追うついでに
仲間の情報を元に辿り着いたのは大きな病院。
ここも斑鳩の経営だっけ。一足違いで目的の人には会えなかったけど、病院スタッフから有力な情報をもらえた。
あの移動力を使い、人助けをしている…と。
尚更スカウトしなくちゃ。うちの理念とも合致する!
「中央倉庫へ一番近い子、誰か向かって! 運び屋の子の情報をできるだけ聞き出してもらえる?必要なら私の名前を出してもいいから」
「”あ、それならウチがいくよ! それにしても名前使っていいって…よっぽどだね?”」
「”ほんと。普段はそういう事したがらないくせにねー”」
「煩いよ? 手段を選べない場合もあるの!」
「”はいはーい!”」
全くもう…。
斑鳩って名前はこの街で絶大な力を持つ。それこそ人を殺したとしても、斑鳩の名の下に執行したのならその場で咎められることはないくらいには…。もちろん一家に対して正当性の証明は必要になるけれど。
当たり前だけど正当性のないものであれば処罰は免れない。
だからこそ安易に使えないし、使わない。姉たちだってそう。力のある名前には相応の責任がついてまわる。
仮に私が斑鳩の名を使い犯罪行為をすれば、一般の人よりもずっと罪は重い。これは両親からも散々言われてきた。
だからチームの名前にも敢えて入れなかったくらい。イニシャルだからわかる人にはわかるかもだけど…。
勘違いしないでもらいたいのは、斑鳩一家がこの街を支配しているとはいえ、恐怖政治や搾取をして弾圧しているわけではない、という所。
勿論、犯罪者相手には慈悲も容赦もないけど、基本は街を治めている領主みたいなものだ。
堅気衆に手を出すようなマネはしないし、名の下に好き勝手に振る舞うわけでもない。
あくまでもこの街の法の範囲内で動いている。
まあその法も斑鳩一家が作ったものだから、うちに都合のいいようになってたりはするってのは認めるけど、無法者と一緒にはされたくない。
うちのチームの子たちだってそれをわかってるから傍に居てくれるし、さっきみたいに誂われたりもする。
情報を待っている間にも、通常業務は忘れない。
その為に姉から予算も回してもらっているのだから…。
走り回りながら街のあちこちへと目を光らせる。
裏通りや、ちょっとした小道まで。犯罪っていうのは人目につかない所で起きるものだから。
稀に大通りでやらかすバカもいるけど、そういうのは酔ってたり自暴自棄になってたりと通常の心理状況じゃなかったりする。
因みにこの街でクスリが出回ることは滅多にない。
斑鳩としても厳しく監視しているし、罪も重い。過去に一度、持ち込んで捌いてたバカが居たけど、出どころから運び屋まで上から末端まですべて処分した。
その噂は尾ひれがついて広がり、そういった売人は、この街に近づかない。リスクが高すぎるから。
もちろん合法な物なら色街に行けば買える。
チョコレートっていう媚薬が…。
食べてからヤルとすっごい…なんて噂もあるけど、未経験な私には無縁の物。
っと…。わかりやすい奴がいた。カツアゲか。
専用回線に切り替えて…
「Kブロックで軽犯罪発見。人を回して」
「”了解。お嬢、無理してくれるなよ”」
「お嬢言うな! 私が負けると思う?」
「”万が一がある。お嬢に何かあったら街のみんなが泣くぜ”」
「よし。帰ったらお仕置きだ」
「”冗談ですやん…。でもうるあ様、本当にお気をつけて”」
「ありがと」
うちの手下たちは心配性だなぁ。
路地へと飛び降りながら、ワイヤーフックを犯人へと向け射出。
こういうときの為にフックの先端にはゴムがついてて、制圧用のゴム弾代わりになる。
着地する頃には気絶して倒れてるのだから危険もないのに。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます! もしかしてチームUiの方ですか?」
「まぁね。ほら…」
見せるのは、チーム衣装でもあるスタジャンの背中に書かれたマーク。
「やっぱり! ファンなんです! これからも頑張ってください!」
