帝国の崩壊1
クロスロード大公国に加えゲートリング大公国を傘下に収めた帝国の治世は盤石に思えたが、突如スクルド王国が帝国のゲートリング大公国領に侵攻を開始する。
スクルド王国13万の侵攻に対し、帝国はゲートリング大公国6万、帝国軍本隊4万、クロスロード大公国2万、合計12万の大軍を編制し、皇帝陛下自らが出陣すると言う盤石の態勢でカールキューレ平原にて迎え撃つ。
歩兵だけで編成された13万に対し、経験豊かな3万の騎兵を有する帝国に敗北を心配する者はいなかった。
短編なので、連日投稿致します。
「帝国の将兵達よ。
これよりスクルド軍に対し騎兵突撃を敢行する。
先陣には俺が立つ。
皇帝に遅れる様な恥を晒すな。
全軍、突撃!」
「「「うぉーーーー」」」
スクルド軍前衛中央軍を帝国の歩兵が退けた空白に皇帝自らが率いる1万の騎兵が突撃を開始する。
スクルド軍の中央軍まで2キロメートル、遮る物は何もない。
馬蹄の響きが大地を震わせ、巻き上がる砂塵が戦場の空を覆う。
スクルド軍の中央軍4万は中央の2万はそのままに、残る2万は1万毎に左右に広がり鶴翼の陣形、騎兵の突撃を防ぐファランクス陣形のままで鶴翼に開く歩兵の用兵には感心するしかない。
中央の2万が帝国の騎兵の突進を止め、左右から鶴翼を閉じ十分なロングボウによる攻撃が行えれば、勢いの削がれた騎兵はロングボウの良い的になってしまう。
だが、それは突撃してくる騎兵が1万であればの話である。
「これよりクロスロード大公国軍は突撃を敢行する。
皇帝陛下の御前で醜態を晒すな。
ウノシルディスの武勇、紅の勇、此処にあり。
全軍! 突撃!」
「「「おぅーーーーーー」」」
2万の騎士の雄叫びと共にクロスロード大公国の騎兵が大地を揺らす。
2万の騎兵はスクルド軍の2万の中央軍を一気に粉砕し、敵の本陣3万に迫る。
「アルミン様、作戦では中央突破に成功した後は背面展開するはずでは」
俺はアルミンに作戦の齟齬について問いただす。
「そのはずだが、皇帝陛下はそのまま本陣に突っ込まれた様だな」
俺の指摘にアルミン大公国公王も渋い顔で答える。
「まずいです、帝国の騎兵の勢いはもう失われれいます。
3万の歩兵とまともに組み合っては騎兵の力が発揮出来ません」
俺もアルミンも馬を止めて、馬上のまま急ぎ打合せを行う。
幸いにも我がクロスロード大公国の騎兵は馬の脚を止める事無く、まだ健在なスクルド軍の中央軍の歩兵の集団を見つけては短距離ではあるが助走を付けて騎兵による突撃を続行している。
「そんな事は判っている。
経験不足、未熟さがモロに出た。
あれは騎兵の用兵では無い、単純に高台から槍を突き下ろすだけの要塞防御歩兵の戦いでしかない。
その内に数で押し切られるぞ」
「それ以前に、もうすぐロングボウによる攻撃が始まります。
そうなれば、脚のとまった騎兵など大きな的でしかなくなります」
「ベルント、誰に騎兵の用兵を説いている。
えーーーい、仕方ない、帝国の騎兵は放置する。
我が軍を二つに分け、左右から迂回、敵の本陣を挟撃する。
右翼を任せる、左翼は儂が率いる。
行けるか?」
「当たり前だ、誰にものを言っている」
「クロスロードの騎士を束ねるベルント将軍に言っている。
任せるぞ」
「おぅ、まかせろ! アルミン、貴様こそ後れを取るなよ」
アルミン大公国公王は力強く右手を上げて応える。
それが俺が見た最後の友の姿だった。
「っ!!!!」
さっきまで騎兵に溢れていた光景が猛烈な光と砂塵に消えた。
音のしない世界で視界が砂塵と煙にボヤける。
何かが燃えた様な匂いがするが、火の手は上がっていない。
顔を拭おうとして俺は馬にも乗っておらず、右腕が肘から先が無い事に気付いた。
「アルミン! アルミン! 」
俺は一番の戦友であり、生涯の友である我が主の名前を力の限り叫んだ。
しかし、俺の声は俺には聞こえなかった。
「何が起きた? 」
漸く俺は回りの状況を見回す。
見える範囲で騎乗している騎士は居ない。
地面を埋め尽くして騎士が倒れている。
俺の様に手足を失い血を流している者も多いが、五体満足なのに目や口や耳から血を流して動かない者が多数いる。
馬も殆どの馬が倒れている。
立っている馬もいるが、何故か首が無かった。
「一体何が起きた?
そうか、俺は死んだのか。
ここは地獄なのだな。
それなら首の無い馬が立っていても不思議では無い」
死んでいるのに意識があるのもおかしいと思うが、死んだ事が無いから良く解らん。
いや、地獄ではないらし、俺も死んではいないらしい、健在な馬が居た。
「ホリゾント! 」
さっきまで我が主君を乗せていた娘のシルディア殿下から借りた馬に間違ない。
私はホリゾントのいる方に歩き出すと、俺の馬が腹を裂かれて死んでいた。
だが今は何の感情も湧かない、何故ならば俺の全ての感情を吹き飛ばす物を見つけてしまったから。
『首だけになった我が友が空を見上げていた』
私は左手に何故か離さずに持っていた軍旗の棹を地面に突き刺し、友の首を片手で抱き抱え、声にならない叫びを上げた。
涙は出ない、声も出ない。
ただ、天に向かって声にならない叫びを上げた。
どれ程の時間がたったのか、首を抱えて慟哭する私の回りに騎士達が集まって来たらしい。
「皇帝は? 騎士団は? 」
俺の声は出ているらしい。
(俺の耳が聞こえないのか)
「皇帝と皇太子の安否は不明です。我が騎士団は壊滅です」
相変わらず、何も聞こえないが、騎士の絶望的な顔を見ているとそう言ったとしか思えない。
「これはアルミン公王の御首だ。
クロスロード大公国に連れて帰らなければならない。
敵に渡す訳にはいかない。
手を貸せ」
幸い私の声は騎士達に理解出来ているらしい。
「この戦旗に御首をくるみ無事な馬に括り付けるのだ」
俺の命令に騎士達が意識の無い人形の様にギクシャクと動く。
無事な馬。
回りを見回しても無事な馬など1頭しか居ない。
「ホリゾント!」
ギクシャクとした動きの騎士達がホリゾントの鞍に戦旗に包まれたアルミンの御首を縛り付ける。
「何が起きたのかは以前不明であるが、後方に退避する。
後方にはまだ帝国の部隊もゲートリング大公国の部隊もいる筈だ」
「はい、ベルント様」
「それと、そこのお前、俺の右腕を縛ってくれ、出血はしていないが少し血が漏れている」
『頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか』の外伝です。
精強を誇ったクロスロードの騎士団が何故壊滅したのか?
たかが10万の蛮族の侵攻に何故帝国は対抗出来なかったのか。
そして、シルディが学園の生徒に軍事組織に組み替える必要があったのかが明らかになります。
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