盗賊ギルドと嫌がらせ
ハヤトは拠点にやってきた男達の前に立つ。
「ハヤトは私ですけど」
「そうか、お前か……一体何をした?」
ハヤトは訝しがる。色々と端折りすぎて何を言っているのか分からないのだ。今回のクラン戦争でマッチングした件なのかもしれないが、いきなりそれを言ったら余計な勘繰りをされる可能性もある。念のため、とぼけることにした。
「えっと、なんのことでしょう?」
「しらばっくれるんじゃねぇよ。俺達は賭け試合でお前のクランは選んでねぇ。なのに、なんで戦うことになってんだ。てめぇがなにか介入したんだろうが!」
言いがかりにもほどがあるが、事情に関してはハヤトの想像通りで間違いないようだ。
「ああ、そのことですか。自分も不思議に思って確認したんです。憶測でしかないのですが、ブラッドナイツさんが指定した相手との対戦が認められなかったようですね。その場合、ベッティングマッチをしているクラン同士でランダムマッチになるそうですよ」
ハヤトはミストから聞いたことをそのまま説明した。そもそも、クラン戦争のマッチングに介入すること自体不可能なのだ。そんな言いがかりをつけられても困る。
だが、たとえ説明したとしても納得できるかどうかは別。相手は納得しなかった。
男はハヤトの胸ぐらをつかむと、顔を近づける。
「おい、兄ちゃん。それくらいの仕様は俺も知ってんだよ。問題はなんで俺達と選んだ相手の対戦が認められなかったってことなんだ。相手はAランクで賭けていた物も同額程度だ。そっちは認められねぇのに、なんでお前のクランとは認められるんだよ、あぁ?」
「それを聞かれても分かりませんよ。クラン管理委員会に確認してもらえませんか?」
どう考えてもその理由をハヤトに聞くことは間違っている。誰もが思う回答をそのまま言った。
「……いいだろう。なら、てめぇも来い。潔白だって言うなら一緒に来るのは問題ねぇよな?」
潔白だったとしてもハヤトが行く理由は全くないが、行かないと言えば話が長引くと考え、一緒に行くことにした。
ハヤトはミストと店番をしているエシャに事情を説明する。
その説明にエシャは呆れた。
「なんで行くなんて言うんですか。放っておけばいいんですよ。ただの言いがかりなんですから」
「行かないと逆に長引きそうなんだよ。居座られてグダグダ言われるのも嫌だしね」
「あの手の人達に話が通じるとは思いませんけどね。まあ、お気をつけて」
エシャはそれだけ言うと店舗のほうへ戻ってしまった。
「私もそう思いますけどね」
「ミストさんもそう思いますか?」
「ええ、ただの言いがかりです。多分ですが、ああやって相手を威圧して脅しているんですよ。クラン戦争の戦闘が始まる前から戦いを始めるようなものです。前のクラン戦争でも良くありました」
(そういうものか。でも、プレイヤー同士はクラン戦争以外で戦うことはできないし、たとえ攻撃されても痛みはない。脅しにならないと思うんだけど。まあ、見た目は厳ついから怖い感じはするけど、それだけかな)
プレイヤーの容姿に関しては、ある程度カスタマイズが可能だが基本的には現実と変わらない。髪型を変える、もしくは色を染める、できるのはその程度だ。つまり相手は現実でも厳ついのだろう。
個人情報保護の理由から考えても容姿が現実と同じなのは危険な気はするが、ゲームを始める前の契約で同意しなくてはいけない。また、名前も現実のものと同じだ。ハヤトの本名は隼人。このゲームでは容姿と本名を偽れないのだ。
最初はそれに反感を持つ人もいたが、そのことについて運営からの発表はまったくなかった。つまり「同意できないならやるな」というスタンスなのだ。
ハヤトはそんなことを思い出しながら、拠点の外へ出た。
外にはブラッドナイツのメンバーが乗っていると思われるモンスター達がいる。フェンリルが三体だ。
フェンリルとは三メートルほどの大きな狼。エルダーグリフォンと同じようにドラゴンを単体で狩れるほどの強さを持ち、魔法も行使できる。テイマー界隈では一番人気のペットであると言っても過言ではない。
人気の理由は強さもあるが、犬のような容姿に惚れる人が多いだろう。だが、一番の理由はその移動速度だ。
フェンリルは騎乗できるペットとしては最も速い。移動速度を向上させていないプレイヤーの速度が一だとすると、フェンリルの移動速度は四。通常の騎乗用ペットでも二程度なので、フェンリルはさらにその倍のスピードで移動できるのだ。
このゲームの戦闘はアクション要素が大きい。移動速度が速いというのはかなりのアドバンテージといえるだろう。
