねーだろっ」「おめーの親じゃねーだろっ」
「俺が本物だから!ていうかお前何?!」「俺が本物だから!ていうかお前何?!」
もう我慢の限界だ、このオウム野郎!
俺はヤツにとびかかった!ヤツもこちらに向かってきた!こちらが髪を引っ張れば向こうも反対の手で俺の頭を鷲掴みにするし、奴が膝蹴りを仕掛ければ俺もそのつもりで膝を前へ出している。
・・・仕舞にはもみ合いになってベットから転げ落ちた。
「え?何?何々?雄一、ゆーいちーっ!」
母さんが、叔父さんを呼んでいる。
俺の為に助っ人を呼んでくれるなんて、さすがは母の愛。けど、そんなの必要ねー!今ここで、こいつの息の根止めて化けの皮を剥いでくれるわ!!
「落ち着いたか?」
雄一叔父さんは均等に俺達を見た。
叔父さんとはいえ、現在大学3年生の20代前半だ。ここが大学から近いからというのと、単身赴任の親父に代わり防犯対策として家に居候している。兄と呼んでもおかしくない年齢差だけど、俺はそこまで懐いてはいない。小さいころから交流があれば別だけどな、それにイマイチ頼りにならないというか・・・。
まぁ、それはおいといて。
俺と宇宙人はむりくり引っぺがされて、ベットの上で並んで正座させられていた。母さんが朝食(2人分というのがやさしい)のトーストと牛乳を前に置いてくれているが、こちらは食べるどころじゃない。アイツの一挙一動に目を配り、怪しいところがあったら即座につるし上げて正体暴いてやる!!
「・・・で、お前たち・・・えー、どっちが太一だ?」
え。
「ちょ、俺に決まってんだろ!」「ちょ、俺に決まってんだろ!」
当然、わかってくれるだろうと思っていたのに裏切られ、俺は一瞬背筋が寒くなった。その寒さが一気にオッサンへの怒りへ変換される。
「甥の見分けもつかないのかよ薄情もんが!」「甥の見分けもつかないのかよ薄情もんが!」
「あー、はいはいストップストーップ。どちらも太一であると主張しているわけね・・・」
「たりまえだ!お前叔父失格、家から出てけ!」「たりまえだ!お前叔父失格、家から出てけ!」
叔父さんは俺達の勢いに押され、慌てて愛想笑いを浮かべつつ「誰にでも間違いはあるって」などと謝罪めいたことを口にした。つーか謝ってねーよな、ソレ。まだ怒りが消えないのを感じ取ったのだろう。ちょっと居住まいを正すと深刻な顔を作った。
「ま、アレだ。なんでこうなっているのか、現実的に考えないと」
「この状態が現実的じゃねーんだよ」「この状態が現実的じゃねーんだよ」
ホント頼りないどころの騒ぎじゃねーだろ、このオッサン。それにこいつが宇宙人でなきゃなんなんだよ!一番科学的じゃねーか。
・・・。
・・・あ、ひょっとしてクローン、か?もちろん俺じゃなくて、アイツが。これなら説明がつくな。向こうも同じことを思っているんだろう、ジトっとした視線が交差する。
そんな俺の思考を読むかのように、叔父さんが否定した。
「クローンはないだろ。複製って意味じゃ同じだけど、大人の姿ですぐ出来上がるものじゃないからな。問題:お前の親父がビーチボールを追いかけて頭までつかった湖は?」
「湖なんて行ったことねー」「湖なんて行ったことねー」
「なぁ?お前ら、記憶も一緒みたいだから・・・脳神経とかそういうのも同じなんだろ?だから、どちらかというと分裂かなー?細胞分裂。あはははははははは」
「てっめぇ・・・!」「てっめぇ・・・!」
「いやいやいや・・・太一ちゃんバケモノになっちゃったの?そんなパパになんていったらいいか」
「母さんまで!違う、俺は人間だ!アレと一緒にすんなよ」「母さんまで!違う、俺は人間だ!アレと一緒にすんなよ」
「なんだと。マジお前なんなの」「なんだとマジお前なんなの」
「真似すんなっつってんだろゴラァ!」「真似すんなっつってんだろゴラァ!」
うぜえ!
俺はヤツに右ストレートを決めた・・・と思ったら、ヤツの右ストレートをくらっていた。この野郎!と体勢を立て直し胸倉をつかむと当然のようにヤツも掴む。俺はこのまま頭突きを食らわせるつもりだがもしかすると・・・。
「いてぇ!やっぱり!」「いてぇ!やっぱり!」
叔父さんは半ばあきれたように、このケンカを見ていた。
「…こりゃ、どうしようもないな。あー、そろそろ俺大学行く準備しなきゃ」
「そうねぇ、それ大事。学生の本分は勉強だしねぇ・・・私もパートの仕度しよっと」
考えることを止めた母さんは、そのまま廊下へ姿を消した。叔父さんも特に何も言わず出て行こうとするので、慌てて腕をつかんで引き留める。
「ちょ、待てよ叔父さん、オレは?」「ちょ、待てよ叔父さん、オレは?」
このままって訳はないよな?この得体のしれない俺そっくりのバケモノと2人っきりにしとくとか、そういうことはしないよな?
沸騰した頭が冷えて、急に心細さと恐怖が襲ってくる。
だってそうだろう、ヤツの狙いがわからないのだから・・・。頭から俺を食っちまって、完全に俺を乗っ取るかもしれないのだ。こんなオッサンでもいないよりはマシである。
「どうもこうも、今日のは出席落とせないんだよ」
だがしかし、居候は無慈悲な笑顔で、いたいけな俺達の腕を振り落す。
「まーそういうこったから、今日一日大人しくしてろ。元に戻るかもしれないだろ?」
「じゃ、母さんもいってきまーす。あ、お皿、後で片づけてね」
「・・・」「・・・」
ちょ、まじかよ!!




