創世龍との戦い
黒いライダースジャケットを着たアグレスは大広間全体見渡すと笑みを浮かべた。
「吸血鬼共には用はねぇ。見逃してやるから帰りな」
下手な挑発だとは分かっているが、分かっていても止めることができないほどアグレスの顔は憎たらしい。ミストの制止を振り切って、招待されていた吸血鬼数人がアグレス達に飛びかかった。
だが、すぐに何かの破裂音が連続して聞こえ、飛びかかった吸血鬼達が倒れる。ハヤトにはほとんど見えなかったが、ガンマンの格好をした男が魔法銃で撃ったと推測した。
ガンマンの男はその後、いわゆるガンスピンと呼ばれる銃を回転させる技を繰り出してから腰のホルスターへ銃を戻す。
「おいおい、アグレスちゃんよぉ、お前さんは相手を怒らせるのが上手いんだからあんまりしゃべんなって」
「そうっすよ。無意識に相手を怒らせる天才って言ってもいいっすね。卵時代からやり直した方がいいっす」
「……お前ら、仲間になったんだから傷つくこと言うなよ」
なぜかアグレスは左右の二人から駄目出しをされている。
(あれは挑発じゃないのか。ルナリアさんとは別の意味で会話が苦手な人なんだな。顔も怖いし。それと「仲間になった」か。さっきのアッシュの態度といい、左右の二人は穏健派だった創世龍ってところか)
関係性は分かったが、この三人が何をしに来たのかは分かっていない。ただ、危険人物が集まっていると言っていた。ヴェルが拠点に来たときの話ではハヤトは危険人物ということらしい。つまりハヤト以外にもドラゴン達から危険人物と思われている相手がいるのだろう。
ハヤトがそんなことを考えていると、ガンマンの男性が一歩前に出た。
「あー、すまなかったな。俺はパット・ファルソンだ。ちょっとした行き違いみたいなもんだから許してくれ。それとお願いなんだが、ノアトって女性を渡してくれないか? ボスがさらってこいってうるさくてね」
ざわつく大広間でミストが笑顔のまま前に出た。笑顔ではあるが、殺気を放っていると言ってもいいほど周囲にプレッシャーを与えている。
「招待していない宴に勝手にやって来て、客人を渡せと? ずいぶんと龍共は無粋ですね?」
「育ちが悪いんでね。でも、わりぃな兄ちゃん。お願いと言うのは建前で実は命令してんだ。無駄な体力は使いたくねぇんで、ここは一つ素直に渡してくれねぇかな? なに、ちゃんと扱うから安心してくれ。VIP待遇ってやつだな。それに用が終わったらすぐに返すから」
「ここよりいい待遇などありえないと自負しているので交渉は決裂ですね」
そんなやり取りを見ていたアグレスが眉間にしわを寄せてパットを見る。
「おっさんも相手を怒らせてるじゃねぇか」
「俺のは意図的で、お前さんのように無意識じゃないからいいんだよ。挑発は計画的にやるもんだ」
アグレスが首を傾げている最中にミストはレイピアを抜く。すでに戦闘態勢だ。
そんな状況ではあるが、「待って」と声があがる。そしてノアトが眠そうな目でふらふらと歩いてきた。
「私がそっちへ行ったらここの人達には手を出さないって約束してくれる?」
「アンタがノアトちゃんかい? ……ああ、確かに見たことがあるねぇ。昔のクラン戦争で歌っていたのを聞いたことがある。いい歌声だったぜ?」
「それはありがと。でも、それは質問の答えじゃない。それで約束してくれる?」
「そりゃもちろん。俺は平和主義でね。ノアトちゃんが来てくれるならなにもしないさ。こう見えてちょっとは紳士なんだ。約束は守る」
パットは笑顔で両手を広げながらそんなことを言う。ジェスチャーがわざとらしいが、様になっている。
そこで空気を読まない声が上がった。
「デストロイ」
いつの間にかエシャがベルゼーブを構えていて、デストロイを放った。銃口から相手まで十個の魔法陣が並び、それを破壊しながらレーザーがアグレス達を襲う。周囲の吸血鬼達がノックバックするほどの衝撃がエシャを中心に発生した。
「おいおい」
パットは驚きながらも、その攻撃を躱すことなく受ける。
本来なら一撃で倒せるはずの攻撃なのだが、パットは全くの無傷だった。パットはニヤリとしながらエシャの方を見る。
「あれを食らったら俺でもやばいが、ボスの言っていた通りスタンピード中は戦える奴が決まってるみたいだな。殲滅の女神も今の状況じゃ無力ってことだ。同じ銃使いとして戦ってみてぇがそれはまた今度だな」
(ボスってヴェルさんのことだよな? ゲームのシステムを利用して襲ってきたってことか。それにNPC相手に効かないってことは、あの三人もスタンピード中はモンスター扱いか? 面倒なことが多いな)
スタンピード中、NPCは所属国でしか戦えない。そして現在は魔国でスタンピードが発生しているので、その影響で発生しているモンスターにはエシャの攻撃は全く効果がない状況なのだ。
