黒鉄の相棒
はじめまして。多呂太郎です。
この作品は「異世界 × バイク × ツーリング」をテーマにしています。
主人公は普通のライダー。相棒のバイクと共に、未知の世界を走り抜けます。
ゆっくりした始まりですが、よければお付き合いください。
エンジンの鼓動が夜に溶けていく。
首都高の光の帯を抜け、郊外へ。風は冷たく、ヘルメットの中の呼吸が落ち着いていく。
俺はアクセルを少し開け、回転数の波に身を預けた。
「やっぱり夜のツーリングは最高だな」
仕事の残響も、面倒な連絡も、ミラーの向こうに沈んでいく。
ただ路面、風、エンジン。俺の世界はそれだけでいい。
――光が弾けた。
対向車のヘッドライト? 違う、もっと白い。轟音と重みが押し寄せ、視界が裏返る。
ブレーキも避ける余地も、もうなかった。
◆
耳鳴りが消えたとき、まず鼻を突いたのは土と草の匂いだった。
目を開けると、そこは森。だがすぐに違和感に気づく。
夜空――。
見慣れたオリオン座も北斗七星もない。代わりに、青白い光の帯が天を斜めに横切り、赤や緑の星が宝石のように散らばっていた。
しかも、月は二つ。大小の月が並んで輝き、森を銀と蒼に照らしている。
樹々は見上げれば首が痛くなるほど高く、幹はビルのように太い。
葉はかすかに光を宿し、風に揺れるたび森全体が星屑のように瞬いた。
地面の苔までもが淡く光を返し、歩けば足跡が星の道になっていく。
「……夢じゃ、ないよな」
息を吸い込む。空気は濃く、肺の奥まで染みわたる。
心臓は不安で速く打つが、胸の奥は震えていた。
恐怖ではなく、高揚感。
地球では絶対に見られない景色。
ずっと夢見ていた、「誰も走ったことのない道」。
そして視線を横にずらすと――。
そこにあったのは、俺の黒鉄の相棒。
スタンドで静かに立つ愛車は、この異世界の風景の中で唯一、俺の現実だった。
タンクへ手を置いた瞬間、視界に淡い光が広がった。
空中に、ゲームみたいなウィンドウ。
【転生者適応完了】
・相棒:魔導バイク〈クロワン〉
・燃料:魔石エネルギー(残量100%)
・機能:収納(Lv.1) 解放
「……転生? 魔導バイク?」
「おいおい、なんでお前がチート能力貰ってんだよ。普通、俺の方じゃないのか」
苦笑いしながらキーをひねる。
キュルル……ドドドン! 低く太い排気音。鳥が一斉に枝を跳ねた。
ヘッドライトが闇を切り、露に濡れた大地を浮かび上がらせる。
その時――低い唸り声。
◆
茂みの向こうで草が割れ、牙の生えたイノシシのような魔獣が現れた。
赤い目がこちらを射抜き、唾を飛ばしながら突進してくる。
「っ……!」
背筋が凍る。
横へ逃げる道はない。森道は狭く、木々に挟まれている。
「くそ……!」
反射的にハンドルを切り、ギリギリで一度避ける。
森猪はすぐに方向を変え、再び突っ込んできた。
逃げ回るだけじゃ、いずれ捕まる。
胸の奥で「生き物を轢く」抵抗と、「やらなきゃ死ぬ」必死さがせめぎ合う。
「……やるしかない!」
アクセルを開ける。
クロワンのエンジンが吠え、ライトが獣の目を射抜く。
正面衝突。
凄まじい衝撃で体が浮きかけ、ハンドルを必死に握り締めた。
森猪は横転し、木をへし折りながら地に叩きつけられる。
「……やった、か?」
立ち上がる。血を吐きながら、なお牙を剥いてくる。
足元がすくむ。まだ死んでない。
「来い……!」
二撃目。クロワンを傾け、側面からぶつけるように突っ込む。
ライトが赤い目を灼き、鉄の質量が獣を押し倒した。
森猪は悲鳴を上げ、痙攣し――ようやく動かなくなった。
◆
ヘルメットの内側に荒い呼吸がこもる。
手は震え、吐き気が喉に上がる。
だが、視界にはまた光が浮かんだ。
【討伐確認】
・対象:森猪(上位種)
・取得可能素材:牙/皮/肉/魔石
→収納しますか?[はい/いいえ]
目の前に浮かぶ文字。だが頭は混乱でいっぱいだった。
指先が動かない。何を選ぶ余裕もなかった。
その時、視界の端に小さく表示が滲んだ。
【燃料残量:98%】
「……動けば減るのか。マジで燃料管理いるんだな」
タンクに手を置き、深く息を吐いた。
「……ひとまず、落ち着ける場所を探そう」
エンジンをかけ直す。
闇を切り裂く光の道が、どこまでも続いている気がした。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
読んでもらえるだけでとても嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




