6 おまけ(テオドール視点)
ナターシャからは姉であるマリアンヌにいい嫁ぎ先を紹介しろと、何度も見合の申し込みをせっつかれていた。
可憐な容姿に似合わず、彼女の母親、つまり国王の妹に似て、なかなか腹黒いところがある。
外から見ればリリュー公爵家のマリアンヌの方がその強さもあって、以前より恐れられていたが、内情を知るものとしてはナターシャの方が恐ろしい奴だ。
かっこいいお姉様に心酔しており、彼女のためならどんなことも厭わない。そのために従兄にあたる私の弱みを握るのも造作ないとは流石だが。
マリアンヌの公爵令息に対する行いは、貴族社会においては褒められたものではないが、領民を守ろうとするその心意気は領主に連なる者として褒められるべきである。
彼女を讃えるためにも、ここは一つ良い嫁ぎ先を探してやりたい。テオドールはそう考えていたが、婚約破棄された公爵令嬢ともなれば、国内で嫁入り先を探すのは難しい。
そうこうしているうちに、隣国のブリューゲル王国ルーカス第1王子が見合い相手を探していると耳にした。彼の性格を知っているテオドールは眉に皺を寄せながら、
「ダメ元で送ってみるか。」
とつぶやいた。いくら旧友とは言え、普通にルーカスに申し込んでも見向きもされないだろう。
テオドールは一案を講じ、令嬢の姿絵もない手紙をしたためることにした。
◇ ◇ ◇
旧友であるルーカス・ブリューゲルから正式にマリアンヌ・リリューを娶りたいとの連絡が来たときは何かの間違いかと思った。
だが、よくよく考えてみると、ルーカスもマリアンヌも武を重んじる性格であり、一方は堅物、他方は正義感の強い女だからそこが合ったのだろう。
だからと言って、闘技場で剣技を披露して易々と10連勝するマリアンヌもどうかと思うが。
収まるところに収まったかと胸を撫でおろす反面、執務机の上に無造作に置かれた陳述書を手に取る。
「どうするかな、これ。」
それはマリアンヌの元婚約者で、今はナターシャと婚姻しているジョセフ・オルレイア公爵令息からの物だった。
「『浮気も咎めず、あんなに愛らしいナターシャが、愛妾の部屋とそっくりの内装を1日足らずで用意させ、私はひっくり返ってしまった。きっと、マリアンヌの入れ知恵だ。何とかしてほしい』ね。」
テオドールは淡々と読み上げる。
「身から出た錆だろう。せいぜい苦しむといいさ。」
自分もあの妹ほどではないが、マリアンヌを苦しめた男を許せないのだろう。
テオドールはふっと笑うと、その手紙を放り投げて暖炉の炎にくべた。