ハヤトは、そのフェンリルに乗っているブラッドナイツ達に囲まれて王都へ向かって歩き出した。
少し時間が経てばハヤトでも分かる。明らかにクランの申請ができる施設には向かっていない。どちらかといえば、王都の中でもスラムと言われる場所へ向かっている。盗賊ギルドや暗殺者ギルドなどがある無法地帯だ。
「どこに向かっているのかな?」
「余計なことはするなよ? ここで騒いだりしたら面倒なことになるとだけ思っておきな」
「面倒な事って?」
「お前の想像の十倍くらい面倒なことってことさ」
(すでにかなり面倒なことになっているんだけどねぇ)
ハヤトはそう思いつつも、これ以上の面倒は嫌だなと、何も言わずについて行った。
「ここだ、入りな」
木製の建物で三階建てくらいだがかなりボロい。寂れた木製の館と言った感じだろう。だれかが住んでいるようには思えないほどだ。
ここまで来て拒否しても仕方がないので入った。そもそもこんなことをしても意味があるようには思えないのだ。逆に何をするのか興味があるくらいといえるだろう。
中には三人ほどいた。相手は全部で六人ということになるが、一人はフードを深くかぶっていて顔は見えない。体つきから考えて男性だろう。
ハヤトは全体を見渡す。外観もそうだが、中もボロい。
「ずいぶんと余裕があるようだな?」
リーダーの男はニヤニヤしながらハヤトを見る。
「いや、内心ドキドキしているよ」
「そう言えるってことが、余裕があるって言うんだよ。ああ、まずは名乗っておく。ガルデルだ」
「よろしく」
「いいねぇ。度胸のある奴は好きだぜ? だが、言うことを聞いてくれたらもっと好きになるかもしれねぇ。俺がアンタを嫌いにならないように、言葉には気を付けてくれよ?」
(ゲーム内で度胸とか関係あるかな?)
「さて、話は簡単だ。次のクラン戦争で負けろ」
そんなことだろうとは思ったが、本当にこういう交渉というか脅しをかけてくるとは思っていなかった。八百長が判明したらゲームにログインできなくなる可能性もある。
たしかにランキング五位以内に支払われる賞金は魅力だが、リスクが高い行為だろう。
なんと答えるべきか迷っていたところでガルデルが口を開いた。
「もちろん、タダとは言わねぇ。現実の世界で俺らが得た賞金の一部をくれてやるよ。俺らに勝つよりも賞金は減るだろうが、リスクなしで金が入るなら問題はないだろ?」
そんな口約束に誰が乗るんだと思いつつ、ネイの顔が浮かんだ。こういう不正を嫌うので話に乗ることはないだろうが、不正でなければいくらでも話に乗りそうだとちょっと溜息をつく。
「おいおい、その溜息はどういう意味だよ? 俺達を怒らせたいって意味か?」
「いや、全然違うよ。ちょっとした思い出し溜息。えっと、次の試合で負けろって話だね? リスクなしで賞金を得られるから俺にもメリットがあると」
「その通りだ。あと三試合でクラン戦争アニバーサリーの賞金が得られる。いま、どこかに負けるわけにはいかねぇんだよ」
「悪いね、俺もそれを狙っているんだ。悪いけどわざと負けるつもりはないよ。賞金が欲しいなら実力で勝ってくれないかな? 俺もそうするし」
「まあ、待てって。これはかなりいい提案なんだぜ? そもそも俺達に勝てると思ってるのか?」
「負ける理由がないかな」
「てめぇのところのクランは一度も動画にピックアップされていねぇから実力は知らねぇ。だが、俺達よりも強いと思っているのか?」
「そう思わなきゃ言わないかな」
エシャを筆頭にかなり強いメンバーを揃えているとハヤトは自負している。それは今までの対戦を見て確信した。今のメンバーに勝てるクランは、エシャ達よりもさらに強力なNPC達でないと無理だと思っているほどだ。
「そうかよ。なら仕方ねぇな――おい」
ガルデルはフードを被った男性のほうを見る。するとフードの男は頷いた。
ハヤトは警戒したが、特に何かが変わったわけでもない。
「気が変わったら連絡してくれ」
ガルデル達はニヤニヤしながら外へ出て行った。この場に残ったのはハヤトとフードの男性だけだ。
「え? これで終わり? もう帰っていいの?」
フードの男は何も答えない。入口を指さしてからハヤトに背を向けて二階のほうへ移動してしまった。
ハヤトは不思議に思いながらも外へ出る。
わけが分からないが、ここにいても仕方がないので帰ることにした。
転移の指輪を使って拠点に戻ろうとしたところで音声チャットが入る。エシャからだ。
「ご主人様、なにかされました?」
「えっと、なんの話?」
「拠点が嫌がらせされてますよ。面倒だから撃っていいですか?」
(もしかしてさっきの提案を断ったからか?)
