↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第二十章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

562/562

罪と罰

 

 騒動の主犯とも言うべきノースが、魔王城三階にあるバルコニーの手すりに右手を叩きつけた。


 今回の新戦力導入に一番期待していた飛行船が二艘、戦闘開始直後に墜落したからだ。空から大砲と地上での数による防衛、それにより戦いを盤石にするはずだったのだが、それが一瞬で崩れた。


 周囲にいる側近や護衛たちは、また誰かが文句を言われるのかとうんざりしながらも、現実での立場のためにその場から動かない。今回の生贄は誰になるのかと黙って待っている。


「あれはなんだ!」


 特定の誰かに聞いたわけでもないので周囲は何も言わない。そもそも飛行船を撃ち落とした攻撃を知らないと言うのもある。


「誰も知らんのか!」


「確証はありませんが」


「なんだ!」


「あれは恐らくデストロイと呼ばれる超火力攻撃の一つです。古参プレイヤーのルッツさんが飛行船を使うなら気にしておいた方が良いと言ってました」


「ルッツ……ああ、あの生意気な中年か。ならアイツを呼べ!」


 ノースの言葉に側近の一人が頭を下げるとバルコニーから離れた。


 そして数分後、その側近がルッツを連れてやってくる。ほぼ防御力がないと言うほどの軽装に腰の両方に短めの剣を差しているだけだが、手を出せば一瞬で倒されると想像できるほどの気配を纏っていた。


 かつて、クラン「シュテルクスト」のクランリーダーとしてソロ活動をしていたルッツ。二十年前はイヴァンと戦ったり、その後は地球の危険区域でも行動を共にしていたのだが、今はノース側に付いている。


 とはいえ、単に財団から無茶を言われて参加しているだけで仲間と言うわけではない。AFOはほとんど引退気味だったので、勘を取り戻すために訓練をしていたのだが、呼ばれてバルコニーに足を運んだ。


 ルッツはバルコニーから飛行船の惨状を見て口角をあげる。


「ルッツ! さっきの攻撃はなんだ!?」


「見てはいないが飛行船の状況を見るとデストロイを撃たれたな。だから気を付けろと言ったのに」


「飛行船を撃ち落とすなんて、このゲームではそんな理不尽が許されるのか!?」


「理不尽? そこまでじゃない。あれは全MPを消費するし、30分のクールタイムが必要になる。少なくともあと30分、もう一艘は無事――いや、駄目だな。飛行系のテイマー達に荒らされている。なんでそっちに護衛を回してないんだ?」


 ルッツの言葉にノースは残っているもう一艘の飛行船へ視線を向ける。


 そこではワイバーンやグリフォン、それにペガサスに乗ったテイマー達が飛行船に向けて遠距離攻撃を放っていた。そして飛行船からは黒い煙が上がっている。


「上空にいれば攻撃が届かないとでも思ったのか? このゲームの素人なら仕方ないが、意見を聞かないんじゃ古参プレイヤーを味方につけても意味がなかったな」


 ルッツの煽るような言い方に周囲は肝を冷やす。同時にノースの怒りの矛先が全部ルッツに行っていると思うと感謝しかないが。


「お前、俺に向かってそんな口を――」


「利いたらどうなる?」


「――なんだと?」


「財団の権力なんて二十年前に比べたら微々たるものだ。その上、お前は次期当主の候補でしかないだろうに」


「……なら、俺が当主となった時に無事でいられると思っているのか?」


 その言葉にルッツは鼻で笑う。


「お前が当主になることはない」


 ノースだけではなく周囲の全員がその言葉に驚く。ルッツは可能性を示したのではなく、断言したのだ。それは不敬と言われても仕方ないほどのことだが、あまりにも不敬すぎる言葉なので誰もが考えを停止した。


 逆に怒りが上限を突破して冷静になったノースは、全く感情がなくなったような表情をしてから剣を抜く。


「ここで殺しても意味はないが、気は晴れるだろうな」


「この世界で――いや、現実だろうとお前が俺を殺せるとでも? 何もかもが浅いな。だから、いいように使われる」


「なんだと?」


「地球の統括直轄地域、あの場所にいた組織が捕まったそうだ」


 なんの話をされたのか分からないノースは眉間にしわを寄せた。


「分からんか。お前を唆した組織の奴らが捕まったと言うことだ」


「唆しただと?」


「今回の件、お前の発案じゃないだろう?」


 その言葉を聞いてようやく理解に至ったのか、ノースの顔は驚愕に変わる。


「お前は財団の復権を考えている組織『レストア』にいいように使われたんだよ。そいつらは今回の騒動で統括がAFOに注意を払っている間に、統括が保有する技術を盗もうとした。まあ、バレバレだったがな」


