挑発合戦
クラン戦争当日、時間三十分前になったと同時にハヤト達はバトルフィールドの砦へ転送された。
砦の中には、メイドのエシャ、ドラゴンのアッシュとレン、それに執事のレリック、そして五人の傭兵団員、そしてハヤトが集まっていた。
ハヤトはバトルフィールドの情報を確認する。
フィールドは昼間の晴天で遮蔽物のない草原。とくにおかしなギミックもなく、お互いに戦いやすい状態と言えるだろう。
(こっちがFランクだからそれに影響されたのかな。簡単なフィールドで良かった……それは相手も同じだから別に良くはないのか。それはともかく、戦いが平日の午後二時って。俺は無職だからいいけど、相手は大丈夫なのか? まあ、月末に休むことをフロンティア休暇とか言うくらいになってるから大丈夫だとは思うけど……よく考えたらレオンが来ないなんてことがあるのか? Aランクなんだからそれはないよな?)
アナザー・フロンティア・オンラインは有名なゲームで、そのヴァーチャルリアリティのリアルさにより、知らない人がいないという程になっている。賞金がでる戦いがあることも知られており、月末に社会人が休暇を取ることをフロンティア休暇とネット上では言われているのだ。
ハヤトがそんな心配をしていると、その相手クランから音声チャットの申請が来ていた。
クラン戦争中は相手クランと音声チャットができる仕様だ。どちらかが申請し、相手が許可を出せばそれが可能になる。言葉による惑わしや嘘の作戦、いわゆる精神的な揺さぶりにも使えるので、利用者は少ない方だが、ランキングの高いクランほど利用している。
ハヤトとしてはあまりメリットがないと思いつつも、嫌なら途中で拒否すればいいので、リーダー間のみのチャットだけを許可した。
「こんにちは、ハヤトさん」
「そっちはレオンさんだよね、こんにちは」
とりあえず第一段階はクリア、ハヤトはそう考えた。あとは剣を装備しておいてくれよ、と祈る。
「まずは感謝を伝えようと思いましてね。ありがとうございます。私達にタダで拠点をくれるなんてどう感謝を伝えていいか分からないほどです」
いきなりの挑発。だが、ここで何か返さないと精神的に負ける。ハヤトはそう考えて挑発を返した。
「気にしないでいいよ。でも、感謝なら簡単かな。負けてくれればいい。ああ、でも、そんなことしたら八百長扱いになってお互い負けになるのかな? 仕方ないね、弱い者いじめは嫌いだけど今回は普通に戦わせてもらうよ」
「……ははは、ハヤトさんは面白いですね。私達に勝てると?」
「負ける要素がないかな。それにそっちも勝てると思ってないでしょ? 賭けてきたのが本当にナイフ一本だしね。自信があったらもっといい物を賭けるよね」
「それはハヤトさんからの提案でしたから。それにナイフがお好きなのかと思いましてね。まあ、もし勝てたらコレクションに加えてください」
「俺の提案はなんでも聞いてくれるんだ? なら、今回の戦いで善戦してくれるかな? 簡単に決着が付いたら八百長と思われちゃうからね」
(俺って性格が悪いな。でも、スパイ行為で剣を盗むだけじゃなく、詐欺まがいの行為で拠点まで奪おうとしたんだ。システム上可能な行為なんだろうけど、尊敬できるような行為じゃないし許せん)
ハヤトはそう考えながら、レオンの回答を待った。
「口調は丁寧ですけど、ずいぶんとお怒りですね。ランキングが欲しいって言うことよりも、単なるリベンジですか?」
「そうだね、古巣の事だったとはいえ、剣を奪われて、拠点まで奪われそうになった。ちょっと怒ってるかな」
「なるほど。ですが、ハヤトさん、貴方はその盗まれた剣で拠点まで奪われるかもしれませんよ? そうなったら滑稽じゃないですかね?」
「盗んだ剣を装備していると?」
「もちろんです。これほどの剣はそうない。HPの多いモンスター相手には不向きですが、HPの上限がそこまで伸ばせないプレイヤーが相手となれば話は違います。ランキングの上位を目指せるほどの剣ですよ」
ハヤトはこれで条件がそろったとレオンの言葉に喜んだ。
取り返す予定の剣を装備しているのが分かったからだ。あとは剣を取り返せばいい。実際に目にはしていないが、まず間違いないだろうとハヤトは右こぶしをぐっと握りこんだ。だが、喜びを悟られないように極めて冷静に言葉を返す。
「それは俺が作った剣だから褒め言葉と受け取っておくよ――ええと、チャットはこのままにしておくのかな? 戦いの前に切るかい?」
「いえ、こちらからは繋いでおきますよ。切りたければどうぞ」
ハヤトは悩んだが、相手の情報が得られると思い、繋げたままにすることにした。大半は嘘の情報である可能性はあるが、最初からすべて嘘だと思っておけばある程度問題ないだろうと考えたのだ。
