幻龍対策と大量生産
ハヤトは王都での買い物を終え、拠点に戻ってきた。
復興アイテムを作るための材料はそろえた。あとは作るだけなのでそちらは問題ない。
問題は幻龍対策だ。
幻龍が弱い方とは言っても、毒や麻痺の状態で勝てるほど弱いわけではない。毒による地味なダメージだとしても放っておくことはできず、麻痺による攻撃のキャンセルもあり、時間内における総ダメージ数はいつもより出せないだろう。
それを何とかするための薬を作るはずだったが、その材料が店には売っていない。
(馬のしっぽのときといい、パットさんは――というかヴェルさんの作戦は嫌らしいね。それにしても強硬派は金持ちだな。何をして生計を立てているんだろう?)
立場的にお互いが嫌がらせをしているわけなのだが、ハヤトからしたら嫌らしい攻撃だといえるだろう。
一応、他の対策はある。
それはエシャから教えてもらった超エクレアだ。
超エクレアはかなり大きめのエクレアだが、その効果は状態異常無効。通常、スイーツ系の食べ物はHPとMPを徐々に回復させるという効果だが、これは全く異なる性能を持つスイーツだった。
(作れないことはないんだけど、材料の生地、チョコレート、カスタードクリームを使い過ぎる。そもそも材料となる生地やチョコレートも料理スキルで作らなくちゃいけない。人数分用意するとなると時間がないんだよな。一人二人だけ状態異常無効でも意味がないし)
生地、チョコレート、カスタードクリームは店では売っていない。これらは別の材料から作らなくてはいけないのだ。
生地は小麦粉と水があればいい。チョコレートはカカオ豆からカカオマスとカカオバターを作り、さらにその二つに砂糖を加える。カスタードクリームは卵、牛乳、砂糖、薄力粉から作る。
エシャのチョコレートパフェを作るのにチョコレートは大量に用意してあるが、超エクレアを大量に作るとなれば一瞬でなくなるだろう。
しかもそれを黒龍のメンバーやアッシュの傭兵団分そろえるとなるとかなりの時間が掛かる。それはこれから草を採りに行くよりも掛かるだろう。
(確認したわけじゃないけど草が採取できる場所にはまたパットさん達がいそうなんだよな。またネイ達に頼んで採って来てもらうしかないか。必要な草を採って来てもらうまで幻龍に負けるけど、秘宝さえ奪われなければ問題ないはず。でも、精霊の国の施設って確か――)
「ハヤトさん」
「うお!」
ハヤトの目の前にレンがいきなり現れる。ハヤトは考え事に集中していたので座っていた椅子から転げ落ちそうになった。
「あー、びっくりした。レンちゃん? どうかした?」
「いえ、拠点に戻って来てからずっと考えているようだったんですけど、どうしたんですか? 兄さんは午後の準備のために部屋に戻っちゃいましたよ?」
「幻龍の対策をどうしようかと思ってね。やっぱりネイ達に雷光草と風雪草を採って来てもらう方がいいかなって」
「そうなんですか。あれ、でも、採って来てもらう方がいいってことは、別の方法もあるんですか?」
「それは時間が掛かるからやめようかなって」
「ちなみにどんなことを?」
「全く別の対策になるんだけど、超エクレアっていうスイーツがあってね。それを食べると状態異常無効になるんだよ。ただ、材料が大量に必要になるから時間が掛かってね。それは止めようかと思って――あの、レンちゃん、顔が近いんだけど」
「それで行きましょう! 変な薬を飲むよりそっちの方が効果的ですよ!」
「変な薬じゃないから」
絶対に食べたいだけで言っている。ハヤトはレンの顔を見てそう判断した。
「いや、あのね。食べたいのは分かるけど、さっきも言ったように材料をそろえるのが大変なんだよ。生地やチョコレートなんかが大量に必要だから作るだけでも相当時間が掛かるんだ」
「大量に買えばいいんじゃないですかね!? お金はあるんですからパーっと使いましょう!」
ハヤトはレンをなだめるために、状況を最初から説明する。問題は材料を作るための時間。ハヤトは午前中と夜しかログインできない。時間的に一日中やったとしても十個作れるかどうかだ。
復興アイテムも作る必要があるし、武具のメンテナンスなどもしておかなくてはいけない。作れるのはもっと少ないだろう。二週間くらいかければ全員分用意できるだろうが、勝てなかった場合はまた準備が必要になる。時間効率を考えるとあまり良い選択とは言えないだろう。
ハヤトはそう思っていたが、レンが腕を組んで考え込んだ。そして何かにひらめいたのか、笑顔でハヤトの方を見る。
「材料さえたくさんあればいいんですよね?」
「さっきも言ったけど、店では売ってないよ? 売っているのは小麦粉とか最初の材料くらいかな」
「なら私が作ります!」
