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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
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1. 出会いの場所

ご覧いただきありがとうございます。


完結までの間に暴力、流血、残酷、性愛描写のいずれかまたはすべてがあることが予想されます。

それぞれのエピソードの前書きで予告することはありません。

ご了承くださいませ。


 アリサは出会いの場所で働く。


 ガラスの天井を通して日差しが明るく照らすカフェ。語らう恋人たちの隙間を縫って、片付いたテーブルを拭いて回っていた。


「いらっしゃいませ。……ジェッド?」


 しばらく見なかった顔だ。


「顔を見に来てやったぞ。元気にしてたか、アリサ」


「まあね。おかげさまで?」


 最後にジェッドがこの店に寄ったのは軍隊に属する彼の遠征前だったか。とはいっても懐かしむわけでもない。お互いハイハイもできないころから見知っているため、横柄な態度をそのまま受け取って気分を害すでもなく、軽口を交わせる仲ではある。


「ジェッドも変わりなさそうだね。ミディアムロースト?」


 世間話がてらいつも通りの注文かどうか確認する。彼はいつもコーヒーをブラックで飲む。


「ふたつな。ツレがいるんだ」


 背後を指差しながら、その人と立ち位置を入れ替えた。現れた男は前髪の隙間から覗く垂れがちの目を開いたまま、棒立ちしている。背は高いが細すぎる、というのはジェッドの筋肉を基準にしてしまっているからか。この背に対してこの存在感の薄さはなんだろう。いや、ジェッドが強すぎるせいもある。


「気づかず失礼しました。いらっしゃいませ、ジェッドのお知り合い?」


「ア、エ、ハイ。木の芽どきに咲く太陽を天頂に、もうすっかりあたたかくて、空気が吸いやすいですね」


 うつむきがちに一気に言った。

 天気の話?


「空気が吸いやすい……そうかも。首都は人が多いからかな、あたたかくなるのが早い気がしますね」


 話に乗っかると、なんだかやたらびっくり顔をしている。始めたのはそっちでしょうに。彼とは友達でもないし、他のお客さんとも無難に天気について話題にするのはよくあることだから普通に返しただけだ。


 照れたような、顔に浮かぶのは嫌悪感ではなさそうだけれども、もしかして女性が苦手……だろうか。だとしたらジェッドが連れてきそうにはないけれど。わざと連れてきて紹介したなら嫌がらせではないか。

 とにもかくにも、まずは注文を通すことを急いだ。


「コーヒーをすぐお持ちしますね。お好きな席へどうぞ」






 マスターが淹れたミディアムローストのホットコーヒーを携えて、アリサは男二人が座る席で足を止めた。

 「お待たせしました」とコーヒーをそれぞれの目の前に置く。


「聞いたかもしれませんが、ジェッドの幼馴染のアリサです。ここの店員なのでどうぞごひいきに」


 聞いているのかいないのか、男に動きはない。控えめで穏やかな顔立ちに見える。またもや比較対象が隙のない、鋭いがいわく美形に分類されるジェッドだからだが。


 髪が身近な焙煎豆の色(ブラウン・ブランブル)をしているからから、瞳が優しい緑色(ネビュラ・グリーン)だからか。ほっとする空気をまとっている。


「おい、ケイファス」


 いぶかしげなジェッドの声かけでようやく意識が戻ったように、彼は首を縦にした。


「なに? っと、ハイ」


 腰をかがめて、挙動不審な男にささやく。


「……ジェッドに脅されてここに来たんですか? なにか弱みを握られてる?」


 ぽかーんと男の口が大きく開いていく様子を、幼馴染は呆れて眺めていた。そしてアリサへ忠告のように告げる。


「……聞こえてるからな」


 下手なこと言ってるんじゃないぞ、と。


「やぁだ、そんなことないよね? っていう確認だよ」


 ケイファスは瞬きを繰り返している。

 同僚と入ったカフェ、初対面の店員から堂々と「誘拐されて来た?」なんて聞かれたらぼけ顔にもなるだろう。しかも誘拐犯の目の前で、本当に脅されていたら聞けないことだ。


「その、あっと……ですね」


 なにかを伝えようとはしているが、アリサと目が合えばなぜか言葉を忘れてしまうようだ。一般人のアリサは魔法なんて使えないのだが。


「ジェッドって馬鹿力だから怖いかもしれないけど、いやならちゃんと言えばわかってくれますよ」


「アリサはどうしても俺がこいつを引きずって連れてきたことにしたいみたいだな?」


「だから、ジェッドがそんなことしないってわかってるから言える冗談でしょ。ごめんね」


 きりりとした眉で、ジェッドは右腕を上げた。盛り上がる二の腕を見るところ、遠征を経てまた筋肉がついたのではないか。


 腕はアリサのほうへ伸びてきて――それは、額に届く前に大きな手に阻まれた。


「喧嘩しないでください。ジェッド、女性に乱暴はダメだ」


「べつに喧嘩のつもりはない。こいつがふざけてるだけだ」


 二人ともがやんわりと手を引っ込める。

 元の顔が整っているぶん、真顔でいるだけで怒っているように見えてしまうのがジェッドの欠点、かもしれない。初対面の人の前で悪ふざけが過ぎた。


 ジェッドにしてみたら、軽く手の甲で小突くだけのつもりだったのをアリサは長年の付き合いから知っている。痛くもない衝撃を甘んじて受けるところだったのに、止めてくれるなんて思わなかった。


「庇ってくださってありがとうございます。

 まあこんな顔つきだけど、ジェッドは優しいから小突かれるくらい平気ですよ」


 しかもジェッドはわざわざ、利き腕とは逆の腕を使っていたのだから。


「ア、ハイ……」


 拍子抜けしたのか、目を点にした。そこではじめて置かれたコーヒーに気づいたように、カップを手にして傾けた。


「あ、うま」


 短いながらも感情のこもった感想に、にっこりとする。ケイファスが音を立ててソーサーへカップを置いてあわあわとした。


「そ、あ、の、それで――……」


 ケイファスの言いたいことをじっと待った。


「また来てもいいですか」


 これでやっと彼から怖がられていたわけではないと確信できた。ジェッドに無理に連れて来られたのでなかったならよかった。


「もちろん。いつでもいらしてくださいね」


「はい。あ、僕ケイファス、です」


 ようやく名前を知れた。


 それから席を離れて接客へと戻った。ジェッドとケイファスは一時間も滞在していなかったと思う。立ち上がって軽く手を振っていたのでそれに応えたら二人は帰っていった。


 なんだかまだ噛み合っていないコンビみたい。


 のんきにそんなことを考えていた。

 この出会いが、平凡に終わるはずだったアリサの人生と性癖をねじ曲げることも知らずに。

まずは第一話へお目通しいただきありがとうございます!

恋愛メインで、関係の発展はとてもとてもゆっくりです(たぶん……)。

ゆくゆくはムーンライトノベルズ様への続投を視野に入れております。

終わりまで見えてますので、ご安心ください。

投稿初日ということで8話まで一括投稿しております。

その後は基本、毎日1話午前10時投稿予定です。

よろしければ最後までお付き合いくださいますよう、お願いいたします。


(作者について)

はじめまして 5’4”(ファイブフォー) と申します。

普段は別名義(全年齢〜R15専用)でお世話になっております。文章の癖を隠す気がないのでお気づきの方は……フッ……と笑ってやってください。

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