「いや、こちらも繋げたままにするよ。それじゃ、お互い正々堂々頑張ろう」
「それには少し同意しかねますね」
「というと?」
「スパイを送り込むことはできませんでしたが、ハヤトさんの仲間を買収したとだけ言っておきましょう。クラン戦争は戦う前から色々と始まってます。お気をつけて」
NPCを買収したのか、とハヤトは心の中で笑ったが、裏切る可能性はあるかもしれないな、と考えを改める。そしてこちらからも本当か嘘か分からない情報を紛れ込ませようと考えた。
「忠告ありがとう。ならこっちも情報を教えるけど、その剣、アイテム欄には表示されない特殊な効果があるから、扱いには気を付けたほうがいいよ」
「……信じられませんね」
「お好きに。でも、忠告はしたからね」
レオンは剣をすでにクラン戦争に持ち込んだ。この状態なら装備しているか自分のアイテムバッグの中にしか存在できなくなる。いまさらどうしようもない状態なら剣について揺さぶりをかけても問題ないだろうとハヤトは考えたのだ。多少でも迷いがでれば十分な効果だろう。
これで一旦レオンとのチャットを打ち切る。
そして砦にいる全員の顔を見た。
「今回の戦いは勝つだけじゃなくて、剣を取り返すという条件がある。正直、かなりの負担を掛けさせてしまうけど、どうか協力してほしい」
ハヤトがそう言うと、アッシュは首を縦に振った。
「仲間の大事な剣なのだろう? なら取り返そうとするのは当然だ。それに条件が厳しいほど燃えるじゃないか。腕が鳴るというものだ」
「その通りですな。私もクラン戦争に参加することは何度もありましたが、盗みの技術を買われたのは初めてでございます。必ずやその期待に応え、目的の剣を奪って見せましょう」
「わ、私も張り切って呪います!」
そして傭兵団のメンバーも頑張ると言った。だが、エシャだけは黙っている。
「えっと、エシャはまだ納得してないのかな?」
「いえ、そんなことはありませんよ。ご主人様のそう言う考えは嫌いではありません。甘ちゃんだとは思いますが」
「甘ちゃん……それじゃ、何か考え事?」
「今日はメロンジュースを何本飲めるかな、と。あとバケツプリンも用意してくださったんですよね?」
「お願いされたから作っておいたけど、本当に食べるの?」
「もちろんです――レン様、どこへ行く気ですか? クラン倉庫に入っている料理は全部私の物ですよ?」
「いや、みんなのだから。ああそうだ、向こうのリーダーに誰かを買収したって言われたんだけど、誰か心当たりはある?」
NPCだって裏切る可能性はある。だが、ハヤトはここにいる全員を信じていた。NPCにリラックスという状態があるのかは分からないが、冗談で場を和ませようという考えでそう言ったのだ。
冗談ではあったが、エシャに視線が集まる。
エシャはニヤリと笑った。
「やれやれ、ばれてしまいましたか。ご主人様、裏切られたくなかったら、これから毎日超エクレアをください。品質は星三以上」
「言っておくけど、このクラン戦争で負けたら、拠点とお金を奪われるからエシャを来月から雇えなくなるよ?」
「……死ぬ気で頑張ります。仕事もせずにメイドギルドで待機しているのは視線が痛いので。あと、近くに転職雑誌を置かれるのがつらい」
(なんでメイドをやってるんだろう?)
そんな疑問を思いつつも、ハヤトは全員と作戦の確認を行った。
この一週間、クラン戦争で使う料理や薬を用意しながら、アッシュ達と何度も作戦を考えた。
結局、レオンを最初に倒してはいけないということから、相手の状況に合わせて戦うしかないという結果になってしまった。
本来であれば、敵陣近くに味方を配置して、開幕にメテオスウォームを撃たせないようにするか、瞬殺の戦術によるクランストーン狙いが対処としては一番いいだろう。だが、色々な事情からそれが出来ないのだ。
必然的にレオン以外を一人一人倒していくことになる。なので、最初は全員で砦に立てこもり、エシャが砦から攻撃するという作戦になった。
つまりエシャがメテオスウォームを放つドレスの女性を倒せるかが、今回の肝となる。
「エシャ、いくら食べても飲んでもいいから、必ずドレスの女性を倒してくれ。出来れば短時間で」
「バケツプリンを食べ、メロンジュースをがぶ飲みできる私は無敵と言えるでしょう。殲滅の女神と言われた我が妙技、ご主人様にお見せいたします」
「頼もしいね。よろしくたのむよ。それじゃ、屋上へ行こう」
全員が頷いてから砦の屋上へ移動する。
そして屋上へ着いたと同時にクラン戦争が開始された。




