表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/104

幕間 その4 ずっと側に在るお別れ 後編

前編から引き続き、侯爵家令嬢のアリスティア・ラクスター視点です。


 アルゴーさんとマーレさんが 士導院しどういん へと長期派遣されてからも、私の毎日は特に大きくは変わりませんでした。


 唯一少し変わったと言えば、せっかく適合の素質があると判ったミトリエに何もさせないのは彼女に悪いからと、適合検査の年齢引き下げ計画の時にも協力してもらっていた、 紋繰騎クレストレース 隊の中でも若い年頃の女の子だけが纏められている、第05小隊の訓練に時々参加させて、お伴をした私は小隊のみんなとお茶会をしたり楽しくお話をして、仲良くなったくらいです。


 けれど、そんな日々が続いてアルゴーさん達が派遣されてから約半年後のある日、士導院から知らせが届きました。



 その内容は、アルゴーさんとマーレさんの失踪。



 理由は不明で、簡単に記された手紙をお父様から見せられた私は、ただただお二人の心配を口にするしかありません。


 そこでお父様は、私と仲の良い第05小隊のみんなを纏める隊長のエルフィナさんを呼び出し、事情を説明した上でアルゴーさん達の捜索と調査を指示して、表向きは小隊全員を士導院へと訓練派遣する事と、この件を私に任せる事を、決めてくださいました。


 急な派遣が決まって、慌ただしく出発する小隊を見送る私の内心は不安で一杯でしたけど、彼女達は笑顔で任せてくださいと言い残して、インガルへと向かいました。



 でも、事件の全貌を知った後で思い返すと、この時私達は既に犯人達の罠に掛かっていたんです。



 士導院は、全ての国や人々に大きな影響力を及ぼす組織ですので、そこから発せられる知らせは強い説得力を持ちます。



 国や貴族に仕える 騎装士スキナー の失踪という士導院名義の知らせは、主には事件の発覚を遅れさせ、あるいは隠蔽する為の手段であり、その影には不審に思って調査に来た者に含まれる可能性のある女性を狙う、狡猾な目的も隠されていた。



 インガルを守る衛兵隊長さんから聞かされた、事件捜査の最終報告ではそう結論付けられていましたけど、その時の私や小隊のみんなは知る由もありません。


 そして時折エルフィナさんから送られてくる便りは、どれも捜索と調査が進んでいないという内容ばかりで、不安と焦りは増す一方でした。


 その後また約半年が過ぎ、まだ何の成果も得られていなかったところに突然、エルフィナさんから緊急報告が届いたんです。


 手短なその内容は、“アルゴーさん達の失踪は事件の可能性が高いので侯爵家の力を借りたい”、というものでした。



 上級貴族の力を借りたいという要請は、士導院で起きているのが何か重大な事態だという証拠。



 そう判断した私と、ミトリエにハウザーさんとイレーヌさんの四人は、大急ぎでインガルへと向かい、そして私達は偶然、彼に出会ったんです。




「ユージさんっ!? どうしたんですかっ、その有り様はっ!?」


「げぇっ! イレーヌさんっ!」


「なんですかその叫びはっ! まさか、何かやましい事でも……」


「いやっ! 何もないよっ! 何もしてないからっ!」


「ではその格好について、きちんと説明して頂けますね」



 私とイレーヌさんに見つかって、何だか気まずそうに立っているとても酷い格好をした男性は、ユージさん。


 インガルへ向かう途中に出会ってからずっと、私達全員を様々な意味で救ってくださった、とても大切な恩人です。



「こ、これはさぁ、えーと……見た目詐欺夫婦と、ちょっとじゃれ合った結果で……す」


「……何をどうすれば、ユージさんにそれほどの被害を与えられるのか、私にはさっぱり分かりませんけど、ケガは無いんですね?」


「うん、それは大丈夫だよ」



 とても酷い格好とは言いましたけど、装備の傷や衣服の破れはあっても、どこかにケガをしている様子はなくて、心から安心しました。



「ではもうじき夕食ですので、それまでにお風呂へ入って着替えを済ませてくださいね」


「分かったよ……で、さ。こんな格好で悪いんだけど、アリスとイレーヌさんに渡したい物があるんだ」


「私達に、ですか?」



 そう言ってユージさんは持っていた袋を探った後、大きさと結んだリボンの色が違う包みを二つ取り出して、私達に差し出しました。



「大きい方がアリスの分、小さい方がイレーヌさんの分だ」


「なんです、これ?」


「あー、その……普段色々と世話になってるからさ、お礼の贈り物だ」



 一瞬だけ何故か、ユージさんの表情が少し暗くなったのは気になりましたけど、それより独身の男性からの贈り物は初めてで、しかもそれがユージさんからだなんて嬉しくて、ドキドキしてしまいます。



「はぁ……ユージさんにはもう少し、雰囲気や場所や服装を考えてください、と言いたいところですけどお嬢様が大変お喜びですし、この際それには目を向けません。ですけど、私も頂戴してよろしいのですか?」