「レンちゃんが……? あ、そっか。何も全部俺が作る必要はないんだ。俺は超エクレアの時だけ料理すればいいって話だね?」
「そうです! 確か生地とかカカオバターとかは料理スキルが低くても作れたはずですよね? 料理スキルが低くても作れる物なら任せてください!」
(いままで一人でやってたから気づかなかった。下請けみたいな形で生地やチョコレートを作ってもらえばいいんだ……こんなことに気づかないなんて、俺ってクランに所属していても一人でやってたんだろうな)
もともと黒龍のクランには生産系スキルを持っているプレイヤーが少なかった。ハヤトが何でも作れた上に、狩場にはほとんど行かなかったので、一人で作っているだけだったのだ。
ハヤトとしてはそれでも満足だったが、生産関係ではモンスターが落とす材料を集める以外で誰かに頼らなかったと言えるだろう。
「それじゃレンちゃんに頼もうかな。あ、でも、カスタードクリームって結構料理スキルが必要なんだよね。生地なんかは20くらいでもいいんだけど」
「私以外の助っ人って誰かいませんかね? ――あ、いますよ!」
「あ、そっか。頼めそうな人がいたね」
レンが何かに気づくと同時にハヤトも気づいた。それなりの料理スキルを持っている人がいるのだ。
ハヤトはその人物に連絡を取る。頼みたいことがあるので拠点まで来て欲しいと言うと、その人物は二つ返事で了承した。
十分ほどでその人物が拠点にやってきた。
一人ではなく二人でやってきている。もう一人はお目付け役のような立場なのだろう。
「ようやくこの私の力が必要だと気付いた? ちょっと遅いけど、褒めて遣わす」
「会う度に悪化してない? 昔の大人しい感じのルナリアさんに戻ってくれないかな?」
「ルナリア様は冥龍討伐で魔国の民から今まで以上に尊敬されるようになりました。そのせいでかなり調子に乗っているのですわ」
「ロザリエさんも最近、ルナリアさんに厳しいよね?」
かなりの料理スキルを持っている人物。
それは魔王ルナリア。
魔王クッキーという名の星四クッキーは、魔国だと高値で取引されるほどの食べ物だ。その売り上げが魔国の財政を少し支えている。
「それでこの魔王ルナリアの手を借りたいというのはなに? 同じクランの誼でなんでもしてあげる。このアロンダイトで色々とサビにするから安心するといい」
「カスタードクリームを大量に作って欲しいんだけど」
「カスタードクリーム?」
ルナリアが首を少しだけ傾けてハヤトを見ている。
「実は超エクレアというスイーツを作るために大量の生地とチョコレート、それにカスタードクリームが必要なんだ。レンちゃんがチョコレートを作るから、ルナリアさんにはカスタードクリームを担当してほしいんだよね。これは料理スキルが高くないとつくれないからルナリアさんにお願いしたいんだけど」
「フッ、たやすい」
「ルナリア様は少しお黙りください」
ロザリエの鎌がハヤトの目の前に突き出された。殺気はない。どちらかといえば呆れている感じだ。
「調子に乗っているのはルナリア様だけではないみたいですね? そんなことでルナリア様の手を煩わせないで欲しいですわ。忘れているかもしれませんが、こう見えてもルナリア様は魔王ですわよ?」
「こう見えてって、ロザリエさんも大概酷いことを言ってない?」
「私なら大丈夫。こう見えても魔王。カスタードクリームくらい作れるから安心。魔王クリームを大量生産する」
(自分でこう見えてって言ったぞ……)
「あの、ルナリア様、そういう意味ではなくて、魔王はそんなことしないって話で――ああ、もう、分かりました。ハヤトには冥龍退治での借りがあります。あれでルナリア様の評判が上がりましたから、それを返すために手伝いますわ。黒薔薇で料理ができるメンバーを貸しますから、カスタードクリームでもなんでも作ってください」
「え、本当? それは助かるよ。できるだけ多くの人が必要だったんだ」
「待って。これはハヤトさんが私を頼ってきた依頼。私がやるべき」
「ルナリア様がやるべきことは他にたくさんあります」
「なら黒薔薇の皆と一緒に作る。仲間外れは良くない。私を仲間に入れないとアロンダイトが暴れる。これは脅しじゃない」
ルナリアの交渉は続く。
最終的にはロザリエが折れて、明日から拠点で超エクレアの材料を大量生産することが決まった。
ロザリエは椅子にもたれかかって脱力し、かなり疲れている感じだ。
「ロザリエさん、大変だったね。甘い物とか食べる?」
「誰のせいだと思ってんだ、コラ……はぁ、ならガトーショコラをお願いしますわ。あとコーヒーも」
ハヤトはどう考えても俺のせいだよな、と思って星五のガトーショコラを作って出してあげようと誓うのだった。