ハヤトはそう思って転移の指輪を使った。
一瞬で拠点の近くへ戻ると、大量の人が拠点を取り囲んでいた。店舗への入口付近や、拠点の入口に大量に人がいて出入りを妨げているようだ。
見た限り、プレイヤーもいればNPCもいる。こんなところにたむろするのは嫌がらせ以外の何物でもないが、ただいるだけなら別にどうでもいい。
ハヤトは無視して拠点へ入ろうとした。だが、身なりがあまり良くないNPCに止められる。
「待ちな。ここを通るなら通行料を貰おうか」
「はい?」
「この場所は俺達の縄張りだ。通りたければ金を払えって言ってんだよ」
「いくら?」
「……えっと、いくらだ?」
「馬鹿野郎! 通すつもりはねぇんだから値段なんかねぇんだよ!」
ハヤトを止めたNPCは隣にいるNPCにそう聞いて怒られていた。
「ああ、そっか――というわけだ。いくら払っても通すつもりはねぇ。帰りな」
「いや、その拠点が俺の家なんだけど。帰れと言うなら帰らせてくれない?」
「……どうする?」
「え? それは俺も知らねぇ。住人なら通していいのか?」
(ずいぶんとほのぼのした奴らだな。悪に徹しきれてない。いや、悪じゃなくてももっとうまくやるような気がするんだけど)
「おい、お前がハヤトだな?」
今度は名前表示が青色になっているプレイヤーがやってきた。
先ほどのボロい館で見たメンバーとは違うようだが、似たような黒い革製の装備に身を包んでいて、なんとなくブラッドナイツの仲間のように見える。
「そうだけど。これはなに? 宴会でもするのかな?」
「ガルデルさんが言ってた通り面白い奴だな。だが、びびっているのが透けて見えるぜ? 言っておくが、お前が次のクラン戦争で負けると言うまでこのままだ。金なんか入らなくても楽しくやってりゃそれでいいだろ? いちいちガルデルさんの手を煩わせるな」
「ああそう。なら負けるから解散してくれる?」
当然、ハヤトにそんなつもりはない。はっきり言って今まで以上に勝つ気マンマンだ。面倒なのでそう言ったまで。
「物分かりがいい奴は好きだぜ。そんじゃ詫びに金を全部渡しな。クラン共有の金だけじゃなくて個人の金も全部だ。ガルデルさんに忠誠を誓うならそれくらいできるよな?」
なぜか忠誠を誓う話になっているのでハヤトは驚いたが、論理的に話をすすめるのが無駄だと言うことは理解した。
「悪いけど、個人の金はないよ。全部クラン共有のお金にしているから。クラン戦争に勝てば自動的に手に入るはずだから」
「ちっ。なら店で売ってるものを全部渡しな。店の売り物を見たら結構な物がそろっていたからな。あれはお前が作ったんだろう? 貢物として渡せば、お前もブラッドナイツ傘下のクランとして威張れるぜ?」
ハヤトはブラッドナイツ傘下のクランという言葉に引っかかった。
クランは十名で構成されるが、それだけではあまりにも人数が少ない。そのため、クラン同士で手を組んでいるということがあるのだ。システムとしては存在していないが、いわゆる同盟だ。
クラン戦争ではその辺りが考慮されているのか、システムとしてはないものの、交流のあるクラン同士で戦いは起きないと言われている。
通常であれば同盟を組んだクランは同列であるが、ブラッドナイツの場合は何らかの理由でクランを傘下、つまり支配しているのだろうとハヤトは考えた。
目の前にいるプレイヤーも何らかの理由でブラッドナイツ傘下のクランに所属しているのだろうと推測する。服装が似ているのはその影響に違いない。
そしてハヤトはここまでだな、と早々に諦めた。
なんとかこの場を切り抜けようとしたが、手間暇かけて作ったアイテムをタダで寄越せと言われたことにハヤトはかなり怒りを覚えている。
マリスにペット用の料理を作った時は無料であげようとした。それは材料を持ち込んできたからだ。エシャに言われて他の職人のためにもお金を取ることにしたが、基本的にハヤトは自分の技術に値段をつけてはいない。礼儀正しくお願いされれば技術を無償で提供するのもやぶさかではない。
自分の技術をタダで提供しろと言われただけなら、提供はしないが怒ることはなかっただろう。だが、作ったアイテムはハヤトが手間暇をかけたというだけではなく、材料を揃えてくれた人達の手間暇がある。それを対価もなしにタダで寄越せと言われてハヤトは今までにないくらい怒っていた。
