閑話:後継者
王都アンヘムダルの高級ホテル「キャメロット」の最上階。いつもの定例会議でAFOの幹部が集まった。
特にイベントはなかったが、財団アリーズを巻き込んでの新たなギルドに関する報告がある。そのことに関しては全員がディーテからの報告を聞きたいので誰も遅刻することなく集まった。
会議が始まる前から嬉しそうな表情をしているディーテ。パルフェ絡みならなんでも嬉しそうに報告するディーテなのだが、今回も良い結果になったのだろうと思いながら全員が報告を待つ。
ネイが会議の開始を告げる挨拶をすると、すぐにディーテに報告をお願いした。
「今回もパルフェ君たちのおかげで大成功だったよ」
ディーテはそう言ってから改めて詳細を説明した。
まずは探検者ギルド。
新たなギルドの発足、そしてギルドメンバーが元プレイヤーという初めての試みは上手くいった。もともとはゲーム内で誰も解明できていないクエストを掘り起こすためのギルドだが、今回行われた幽霊船の攻略に関しては他のプレイヤー達をかなり刺激したようで、今は多くの謎に取り組んでいるという。
未実装のクエストだと勝手に判断していたのは間違いで実はすでに実装済み、単に情報が足らずに途中で止まっていただけという考えがプレイヤー達に浸透し始め、改めて情報の収集や精査などが行われており、探検者ギルドではそれらの情報の売買も行われているという。
また大手クランではない中小クランでは情報があってもプレイヤーの人数的に攻略できないなどの問題を探検者ギルドに依頼することで共同で攻略するなどのサービスも始まっている。
ルティが探検者ギルドのギルドマスターとして情報に関してはかなり厳しく取り扱うように言っているようで、セキュリティ面からもプレイヤー達には信頼されているとのことだった。
「規模は違うだろうがルティ君は次期当主としてちゃんとしているようだね。少々スリルを楽しむところがあるが、まあ、許容範囲だと思う。財団アリーズは安泰だろう」
「それに聞いておくれよ、ルティさんはウチのウィルネと仲良くしてくれているんだよ。いやぁ、ジェミニとアリーズの次期当主同士が仲良くしているなんて二十年前なら考えられないことだよ!」
ロニオスの言葉に全員が呆れた顔になる。特にネイの顔がこれでもかというほど呆れていた。
「それが目的だったくせに」
「いやぁ、だってせっかく他の財団に遊びに行っても皆が嫌な顔をするんだよ? 僕たちの世代はともかく、次の世代が仲良くしているなんていい事じゃないか」
「嫌な顔をしているのは財団うんぬんは関係なく、ロニオスだからだぞ」
「相変わらずネイは僕に厳しいねぇ」
ロニオスには皆が厳しいぞと全員が思ったが、それは誰も口を出さずにため息に変えた。
「さて、ロニオス君から財団の話がでたのでそちらも報告しておこう」
AFOに財団を巻き込んでいるのは孤立しそうな財団に不安を与えないため。現在AFOを通して財団同士が絡む案件が多く、絡んでいない財団は疑心暗鬼になっている。各財団は平等、これが前提なのだがAFOの出現によってそのパワーバランスが微妙に崩れている。当然他の財団を潰そうなどとは誰も思っていないのだが、そこで問題ないとのんびりと構えているようでは財団の当主は務まらない。疑心暗鬼だろうとなんだろうと他の財団や財団統括に対して何らかの行動を起こすことは必須となる。
その何らかの行動がパルフェたちへの攻撃になりかねないので今は積極的に接触を試みているところだ。そして財団アリーズは次期当主のルティが財団ジェミニの次期当主であるウィルネと――ウィルネは否定するかもしれないが――仲良くやっているので一安心ということだった。
それだけでなく、アリーズは宇宙の未開領域への調査なども行っているので、そのための技術をルナリア経由で提供している。今は宇宙船ではなく、中継地点となるステーションの建造に取り掛かっているようで、提供された技術はそれを大幅に短縮できると喜んでいるとのことだった。
「これらのことからアリーズに関しては問題ないだろう。次世代の当主たちに関しても円満……にやっていけると思う」