とはいえ、そんなことはエシャも知っている。デストロイはエフェクトが派手だ。相手を倒すためではなく、一瞬の隙を作るには十分だったと言えるだろう。
エシャのデストロイを皮切りに戦えるメンバーがアグレス達に飛びかかった。
「アグレス!」
「やっぱこうなるんじゃねぇか。まあいいけどよ。アッシュ、どっちが上か教えてやるぜ。ヴェルさんの息子だからって手加減されると思うなよ」
アッシュがアグレスにドラゴンイーターを振るう。アグレスは両手の金属で補強されたグローブでアッシュの攻撃を弾いた。
「兄さん!」
「こっちはいい! レンとミストはランダの相手をしてくれ!」
「ありゃま。私の相手はレンちゃんっすか。昔みたいに仲良くしましょー? 呪いの話は勘弁っすけど」
「強硬派は敵です! ハヤトさんのプリンよりおいしい物が出てきたら考えますけどね!」
レンはアッシュがランダと言った女性と対峙する。
ランダは眼鏡をかけて肩くらいまでの黒髪を両サイドで三つ編みにしている聖職者風の女性だ。そして見かけ通り、神聖魔法を使っている。
レンは呪詛魔法で相手のHPを徐々に減らそうとしたが、ランダは逆に徐々にHPを回復させる魔法を使い、ダメージは発生していない。
そこへミストがレイピアで攻撃する。だが、ランダは持っている杖を使ってその攻撃をいなした。
「こわいっすね。レンちゃんだけでも大変だって言うのに。こっちは女性なんだから手加減してほしいっす」
「女性といえどもドラゴンでしょうに。それに今日の主催者である私の顔に泥を塗ったんです。それ相応の報いを受けてもらわないとね」
残ったパットの相手をするのは、ロザリエとネイだ。
「ちょうどいいですわ。昨日の続きといきましょう。男に逃げられたとあっては私の経歴に傷が付いてしまいますので」
「やれやれ、若いお姉ちゃんに追いかけられるなんて俺も捨てたもんじゃないねぇ――しかも二人か。色男はつらいぜ」
「モテ期と言うやつだな。人生に三回はあるらしいぞ?」
「こういうモテ期はいらないんだけどねぇ」
パットがそう言ったと同時に、ロザリエとネイが攻撃を行う。恐ろしく連携がよく、二人ともパットと接近戦をしているのに、お互いの行動を妨げるようなことはない。
だが、そんな連携攻撃の中でも、パットは銃で攻撃を迎撃していた。さらに黒龍のメンバーがネイ達を支援しているにも拘らずだ。
その戦いを少し離れて見ていたハヤトは急に背後に引っ張られる。慌てて後ろを見ると、エシャだった。なぜかエシャがノアトと一緒にいる。
「裏口から逃げますよ。戦いはアッシュ様達に任せて私達は王都にある拠点へ向かいましょう。レリックやマリス様はもう外へ向かいましたから、あとは私達だけです」
「あ、そうなんだ。でも、そんなことしなくても転移の指輪で拠点へ戻れるんじゃないの?」
「それじゃ私達だけしか逃げられないじゃないですか。ノアトも連れて行かないと。一応ルナリア様が護衛として頑張ってくれるそうなのでノアトと一緒に魔都を出ますよ。少なくとも魔都さえ出れば、私やレリック達も戦えますから」
スタンピードが発生していない場所までいけばNPC相手に戦える。エシャはそれで魔都を出ると言っているのだ。
ハヤトがなるほど思ったところで、ノアトの視線に気づく。
眠そうな目ではあるが、さっきからずっとハヤトを見つめているのだ。先ほど歌は聞いたが、話したことはない。一応名乗っておこうとハヤトはノアトに軽く頭を下げた。
「えっと、こんなときにあれだけど、ハヤトです。よろしく」
「私はノアト・ヴァベック。ノアトって呼んで。貴方が噂のハヤトさん? エシャちゃんが貴方の下に付くなんてどんな裏技をつかったの?」
レリックにも似たようなことを聞かれたことがあるが、答え方によっては現実の命が危険なことになる可能性が高い。ハヤトは慎重に言葉を選んだ。
「えっと、美味しい料理を提供しているからかな。とくにチョコパフェ」
「エシャちゃんらしい。できれば私も養って。歌うか寝ているだけの人生を送りたい。あと贅沢は言わないからご飯とお風呂を少々」
ハヤトはなんとなくノアトに対して駄目な雰囲気を感じ取った。比較してはいけないのかもしれないが、エシャよりもひどい。
「ええと、エシャを養っているわけじゃないからね? 雇っているだけで」
「残念。どこかにご飯が湧き出るアイテムとかないかな……」
ノアトの言葉にエシャが溜息をつく。そしてノアトの頭を軽く小突いた。
「痛い」
「アホなことを言ってないですぐに逃げますよ。だいたい、ノアトは狙われているんですからもっとシャキッとしてください」
「エシャちゃんはすぐに無茶なことを言う。さっきも何とかドラゴン達の気をそらせって言うし」
「どっちが無茶を言っているのかはだれが見ても明らかです。ほら、とっとと外へ出ますよ。今、混乱しているこの状況がチャンスなんですから」
ハヤト達は慌てている吸血鬼達の間を通り抜け大広間を出た。