「俺が作ったアイテムが欲しいなら、土下座して頼んで貰えます? それなら考えてあげますよ。まあ、考えても渡すつもりはありませんけどね」
「……あ?」
ハヤトに絡んでいた男は何を言われたのか分からずに反応が遅れた。だが、意味が分かってきたのかハヤトを睨む。
「言い方が悪かったですね。本当に土下座されても困るので、ちゃんと言っておきましょう。ガルデルに渡すアイテムは一つもないからお引き取り願います、と言ったんですよ」
「おいおい、分かってないな。ブラッドナイツ傘下のクランがどれくらいあるのか知らねぇのか? それが全部敵に回るってことなんだぜ?」
「さあ、知りませんね。どれくらいですか?」
「二十以上はある。つまり、二百人以上を敵に回すってことだ。それに見たろ、このNPC達の数を。こいつらは盗賊ギルドの奴らだ。あまり舐めたことを言ってると、大変なことになるかもしれないぜ? 拠点をボロボロにされたくはないだろ?」
明確に脅してきた。これなら運営に言えばアカウントの停止ができるんじゃないかとハヤトは考える。
「いままでも似たようなことをしてきたが、どのクランも最初はお前みたいに強がっていたよ。だが、結局は折れた。あまり無駄なことはしないほうがいいぜ?」
男は下品な笑みでハヤトを見ている。勝ち誇った顔だ。
だが、そんなことよりもハヤトには気になることがある。
(いままでも似たようなことをしてきた? こんなことをしているのにお咎めなしってことか? それはどうなんだろう? 運営に言っても意味はないってことか――それとも嘘をついているのか?)
ハヤトは考えても仕方ないと諦めた。まずはログアウトして運営にメールを送ろう、そう思った直後だった。
「ハヤト様、これは一体どうしたのでしょうか?」
いつの間にかハヤトの背後にレリックが立っていた。
「えっと、次のクラン戦争の相手から嫌がらせと言うか、脅されていまして」
「なるほど。よくある話ですね」
(よくあるんだ?)
「さて、そういうことならお引き取り願いましょうか。邪魔ですからね」
「なんだコイツ? NPCか? おいおい、こっちは何人いると思ってんだ? プレイヤーからプレイヤーには攻撃できないが、NPCにその制限はないぜ? ボコボコにされたくなかったらとっとと消えな」
「一部、何を言っているのか分かりませんが、消えろという言葉は分かりました。答えとしてはお断り、ですね。私はこのクランで執事をしているレリック。主人を置いて消えることなどできません」
「ちっ。面倒だな。おい、お前ら、こいつらを痛めつけろ」
男は盗賊ギルドのNPC達にそう命令した。だが、NPC達はひそひそと話をしているだけで動こうとはしていない。
「どうした! ギルドに金は払っているだろう! 早くやれ!」
「悪いな。俺らは抜けるわ。レリックさんがいるクランに嫌がらせしてたなんてバレたら俺らが殺されちまうよ」
「……あ?」
「おや、皆さんは盗賊ギルドの方でしたか。ギルドマスターはお元気ですか?」
「ども、こんちはっス。はい、元気です。でも、最近、レリックさんがこないので寂しそうにしてますよ。またチェスの相手をしに来てくださいよ。ボスも喜ぶと思うんで」
「ええ、なにやらお仕事の邪魔をしてしまったご様子。近日中にお詫びも兼ねて伺うとお伝えください」
「そうしてもらえると助かります。そんじゃ、俺達はこの辺で。クラン戦争、頑張ってくださいね。応援してますんで」
「ありがとうございます」
盗賊ギルドのNPC達はレリックに頭を下げながら去っていった。残ったのは十人程度のプレイヤー達だけだ。
「お、覚えてろよ!」
この状態でも脅しは可能なのだろうが、見事なまでの捨てセリフを言ってプレイヤー達はいなくなった。
「レリックさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「お力になれたのなら何よりです」
「でも、どうして盗賊ギルドの人達はレリックさんのことを知っているんですか? ギルドマスターと知り合いのような話をされていたようですが」
