城壁の街と冒険者ギルド
昼下がりの陽光の中、街道の先に巨大な石壁が姿を現した。
灰色の城壁はどこまでも高くそびえ、人々を守る要塞そのものだ。
門前には荷馬車や旅人の列ができ、兵士がひとりひとりを確認している。
「……これが街か」
初めて目にする本格的な都市の姿に、思わず息をのんだ。
村の木柵とは比べものにならない威圧感がある。
クロワンのエンジンを落とし、押して門に近づくと、兵士が怪訝そうにこちらを見た。
「おい、それは……獣か? 鉄の車輪?」
「乗り物だ。ちょっと変わってるけど、害はない」
説明になっていない説明をすると、兵士はますます眉をひそめた。
だがサイラスの署名入りの書状を見せると、態度が和らぐ。
「……ふむ、確かに印は本物だな。では通れ」
銅貨を数枚払い、兵士が槍を立て直す。
「――石の街、ロウストンへようこそ」
その一言とともに、俺は高い灰色の城壁の内側へと足を踏み入れた。
【燃料残量:92%】
「……思ったより減るの早いな。街で燃料の目処を探さないと」
◆
街の中は活気に満ちていた。
石畳の道には人と荷車が行き交い、香辛料や布、革細工を売る声が飛び交う。
村では見なかった鮮やかな色彩と強い匂いが混ざり合い、頭がくらくらするほどだ。
クロワンを押しながら歩く俺に、人々が好奇の目を向ける。
「鉄の馬だ……」
「魔導具か? 見たことないぞ」
声がひそひそと後ろからついてくる。
◆
目的地は冒険者ギルド。
石造りの二階建て、表には剣と盾の看板。
酒場のようなざわめきが建物の外まで響いてくる。
入口の脇には馬や荷車を繋ぐための庇下が設けられていた。
俺はクロワンをそこに押し入れ、タンクを軽く叩く。
「ここで待っててくれ」
「ブルル……」
エンジンが低く応えた。
深呼吸して、ギルドの扉を押し開けた。
途端に広間のざわめきが一瞬止まり、冒険者たちの視線が集まる。
「外にある鉄の塊……あれの持ち主か」
「あの鉄馬……厄介そうだな」
好奇と警戒の混じった視線。
俺は慣れてはいるが、やはり居心地は悪い。
◆
受付カウンターに向かうと、若い受付嬢が驚きつつも笑顔を見せた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。……登録をご希望ですか?」
「俺は黒瀬遼。遼と呼んでくれ。相棒はクロワンだ」
名乗ると、彼女は一瞬言葉を失ったが、すぐに書状に目を通す。
「これは……辺境の村のサイラス様の推薦状! でしたら問題ありませんね」
周囲がざわつく。どうやらサイラスの名はここでも知られているらしい。
「では、遼様を正式に冒険者として登録いたします」
受付嬢は書類を整えながら、言葉を続けた。
「ランクアップには“討伐・護衛・偵察”の三種類を少なくともこなす必要があります。数を積めば昇格審査を受けられますよ」
手続きが終わった瞬間、視界にウィンドウが浮かんだ。
【冒険者ギルド登録完了】
・ランク:F
・新機能:サイドバッグ収納 解放
効果:収納アイテムを即座に取り出しやすく配置できる
・登録枠:5
「……Fランクか。最底辺スタートってのはテンプレだな」
クロワンの両脇に革製のバッグの幻影が一瞬だけ浮かび、すぐに消える。
意識すれば、そこから必要な物を瞬時に取り出せる感覚があった。
「ますます旅仕様だな……悪くない」




