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黒鉄の相棒

はじめまして。多呂太郎です。

この作品は「異世界 × バイク × ツーリング」をテーマにしています。

主人公は普通のライダー。相棒のバイクと共に、未知の世界を走り抜けます。

ゆっくりした始まりですが、よければお付き合いください。

 エンジンの鼓動が夜に溶けていく。


 首都高の光の帯を抜け、郊外へ。風は冷たく、ヘルメットの中の呼吸が落ち着いていく。

 俺はアクセルを少し開け、回転数の波に身を預けた。


「やっぱり夜のツーリングは最高だな」


 仕事の残響も、面倒な連絡も、ミラーの向こうに沈んでいく。

 ただ路面、風、エンジン。俺の世界はそれだけでいい。


 ――光が弾けた。


 対向車のヘッドライト? 違う、もっと白い。轟音と重みが押し寄せ、視界が裏返る。

 ブレーキも避ける余地も、もうなかった。



 耳鳴りが消えたとき、まず鼻を突いたのは土と草の匂いだった。

 目を開けると、そこは森。だがすぐに違和感に気づく。


 夜空――。

 見慣れたオリオン座も北斗七星もない。代わりに、青白い光の帯が天を斜めに横切り、赤や緑の星が宝石のように散らばっていた。

 しかも、月は二つ。大小の月が並んで輝き、森を銀と蒼に照らしている。


 樹々は見上げれば首が痛くなるほど高く、幹はビルのように太い。

 葉はかすかに光を宿し、風に揺れるたび森全体が星屑のように瞬いた。

 地面の苔までもが淡く光を返し、歩けば足跡が星の道になっていく。


「……夢じゃ、ないよな」


 息を吸い込む。空気は濃く、肺の奥まで染みわたる。

 心臓は不安で速く打つが、胸の奥は震えていた。


 恐怖ではなく、高揚感。

 地球では絶対に見られない景色。

 ずっと夢見ていた、「誰も走ったことのない道」。


 そして視線を横にずらすと――。

 そこにあったのは、俺の黒鉄の相棒。


 スタンドで静かに立つ愛車は、この異世界の風景の中で唯一、俺の現実だった。


 タンクへ手を置いた瞬間、視界に淡い光が広がった。

 空中に、ゲームみたいなウィンドウ。


【転生者適応完了】

・相棒:魔導バイク〈クロワン〉

・燃料:魔石エネルギー(残量100%)

・機能:収納(Lv.1) 解放


「……転生? 魔導バイク?」

「おいおい、なんでお前がチート能力貰ってんだよ。普通、俺の方じゃないのか」


 苦笑いしながらキーをひねる。

 キュルル……ドドドン! 低く太い排気音。鳥が一斉に枝を跳ねた。

 ヘッドライトが闇を切り、露に濡れた大地を浮かび上がらせる。


 その時――低い唸り声。



 茂みの向こうで草が割れ、牙の生えたイノシシのような魔獣が現れた。

 赤い目がこちらを射抜き、唾を飛ばしながら突進してくる。


「っ……!」


 背筋が凍る。

 横へ逃げる道はない。森道は狭く、木々に挟まれている。


「くそ……!」


 反射的にハンドルを切り、ギリギリで一度避ける。

 森猪はすぐに方向を変え、再び突っ込んできた。


 逃げ回るだけじゃ、いずれ捕まる。

 胸の奥で「生き物を轢く」抵抗と、「やらなきゃ死ぬ」必死さがせめぎ合う。


「……やるしかない!」


 アクセルを開ける。

 クロワンのエンジンが吠え、ライトが獣の目を射抜く。


 正面衝突。

 凄まじい衝撃で体が浮きかけ、ハンドルを必死に握り締めた。

 森猪は横転し、木をへし折りながら地に叩きつけられる。


「……やった、か?」


 立ち上がる。血を吐きながら、なお牙を剥いてくる。

 足元がすくむ。まだ死んでない。


「来い……!」


 二撃目。クロワンを傾け、側面からぶつけるように突っ込む。

 ライトが赤い目を灼き、鉄の質量が獣を押し倒した。

 森猪は悲鳴を上げ、痙攣し――ようやく動かなくなった。



 ヘルメットの内側に荒い呼吸がこもる。

 手は震え、吐き気が喉に上がる。

 だが、視界にはまた光が浮かんだ。


【討伐確認】

・対象:森猪(上位種)

・取得可能素材:牙/皮/肉/魔石

→収納しますか?[はい/いいえ]


 目の前に浮かぶ文字。だが頭は混乱でいっぱいだった。

 指先が動かない。何を選ぶ余裕もなかった。


 その時、視界の端に小さく表示が滲んだ。


【燃料残量:98%】


「……動けば減るのか。マジで燃料管理いるんだな」


 タンクに手を置き、深く息を吐いた。


「……ひとまず、落ち着ける場所を探そう」


 エンジンをかけ直す。

 闇を切り裂く光の道が、どこまでも続いている気がした。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

読んでもらえるだけでとても嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!

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