「ディーテ、なんで僕の方を見て少し言いよどんだんだい?」
「何となくだが――本当に何となくだけどね、平和な状態に飽きたロニオス君がちょっかいをかけるような気がしただけだ」
その場にいる全員が頷く。ロニオスだけがヘラヘラとしながら、両手を軽く曲げながら広げて「やれやれ」というポーズをとった。
「僕がそんなことをするわけないだろう。それに問題は僕よりも残りの二つだと思うけどね?」
「タウロスとキャンサーか。確かに問題はその二つだが」
どちらの財団も軍隊を所有し、兵器を開発する財団であり、タウロスは攻撃、キャンサーは防衛を主体としている。軍隊と言う意味では地上の未踏領域を調査している財団レオなども保有しているが、最新鋭の装備となると二つの財団よりも劣ると言えるだろう。
そんな二つの財団だが、タウロスのコロニー「アームズ」、キャンサーのコロニー「イージス」が戦ったらどうなるかというのは、よく議論されているほどだった。ただ、戦力よりもどちらがより多くの財団と懇意になれるかという議論になることが多いが。
「その二つの財団なんだけど」
ルナリアが軽く右手を上げながらそんなことを言うと全員の視線が集まった。
「なんか結婚の相談をしてきたんだけど断っていい?」
ルナリアの発言に誰もが思考を停止する。あのディーテさえもフリーズしたかのように止まってしまった。だが、回復が早かったのもディーテだ。
「結婚の相談? ルナリア君に?」
「そう。なんかどっちも次期当主の男の子が相手なんだけど、結婚したいって――いや、お見合いしたい、だったかな」
「畏れ多いと言うかなんというか、しかも二つの財団からほぼ同時ということか。これは何かあるのか……?」
ディーテの言葉に全員が眉をひそめていたが、ネイが何かに気付いたような顔になるとルナリアの方を見た。
「あの二つの財団の次期当主と言えばまだ若いはずだ。年齢的に釣り合わないと思うが――いや、財団統括の座を狙っているのか? それなら可能性はあるが」
「……どういうこと? 年齢が釣り合わないの?」
「なんでルナリアが不思議そうな顔をするんだ? 女性の年齢は言いたくないがコールドスリープの時間を差し引いてもルナリアは私よりも年上だろう?」
ルナリアは腕を組んで首を傾げながら天井の方を見ていたが、すぐに手をポンと叩いた。
「ごめんなさい、必要な情報が抜けてた」
「必要な情報が抜けている?」
「次期当主の子たちが結婚したいのはパルフェちゃんだって。私に仲人を頼んできた。魔王に仲人とは片腹痛い」
仮想現実ではあるが、空気が重くなる、もしくは凍るというのはこのことを言うのだろう。ルナリアはともかく、他のメンバーはとある人物の顔を見ることができない。テーブルの汚れでも確認しているのかというほど皆が下を向いている。
そして数秒後、その人物が椅子から立ち上がった。
「ちょっと滅ぼしてこよう。大丈夫だ、コロニーが二つくらい減ったところで宇宙の質量は変わらないからね」
「待て待て待てディーテ待て。何一つ大丈夫じゃない。落ち着け、円周率を二億桁くらい出力しろ」
立ち上がるディーテを必死の止めるネイ。やりかねないというよりも絶対にやりそうなディーテを止めることがこの世界の安寧のためだと、ネイは必至な顔で止めて他のメンバーも追随した。
「それにほら、ルナリアは断っていいかと聞いてきた。話は持ってきたが断ることになっているんだ」
「……まあ、それくらいなら、まだ罪ではないか。ならルナリア君、二度とそんな気持ちを起こせないように完膚なきまでに断ってくれたまえ」
その言葉にルナリアが頷く。
「分かった。ちゃんとお断りの連絡を入れておく」
全員がホッとしたその直後、ルナリアがまた問題発言をした。
「パルフェちゃんは私の後継者として財団統括になるんだから、お婿さんもそれなりの人にしないと。新しい魔王の婿に相応しい男の子を見つけてあげないといけない。うん、これは私の使命……!」
その発言の後は殺伐とした雰囲気はなかったものの、かなり熱い議論が交わされ、解散したのは午前零時を過ぎた頃だったという。




