かみ合わない二人
探していた人はこちらが名乗ると、”ナオ”と名乗ってくれた。
ちゃんと話を聞いてくれるのはありがたい。
「大切な話だから場所を変えたいんだけど、時間ある?」
「いいけど、場所はこっちが指定する。嫌なら話はここまで。二度とボクに関わらないで」
「それでいいよ。でも変な場所に連れ込んで手を出そうとしたら対処するから」
「しない。話し合いでしょ」
相手の性別もわからないから、多少警戒はする。裏の人間とはいえ、こっちは乙女なんだから。
「ついてきて。行きつけのカフェだから」
「そういう事なら」
寡黙なのか、それだけ言うと私に背を向けて歩いていってしまうからついて行く。
少し歩いてたどり着いたのは、古いビルの地下にある小さなカフェ。
狭い階段を下り、入った店は程よく暗くて落ち着ける雰囲気。ゆったりとしたBGMもかかってるから話もしやすそう。
店内にはオーナーなのか初老のおじさんが一人。カウンターでカップを拭いていて、そのカウンターに一人女性客がいるだけ。
ナオはオーナーに軽く手を上げると奥の席へと私を案内してくれた。
「いい店だね」
「うん。コーヒーでいい?それとも紅茶?」
「紅茶でお願い」
ナオは頷くと、手振りでオーナーへと注文を伝えたみたい。
「それで、話って?」
「単刀直入に言うね。君をチームUiにスカウトしたいの」
「…断る」
「決断早い! 条件とかの提示すら聞いてくれないの?」
「チームUiの噂は知ってる。悪い人達じゃないのも」
「じゃあなんで? 君…ううん。せっかくだからナオって呼んでいい?」
「うん」
「ありがとう。ナオも人助けしてるのなら、うちの活動理念とも合うよね?」
「はぁ……。これだから権力者は嫌いなんだ」
「え…」
「斑鳩って名乗ったよね。つまり、この街のトップの身内。でしょ」
「そうだね。斑鳩が恨みを買うようなことした?」
「違う。何もしてないからいってる」
「私達のチームは街の治安維持に貢献してるし、何もしてないなんて!」
「言い方を変えるよ。ボクがどんな仕事をしてるかどうせ調べてるよね」
「ついさっき知ったばかりだけど…輸血用のパックを運んでるんでしょ」
「そこまでわかってて勧誘するのはバカでしょ」
この子、私にバカって言った!?
私を誰だと思って…!!
イラッとしていい返そうとしたタイミングで店の配膳ドローンが紅茶を運んできてくれて、頭が冷えた。
「バカな私に説明してくれないかなぁ?」
間違いなく顔が引きつってると思うけど、そう尋ねた。
「はぁ…。ボクがどうして運んでるかわからない? そしてもしボクが抜けたらどうなるか想像できない?」
えーっと、血液パックを運んでたのはドローンより早いからでしょ。でもドローンのが遥かに多く運べるはず。抜けたところでドローンがいれば問題なくない?
そもそも毎日運ぶ必要なんてあるの?病院に備蓄だってあるはず。毎日足りなくなるなんてそんな事あり得る?
確かにこの街の治安はいいとは言えない。歓楽街なんだからある程度は仕方がないし、だからこそ私達も活動している。
「理由がわからないのならもう話すことはないよ」
「待って! 何か私の知らない事を知っているのなら教えて。この街の治安がある程度悪いのは理解しているし、怪我人が多いのも知ってる。でもどうしてそんなに輸血パックが足りないの?備蓄は?」
「その備蓄が足りないからだ! 病院に割り振られるのなんてごく少量。だからって大きな病院に優先して回したら、小さな病院が対応できなくなる。だからある程度は倉庫に残して、その都度足りなくなった場所へと中央倉庫から運ぶ」
「つまり、全体的に輸血パックが足りないと?」
「そう。これでわかった?ボクが抜けられない訳が」
理由はわかったのだけど、おかしい。
そもそも足りなくなるような状態になっている事がだ。だって血液パックなんて安価に培養していくらでも増やせる。
だから献血なんて必要ないくらいなのに。
「ちょっと待ってね。私の知っている情報と違い過ぎるから調べるよ」
「どういう事?」
「えーっとね…」
私の斑鳩として把握している知識を説明。ナオは素直に聞いていてくれたけど、不機嫌なまま。
長女の麗奈姉さんへとメッセージを送り、今聞いた情報を伝えたらすぐに返答が来た。
「一年くらい前なら血液の培養設備が故障したから一時的に不足したけど、直ぐに予算を組んだって。今はとっくに修理されて稼働してるそうなんだけど」
「じゃあなんで不足してんだよ。ボクは実際に足りないから運んでるのに」
「……みたいだね、うちの病院からも最近は備蓄が少ないって報告は来てるって。単に消費が多いんだろうと判断して、設備の拡充をするかの検討をしてる真っ最中みたい」
「その間に人が死ぬかもしれないのに!」
「斑鳩だって一気に全部への対応なんて不可能だよ! 他にもやるべきことはあるんだから」
「だったら勝手にしたらいい。ボクは自分に出来ることをするだけ」
ナオはそう言うと、私を睨みつけてカフェを出ていってしまった。
何なのあの態度! 私が誰だか知っててあの態度なのがまた腹立つ。
名前を振りかざすつもりはないけど、今日会ったばかりの人にあそこまで敵意をむき出しにされる理由がわからない。
「”麗亜、至急行ってほしい場所があるの。うちの手の者も向かわせたから、現場で指揮して”」
「姉さん?急になに?どこへ行けばいいの」
「”中央倉庫よ”」
わからないけど、姉さん直々の指示なら逆らうことも出来ない。
仲間へもインカムで情報の共有をして、中央倉庫へと走った。
次回も月曜更新です。