ギルドマスターとは、そのギルドのトップを指す。メイドギルドの場合はメイド長と言われているが、言い方が違うだけで同じ意味だ。
レリックは少しだけ恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「盗賊ギルドのギルドマスターは私が盗賊をしていたころの相棒なのですよ。たまにギルドでお茶を飲む程度なのですが、最近は忙しいのであまり行っていませんでしたね」
「ああ、買い物のお願いをしていたからですね。すみません」
「いえいえ、これは私の仕事ですのでお気になさらずに。ですが、今度お詫びも兼ねて顔を出してこようかと思います」
「そうしてください。今度、お茶菓子を作っておきますので――いけね、大丈夫だと思うけど、エシャが中にいるんだ。ちょっと見てきます」
「私も参りましょう」
プレイヤーの男は拠点にハヤトが作ったアイテムがあることを知っていた。つまり中に入ったことがあるのだ。エシャは強いので危険はないと思うが女性だ。それにNPCはクラン戦争でなくとも攻撃ができるとの話があった。
ハヤトとレリックは急いで店舗の入口から中に入る。そこにはスイーツを食べまくっているエシャがいた。
エシャはハヤトと目が合ったが、一瞬止まっただけで、食べかけのショートケーキを口に入れた。そしてよく噛んでいる。
「何してんの?」
「おまちくらはい……いえ、アイテムを奪う話が聞こえてきたので、そうなるくらいなら私が食べてしまおうかと思いまして。おいしゅうございました」
エシャは無事だったが、食べ物が無事じゃなかった。明らかに品質が高く値段が高い物からなくなっている。
「お給料から差し引くから」
「そんな! ご主人様は甘ちゃんですから、あげてしまうかと思ったんですよ!」
「もしそんなことしたらエシャが止めたでしょ。俺を倒してでも死守したと思う」
「さすがは私のご主人様です。主人がメイドを理解してくれていると思うと嬉しいですね」
「理解したくなかったけど、まあいいよ。でも、そのエクレアからは手を離して。なにどさくさに紛れて食べようとしてるの……エシャがスイーツ系の料理を食べた以外は特に問題なさそうだね。あれだけの人がいたから中で暴れるくらいしたかと思ったんだけど」
「そういう手がありましたね。料理が無くなったのをアイツらのせいにすればよかったと後悔してます。ギリギリまで食べ過ぎました」
「もっと他のことに後悔して」
そんなエシャとのやり取りを止めてハヤトは考える。
(とりあえず次のクラン戦争は相手が悔しがるくらいボコボコにしないと気が済まないな。あと、念のために運営に連絡しておこう。八百長を持ちかけられたんだ。何かしらの処罰があってもいいはず。もしかしたら不戦勝で勝てるかもしれない。いままでも似たようなことをやってきたという話だからダメかもしれないけど、それ自体が嘘ってことも考えられるからやるだけやっておこう)
「ご主人様はずいぶんといい顔をされていますね?」
「え?」
「いえ、今までと違ってかなりやる気になっている顔かと――まさか私が危険に晒されたと思って怒っているのですか? やはりデレましたか」
「ごめん、エシャのことは微塵も考えてなかった。むしろ、高額なスイーツを食べたことに怒りは覚えているけど」
「またまた。私には分かってますから」
「無敵だね。何も分かってないと思うけど、まあ、それでもいいよ。次のクラン戦争では相手をボコボコにするつもりだから、いままで以上に本気でやってもらうよ。食べたスイーツ分は頑張って」
ハヤトはエシャにそう言った後、レリックの方をみた。
「レリックさんもお願いしますね」
「かしこまりました。どうやら相手のクランは盗賊ギルドを使って嫌がらせをしている様子。仕事を受けるほうも受けるほうですが、このようなことを盗賊ギルドに依頼しているというのは少々気に入らないので全力であたらせていただきます」
少々と言いつつかなりの怒りがその笑顔からあふれ出ているように見えた。これは期待できそうだとハヤトは嬉しくなる。
(さて、それじゃクラン戦争までの一週間。こちらも色々準備しておこうか)
ハヤトは全員に連絡をしてから、次のクラン戦争のための準備をはじめるのだった。