「ありがとね。ほら、もう行きな」
「はいっ! 本当にありがとうございました」
気の弱そうな男性は私に頭を下げると表通りへとかけていった。
「さてと…」
専用の拘束ワイヤー装置で手足を括り、発信器をオン。罪状はカツアゲだから軽犯罪扱いで、発信器の側面にズラッと並ぶ罪状証明の一番下にあるツメを折る。
これで本部へも通知が行くし、警備が見つけて連行してくれるでしょう。
これは次の現場へすぐに向かえるように、ある程度の情報を残しておく為のものでもある。もちろん後から報告書は書くし、証言が必要なら応じる。
この装置も斑鳩の開発したもので、発信器にはGPSや警報機能やらいろいろな機能がついている。
装置一つ一つに通しナンバーがついてて、どのナンバーがどの犯罪者を捕まえたものかとか、誰が捕まえたかとか、そういう細かい情報を管理できる便利なもの。
まだ一度もないけど、誤認逮捕みたいな場合は始末書やら何らかのペナルティーも発生するから使うときは要注意。
「”名前を出さなくてもチーム名を言ったら情報もらえたよー。Cブロックの市民病院から、Eブロックの自宅へ向かうみたい。細かい家の場所は端末へ送ったから!”」
「ありがとう。助かったよ!」
右のこめかみを押さえながらまばたきを2回。街のマップと、仲間が送ってくれた座標をリンク。
コンタクトタイプの端末とこめかみに埋め込まれたチップによる物で、うちのチームは全員使用してる。最近アップデートされたばかりで、新しい機能はまだ利用してないから、近いうちにみんなで使わないとな。
ちゃんと市民登録している人は登録ナンバーから市民情報へアクセスできるから、犯罪歴も参照可能とか言ってたっけ。早く使いこなせば便利なんだけど、昨日の今日だからまだ私もみんなに説明できるほど扱い方を理解できてない。
でも今は例の人に会うのが最優先!
……自宅はここかぁ…。市民病院から帰るのなら多分この道を通るよね。
あの人なら上を行く可能性もあるから、私も上から行くか。
ワイヤーフックをビルの上へと向けて射出、屋上の柵へと引っ掛け、自動巻き取り機能を使い身体を上へと運ぶ。
これ、百キロくらいまでなら余裕で持ち上がるから便利なのよね。って、私そんなに重くないからね!?
右目に映るマップを見ながら建物から建物へと飛び移り、目的地付近です。お疲れ様でした。
じゃなくて!
えーっと…建物の上にはいなさそうね。こめかみを押さえて瞬きを2回、マップを消してから瞬きを今度は3回。
サーマルにして人の温度を探す。
この辺りは繁華街でもないから人は少ないけど、見える範囲には高速移動している人はいない。
サーマルオフ。
後はこの目で直接探すしか…って、居た!!
まさかの真下の道をトボトボ歩いてるなんて。
トントンッとビル側面の非常階段や室外機を足場にして例の人物の背後へと降りる。
なんて声をかけよう…。いざ目の前にしたら緊張してきたっ!
目の前でキャップとマスクを外し、キャップの中に纏められていた髪を解く捜し人。
私と同じくらいのセミロングの黒髪を手櫛で整えてる! 女の子?男の子?どっち!?
早く声かけなきゃ! えーっと…
「見つけた!!」
声をかけた途端、振り返りもせずにキャップを被り走り出す。 やらかした!! なにしてんのよ私は!
「待って! 話を聞いて!」
追いかけながら背中に向かって叫ぶ。お願い止まって!
家まで押しかけるストーカーみたいなことはしたくないの!
意外にも私の願いは聞き入れられ、止まってくれる捜し人。
よかったぁ…。
「なに…?」
声からは性別がわからない…。マスクしてて声がくぐもっているし、顔もわからない。
「ありがとう。止まってくれて。ここまで走り続けてきたから、正直今逃げられたらもう追いつけなかったよ」
この人相手には嘘も搦手も使いたくない。なにより本音でぶつからないと話を聞いてもらえない。
そう感じた私は今の素直な思いをそのままぶつける事にした。




