急転直下
一日。
本当にたった一日で世界地図が書き変わる大事件が起こった。
神威の大都市は斑鳩の私兵とドローンにより完全に制圧。軍も歯向かうものもすべて制圧され、支配階級の人間は全員拘束。
厳しい取り調べの結果、ナイトレスシティで何かしらのトラブルを起こすというのは神威の総意だったと判明し、即刻ナイトレスシティへ連行した後、うちの法によって裁かれてキレイさっぱり始末がついた。
神威の国だったエリアは神楽へと引き渡し、ナイトレスシティは歓楽街として変わらない日常を続けている。
神楽は怖いだろうなぁ。ライバルだった国を一日で落とした挙げ句、なんの見返りもなしにそのエリアを渡されて。
神楽は自国の中に巨大な爆弾を抱えているようなものだ。いや、常に喉元に冷たい刃を押し付けられているようなものか。
仮に神楽が斑鳩が怖いからと何かしら手を打とうとした瞬間、神威と同じ末路をたどるだけ。
斑鳩としてはメンツの問題だっただけなんだよな。”娘を撃たれた落し前をつけてもらう“という。
だから神威の土地なんていらないし、今後も歓楽街としてナイトレスシティを維持したいだけだもんね。
私はそんなニュースを病院のベッドの上でどこか他人事のように眺めていた。
「国が一つなくなったね…」
「みたいだねー」
「うるあ軽くない…?」
「ナオだって」
「なんか現実味がなくて…」
「私も同じ。リアルなのはこのお腹の痛みくらいだよ」
「まだいたむ…?」
「最新の治療を受けたからもう傷跡さえないんだけど、痛みだけはね」
「しばらく大人しくしてる理由にはなるね…」
「早く現場に復帰したいんだけどな」
「副リーダー達が頑張ってるんだし、たまには休みなよ。うるあは気を張り詰め過ぎなんだ…」
「そう…なのかな…」
麗奈姉さんにも散々言われたし、お見舞いに来てくれた両親にも言われた。
斑鳩という家はこの街の裏の顔ではあるけれど、私のような覚悟は時代錯誤らしい。
帰ってきた麗華姉さんにも自分を大切にできない人間に何が守れるんだって泣きながら叱られたっけ。
それでもやっぱり私は同じことが起きればまた同じ行動を取るだろう。
こればっかりは変えられない。それが私の覚悟だから。
ただ、なるべく大切な人に心配かけないようにしなくては…とも思う。
「そういえばナオ。病院でだけどうちの親と顔合わせ出来たね」
「普通に優しいご両親だった…」
「今は引退した一応堅気だし」
「うるあに無茶させないよう見張っててってお願いされた…」
「言われてたね」
「もうこんな無茶させない…」
「どうするつもり?私は今更この生き方を変えられないよ?」
「うるあは変わるよ…」
「無理だよ…」
「大丈夫。僕が変えるから…」
何そのかっこいいセリフ。
ナオはそれ以上は何も言わず、病室の椅子に座る。
怒ってるのかな?普段から言葉数も多くはないし、あまり表情の変わる人でもないけど、今はいつも以上に何を考えているのかわからない。
私自身、心配かけた負い目があるから余計にかも…。
「………」
「………」
沈黙が気まずい…。普段ならナオといる時の、静かな時間も心地よかったのに。
最近はチームのビルの中にある居住エリアでほぼ同棲状態だった。休みの時間はいつも一緒にいて、寝る部屋は違っても一緒に暮らしてきた。それなのに…。
「うるあ」
「うん?」
「傷見せて…」
「え!?」
なんで急に!?それに表面上は傷跡もない。痛みが残ってるくらいで、それもあと数日もすれば落ち着くって話なのに。
「いや…ちょっとそれは…」
「いいから…」
入院着ってワンピース状態なの。脇腹を見せるというのはつまり、そこまで服を捲り上げなきゃいけない訳なのよ。
「…本当は傷跡残ってる…?」
「…気になるの?」
抱くときに傷跡があったら萎えるからとか?
「まだ時々動くと痛そうにしてるから心配で…」
「わかった、ちょっと待って」
そういうね? 心配してくれてるのなら仕方ない…。めちゃくちゃ恥ずかしいけど布団で隠せばなんとか。
布団の中で服を捲り上げて、撃たれた箇所まで布団を下げる。
「…ほら。傷跡無いでしょ?」
ナオは不安そうに覗きこみ、マジマジと見てくる。
「あんまり見られると恥ずかしいんだけど…」
「身体を好きにしていいとか言ってたくせに?」
「それはっ!」
あの時はそういう覚悟をしてたし…。今はそんな覚悟してないから!
「ひぅ…」
「触ると痛いの?」
「違っ…」
急に触れられたから!
「あんなに血が出てたのに…。本当に傷跡がないんだね」
「この街の病院はどこも医療技術が高いからね。殆どの傷跡が消せるって話だよ」
「それって誰でも受けられる施術なの…?」
「そうね。でも、当然お金はかかるね。だから目立たない箇所ならそのままにする場合もあるし、あえて傷を残す人もいるね」
うちの子分とかが名誉の傷とかいって消さないなんてよくある話。
「もういい?」
「……うるあ、キレイなんだから傷増やさないでね」
「はい…」
面と向かって言われると恥ずかし…
「うるあーお見舞いに来た…よ…。あー…ごめん。二時間くらいあとに出直すね?」
「待ってカリン! 誤解! 誤解だから!」
真っ赤になって病室出てったよあの子! 絶対に誤解した! というかノックしろ!
「……誤解じゃなくする?」
「え…?いやいや! 私入院中! 怪我人!」
「冗談だよ…。うるあに負担かけるような事しない…」
はぁ…もう! 今まで冗談でもこんな事絶対に言わなかったのに! 私が誘っても乗ってこなかったのにどういう心境の変化なのよ…。
「…撃たれて血だらけのうるあを見た時に思った…。絶対に失いたくないって。居なくなったらって想像して怖かった。それで気がついたよ。ボクはうるあが好きだって」
「ナオ…」
このタイミングでいきなりの告白。驚きすぎて頭が真っ白になった。
「うるあは本当にボクの事を好き…?」
「うん。前より好きになったくらい」
「じゃあ、うるあが退院したら貰うね…?」
「…はい」
え、まって。つまり退院したらナオとそういう事をするって意味よね!?
急展開が過ぎませんか! 怪我人の私をこんな急転直下のジェットコースターに乗せたの誰!?
………。
それまでに心の準備しておかなきゃ…。
これで一旦完結です。
続きはまた書いているので、纏まったら投稿すると思います。




