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幕間 その3 ずっと側に在るお別れ 前編

この幕間は、侯爵家令嬢のアリスティア・ラクスター視点です。


 私があの人達に、アルゴーさんとマーレさんのお二人に出会ったのは、もう十年も前のことです。


 その時のアルゴーさんは十四才で、マーレさんは十三才、十才の私よりずっと大人みたいでした。


 なのに、出会ってお互いを知った途端、マーレさんが自分をお姉ちゃんって呼んでと言ったのも、それを聞いたアルゴーさんが慌てて止めたのも、なんだかまだまだ子供っぽくて、おかしくなった私が笑い出したのを切欠に、三人で楽しく笑いあったのが、まるで昨日の出来事のように、今でもはっきりと思い出せます。


 お二人と会わせてくれたお父様とお母様は、私の身辺警護の為に連れてきたと言っていました。


 けれどそれよりも、優しくて色んな事を知っているお兄ちゃんと、明るくてとても元気なお姉ちゃんが、いつも側に居てくれるそんな毎日が楽しくて、何より嬉しかったんです。



 でも、出会ってから一年が過ぎた頃、ずっと三人でいられた毎日が、変わりました。



 丁度その日は、アルゴーさんのお誕生日。


 士導院しどういん から鑑定魔法の使い手さんがやってきて、アルゴーさんのように十五才で大人の仲間入りをする人達をみんな集めて、適合検査というのを始めたんです。


 その時の私は何も解りませんでしたけど、それでもとても大事らしいこの検査で、アルゴーさんとずっと一緒にいられるこれから先が全て変わってしまうかもしれない、そんな予感はしていました。



 そしてその予感は、的中します。



 アルゴーさんは 騎装士スキナー として、 紋繰騎クレストレース を操るのに必須な適合という素質があって、しかもその日集まった中でも一番高い、そんな鑑定結果が出てしまったんです。


 それを知って彼も、そしてマーレさんも、とても嬉しそうにしていたのは覚えています。


 だけど私は、素直に喜べませんでした。


 だって、騎装士は立派なお仕事だけどいつだってとても忙しくて、それに危ないんだって聞いていたんですから、喜ぶなんて出来ません。


 それでもなんとかそんな思いを必死に隠して、おめでとうと伝える事だけは出来ました。


 その瞬間の、今にも泣き出しそうな私を見てちょっと困ったような、それでも嬉しそうなアルゴーさんの笑顔が、忘れられません。



 その翌日からは、正式な騎装士になる為に忙しくて来られなくなったアルゴーさんの分まで、マーレさんはいつもよりもっと一緒にいてくれるようになりました。


 けれども、時々会いに来てくれるアルゴーさんと話すたびにマーレさんは、きっと騎装士になって将来は二人で私やラクスター領の為に一生懸命働くんだ、なんて言うんです。


 そんな時私はこっそり、この世界にいるかどうかまだ知らなかった神様に、どうかマーレさんとずっと一緒にいられますようにって、お願いしていました。


 出会った時からずっと、アルゴーさんとマーレさんはお互いにとても深く想いあっていて、本当は今すぐにでも二人で一緒に居たいと思っているのを、ちゃんと知っていたのに。


 だからきっと、自分の為のこんな意地悪なお願いなんて、叶えてもらえなくて当然なんです。


 アルゴーさんに続いてマーレさんも、十五才のお誕生日に騎装士になってずっと一緒にはいられなくなってしまって、私はちょっぴり紋繰騎が嫌いになりました。



 それから数年の間は、ほとんどがどちらか片方だけとしか会えなくて、お二人揃って会えるのは一年の内で一度あるかないかくらいでした。


 そしてお二人の代わりに私の身辺警護をしてくれるような、近い年頃の人も現れません。


 それでも、私が十五才になったその日はどうにか都合を整えてくれたおかげで、三人で一緒にお祝いする事が出来て、本当に嬉しかったです。


 ちなみに、私もお誕生日の当日に適合検査は受けましたけど、とても残念な事に騎装士になれる素質は全く無くて、それでまた少し紋繰騎が嫌いになりました。



 そうしてお二人が側に居ない毎日に少しずつ慣れていって、私が十七才になった日から側付きメイドとしてミトリエが一緒に居るようになった後も、暇を見つけてはアルゴーさん達が私に会いに来てくれました。



 ところがその頃になっても、どうしてかアルゴーさん達は結婚しなかったんです。


 あれほどお互いを大切に想っていて、お二人の仲睦まじい様子が離れている私の耳に届くほど、噂になっていたのに。


 なのである時マーレさんに、思いきって尋ねてみたんです。


 そうしたら返ってきた言葉は、騎装士はとても貴重な存在で今も人数が少ないから、もう少し増えるまで辞める気はない、でした。


 大事な領地と、それよりもっと大切なそこに暮らす人達を魔獣や魔物から守る為とはいえ、どうしてアルゴーさん達がご自身の幸せを犠牲にしなければいけないのか、私には納得出来ません。


 なので思わず私は、こう言いました。


 今すぐお父様に働きかけて、私も一緒に色々考えて、もっと領内を守る騎装士を増やしますから、近い内に必ず結婚してください、と。


 その時の、優しく微笑みながらありがとうって言って、昔よりもずっと力強いけれど柔らかくて温かい抱擁が、忘れられません。



 とは言ったものの、お父様だって無策な訳ではなく、そしてまだまだ世間知らずな私に、良い解決策がすぐ思い付くはずもなく。


 唯一出せた案は、適合検査を受けられる年齢の引き下げでしたけど、主に金銭面の問題が大き過ぎるという理由で、協力してくれたミトリエが騎装士の素質を持っていたという実例だけを残して、計画は中止になり、そうこうしている内に、お父様が以前から考えていた策が実行される事になりました。


 より高度な技術や能力を身に付けた、領内での紋繰騎隊全体の運用を任せられる専門の長、その育成を目的として士導院へ長期派遣される騎装士に、アルゴーさんとマーレさんが選ばれたんです。


 派遣される期間の一年は、とても長く感じましたけど、それさえ済めばお二人がその先はもうずっと一緒にいられる、そして忙しいのは変わらなくても、今よりもっと私とも会える機会が増える、そう思うと嬉しくて。


 出発の準備をしているアルゴーさん達に会いに行って驚かせた時にも、笑顔でいってらっしゃいと伝えられて、お二人からも同じ笑顔で感謝の言葉といってきますの挨拶を、返してもらえました。



 けれどそれが、アルゴーさんとマーレさんの元気な姿を見た、その最後でした。


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