「なんだと!?」


「お前は何も知らされていない――いや知っていたら余計なことをしでかすと思われていたんだろうな。ただの囮、もしくは生贄か。どちらにせよ、お前は責任を取らされる。もはや次期当主候補どころか財団の血族としても危うい」


「そんな、馬鹿な……いや! そんなわけがない! 嘘だ!」


「キャンサーの現当主から連絡が来ている。嘘かどうかはそれで判断しろ」


 ルッツはホログラムのシステムメニューを呼び出してから操作をすると、モニターにキャンサー現当主の姿が表示された。病院のベッドの上で上半身を起こしているが、病気のようでかなり痩せている。


「久しぶりだなノース。早速だがお前にはいくつか道がある。好きな道を選べ」


「ち、父上、お体の調子は――」


「先に俺の身体を心配してくれるか。それとも当てが外れたか? 幸いにもホスピタルには名医がいるのでな。それに統括が用意してくれた薬で一命は取り留めたよ。だが、目を覚ました時には絶望した。お前、俺の名を使って色々やってくれたようだな。ご丁寧に映像まで加工して」


「そ、それは――」


「あれほど気を付けろと言ったのに、お前は他人の言いなりだったようだな。この馬鹿者が。それに他人を蹴落とすことに力を注ぐ奴が上に立てるわけがあるまい。お前より優秀な奴がいなくなれば衰退するしかないとなぜ分からん」


 ノースは黙る。他の当主候補者を陥れるために色々画策したのは間違いではない。だが、それは自分が優秀ではないから。同じ時間、同じことを学んでも、同じだけ身につくかどうかはまた別の話。すべてのことに当てはまるわけではないが、努力ではどうにもならないほどの差はある。


「有能でなくとも他者に寄り添い、その者たちのために働く姿を見せられたのならまた違ったものを。もはや周りにはお前のご機嫌を伺う者ばかりしかおるまい。まあいい、最後にチャンスをやろう」


「チャンス……? 何でも言ってください!」


「今やっているイベントで勝ち残る――魔王城を防衛するのだな。そうすればお前はまだ使えると判断してくれるそうだ。統括もそれを認めてくださった。だが、それ以外にお前が生き残る術はないぞ」


「い、生き残る術……」


「もはやお前を財団の血族だと名乗らせるわけにはいかん。なのでこのイベントで負けた場合――いや、魔王城を奪われた場合は、その資格をはく奪、今ではもうないとされているデッドエンドへ送る」


「そ、それはあまりにも……!」


「ルッツから事情を聞いても自分に甘いのは相変わらずか。だからこそお前には責任ある立場を任せられん。統括の持つ技術を奪うことに協力した、それは知らなかったでは済まされん罪なのだ」


「で、ですが、たかがゲームの結果でそれを決めるのですか!?」


「勘違いするな。こちらは生き残るチャンスをやると言っている。罪はもはや確定したのだ。それでもお前を惜しむほどの何かを見せることができるなら無罪にしてやると言っているんだぞ。どうしても嫌なら何がいい? なんでもいいぞ。お前が自分の有用性を見せることができる何かがあるのか?」


 その言葉にノースは黙り込む。悔しそうにしているが何も言い返せない。


 その態度にキャンサーの現当主は深いため息をつく。


 失望、呆れ、もしくは無念。たった一つのため息に多くの意味が込められていたのか、ベッドの上の弱々しい姿がさらに老け込んだと思えるようなため息。だが、すぐに頭を振り、病人とは思えないほどの眼力でノースを見る。


「最初に選択肢があると言ったが、刑に関しては選んでも良い。デッドエンド送りが嫌ならプリズン送りでもいいぞ。コロニーからは出られないが命の保証はされる」


「プリズン……」


 すでにもうないと言われているコロニー「デッドエンド」は無法地帯。凶悪犯罪者が送られる場所であるため、法も秩序も強い者が決めるので、財団関係者という肩書は何の意味も持たない。