「ホントは誰にも見つからない内に、着替えてから渡そうと思ったんだよ。んでもちろん、普段から世話になってるイレーヌさんにも、もらってほしいんだ」


「そうですか、ではありがたく頂戴致します」


「ユージさんっ! ありがとうございますっ!」



 どうしたんでしょう、いつもなら一言でも返事をしてくれるユージさんが、この時はすぐ私達に背中を向けて、ヒラヒラと手を振るだけでした。



「お嬢様、一度お部屋へ戻って贈り物を置いて参りますので、お預かり致します」


「いいえ、せっかくですから私も一緒に戻ります、だから二人で開けましょう」


「承知致しました」



 彼は、出会った時からずっと、ふと気が付けば目で追いかけてしまう、身近ではただ一人の年が近い男性で、色々と凄い事が出来て、人助けを厭わずに軽々と行い、なのに少しもそれを誇らず、それどころか目立つのを嫌う人。


 そんなユージさんからの贈り物です、ドキドキせずにはいられませんし、夕食後まで待つなんてソワソワし過ぎて、きっと我慢なんか出来ません。



 代官屋敷でお借りしている部屋へ戻って、まずはソファの前のローテーブルに贈り物の包みをそっと置いて、じっくり眺めてみます。


 大きい方とユージさん言っていましたけど、それでも私の両手に収まるくらいの包みには、可愛らしく結ばれたリボンが一本。



「まぁ!」


「わぁ! 素敵ですね、イレーヌさん!」



 一言小さな驚きの声を上げた彼女の手の中には、袖を留める綺麗な銀色のカフスボタンが一組、女性向けらしい花の形をした装身具は、イレーヌさんが常に着ている侍女服に良く似合うでしょう。



 という事はです、私への贈り物も恐らくは……。



 期待を込めていそいそとリボンを解き、包みを開けるとそこには別々な包みが二つ、ますます募る想いを堪えて一つ目を開くと、綺麗な装飾の施されたブローチが現れました。



「わぁっ! とっても綺麗!」


「まぁまぁ! 良かったですね、お嬢様!」



 すかさずイレーヌさんがドレスに留めてくれる手を見ながらも、その向こうにある二つ目の包みにも注目してしまいます。



「大変お似合いですよ!」


「ありがとう、イレーヌさん!」



 ニッコリ笑って誉めてくれる彼女に応えながら、次の包みを手に取ってそっと開くと、そこには――


「え、これって……」


「そんな、まさか……」


――贈った私が、手に入れる為に協力してくれたイレーヌさんが、見間違えるはずありません。



 それは確かに、アルゴーさんとマーレさんへと贈って、お二人と共にもう二度と戻ってこないと諦めていた、一組のイヤーカフでした。


 私の十五才のお誕生日をお祝いしてくれたお礼にと、アルゴーさん達の名前を彫って片方ずつお渡ししたら、目の前でお互いの名前入りの物を交換しあっていたのを、はっきりと覚えています。



「おに、ぃちゃん……おねぇちゃ……」


「…………」



 さっきまではあんなに嬉しかったのに……いいえ、今でもちゃんと嬉しいはずなのに、それ以上にとても悲しくて辛くて勝手に涙が溢れて、止まりません。



 本当は……本当は、アルゴーさん達の最期なんて、信じたくなかった!


 お二人とも笑顔でいってきますって、言ってくれたんです!


 だからきっと、急に居なくなっても、いつかは必ずまた、笑顔で帰ってきて、ただいまって……。


 持ち物さえ何も残っていなかったのは、その証拠だと信じたかった、のに……どうして、ユージさんは……。




「……ん、んぅ」



 ふと気が付けば、いつの間にかベッドに寝ていて、もう外は明るくなっています。


 どうやら私は泣き疲れて、眠ってしまっていたようですけど、それでも何があったかはちゃんと知って……。



 そう、だ。



 ユージさんだって、アルゴーさん達を知らなくても、お二人に何があったかは知っています。


 それで昨日は、贈り物を渡す時に表情が暗くなっていたり、渡し終えたらすぐに立ち去ってしまったんですね。


 どんな奇跡を使っても、アルゴーさん達はもう帰ってはこないし、生き返らせる事も出来ないけれど、せめて持ち物くらいはと、私が悲しくて辛い気持ちになるのも知っていて、それでも渡してくれたんでしょう。



 それなら……。



 普段通りに身支度を整えて、今日からは一番最後にイヤーカフを身に着けます。


 でも、こうしていればアルゴーさん達がいつでも側に居てくれるなんて、そんな事は思いません。


 これは、私が生き続ける限り、そしてもう旅立ってしまったお二人を覚えている限り、ずっと側に在るお別れなんです。


 そうですよね、ユージさん。


 そして……さようなら、アルゴーさん、マーレさん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