 コロニー「プリズン」は犯罪者を収容する場所ではあるが法に守られている。自由はほとんどなくなるし、飲食や服装も制限され、一定時間は仕事をさせられる。安全ではあるが、同じことを繰り返すだけの日々となり贅沢などはあり得ない。


「それともう一つある」


「もう一つ……? そ、それはなんです!?」


「記憶を消し、AFOの世界――仮想現実だけで生き続ける」


「なんですって?」


「お前の身体をコールドスリープの装置に入れ、その身体が滅びるまで電力を作り続けるということだ。刑としては重いのではないかと法整備が整っていないのだが、そのサンプルとしてお前を使う」


「サ、サンプル……」


 ノースの顔が恐怖で引きつった。そもそも事例のない刑に何が起こるか分からない。そもそも記憶を消すという状況に恐怖を感じる。身体が震え、仮想現実であるにも関わらず、呼吸が荒くなる。


「言っておくが、すでにお前はログアウトできない状態だ。身柄を押さえるためにな」


「馬鹿な! そんなこと許されるはずが――」


「許される。単に次期統括候補と見合いをしようとするだけならともかく、知らなかったとはいえ、それを囮に統括の技術を盗むことに協力したのだ。全財団が満場一致でお前の罪は確定した。決まっていないのはどのような罰が相応しいかだ」


 ノースは膝から崩れ落ちた。


 そんなノースを見て、キャンサー当主は悲しそうな顔をする。


「お前をそんな風に育ててしまったのは俺の責任だ。なので俺も責任を取って当主の座を別の者に渡す。そしてこれからは地球の危険区域のそばに住むつもりだ」


「ち、父上……」


「恨むならお前を甘やかして育てた俺を恨め。そしてそれに甘んじた自分自身もな。最後に――いや、ルッツ、後のことは頼む」


「分かりました」


 最後に何か言いたげだった当主だが、何も言わずに目をつぶる。そして映像が消えた。


 最後にかける言葉もなく、もう二度と会えないような状況にノースは膝をついたままゆっくりと両手も地面についた。


 そんなノースに前にルッツが立つ。


「このまま何もしないか、見苦しく泣き叫ぶか、それとも最後のチャンスにすがるか、どれでもいいがすぐに決めろ。もう中庭へ侵入してきてるぞ」


 こんな状況でもゲームを続けろというルッツに、ノースは力なく顔を向けるが答えはない。


「お前達はどうする? もう何の後ろ盾を持たない奴を助ける義理はないが、ここで見捨てるのも寝覚めが悪いぞ」


 ルッツから話が振られるとは思っていなかった側近や護衛達もざわつく。


 そして側近の一人が前に出た。


「ノース様、いえ、ノース。最後くらいは心を入れ替えませんか?」


「な、なに?」


「昔から偉そうにしているだけで、こちらの意見を聞かないことは気に入らなかったですが、他の候補者に負けないように頑張っていたのも知っています。最近はそれも諦めて相手の足を引っ張ることしかしてませんでしたが、せめて最後くらいは私達にいい思い出を残してくれませんかね。財団の血族として最後は立派だったとか言いたいんですよ」


 今後、自分たちもどうなるのかは分からない。ただ、罪を犯した次期当主候補に仕えていたという状況は自分たちの今後に悪い影響を与えかねない。ならば最後にノースは改心したと言えるならちょっとは変わるかもしれないということだった。


 最終的には曖昧な言い方はせず、自分たちのためにも最後くらいはちゃんとしろと詰め寄るほどだった。


「どうする? 最後まで情けないまま終わるか。それとも――」


「分かった。父上が残してくれたチャンスにすがる。そして足掻く。少なくとも魔王城を所有している間は俺も財団の人間だ――手を貸してくれないか」


 そう言ってノースはこの場にいる全員に頭を下げた。


「足が震えているが良く言った。その姿は俺が現当主に伝えておこう。残念ながら防衛はできないだろうが、玉座の間は任せたぞ。最後くらい誇り高く散れ」


 ルッツはそういうとノースの背中をかなり強く叩く。それを見た側近たちもノースの背中を次々に叩いてから持ち場へと向かうのだった。


 そしてノースは深呼吸をすると玉座の間へと向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どうあれ巻き込まれたパルフェさんにはいい迷惑。 刑については、万が一にもパルフェさんがノースの末路を知ってしまった際のリスク(後味)を考えればプリズンが妥当なんですかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。