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魔晶還元器実騎試験 その2


『なんと言うか、魔力の源が魔石から魔晶還元器に変わっても、出せる力や速さが明らかに向上する、なんて上手い話じゃないんですね』


『それはどうかしら……』


『フィナ隊長、何か気付きましたか?』


『えぇ。リッシュ、貴女と私の騎体は従来型、性能が伸びるのは連続使用する時間くらいでしょうけど、エリナ騎をよくご覧なさいな』


『……わっ、あんなに激しく動いて大丈夫なのかな』



 魔晶還元器の実騎試験、最初の試験項目は従来型の騎体でもよくやってる、通常通りの動作確認だ。


 各関節の曲げ伸ばしに始まって、武器や 魔法戦杖(バトルスタッフ) の軽い取り回しとか素振りなんかをしながら、 騎装士(スキナー) と整備担当の 紋繰騎造師クレストレースビルダー が同時に騎体の調子を内と外から確かめる。



 んで、オレはもちろん魔法で、そしてルーナや爺さん達は魔導具で、騎体の各部を細かく鑑定しながら様子見してるんだけど――


「ねぇ、ユージ君。これどう思う?」


「そうだな、魔力の供給は安定してる……っつか、前に鑑定した時と比べて、明らかに各部への魔力の供給量が増えてるな。けど……」


「うん、言いたい事は分かるよ。多分、供給する魔力が多過ぎて、それに対する魔力路が細いんだと思うんだ」


「……だよなぁ。それとこれも予想だけど、マッスルメタルでの魔力消費量も、供給量に追い付いてないんだろうな」


「だよねぇ……。魔力路とか筋線と板筋から漏れる余剰魔力が、もったいなさ過ぎるよ」


――三騎とも、熱で陽炎が立ち昇ってるみたいに、全身から魔力を周囲にガンガン放ってたんだ。



 魔晶還元器の魔力ダダ漏れ問題は加工精度と工夫でクリアしたのに、今度は騎体側全体で問題発生かよ。


 短期的にはともかく長期的に見たら、フィナの言う通り連続使用時間が伸びる分、マッスルメタルの金属疲労が深刻化しかねない、特に従来型からすればかなりヤバい問題点だぞ。



 マッスルメタルの特徴は、地球の技術で例えると形状記憶合金、その魔力版だ。


  騎導紋(ガイスト) の働きで外部から加えられた変形に対して、供給された魔力で元の形状に戻るその性質が、 紋繰騎(クレストレース) を動作させる駆動系になってるんだ。


 ところが、その性質をフルに活かす動作を長時間続けても、騎体の各部から大量にダダ漏れさせるくらいに魔力供給が安定してるせいで、その安心感の上に 騎装士(スキナー) が胡坐かいて油断してたら、間違いなく致命的なミスに繋がっちまう。


 例えば、今まで以上の長い戦闘中に筋線と板筋が金属疲労の限界を超えて騎体が損傷停止、その隙を突かれて魔獣に撃破される、とかな。


 その点、駆動系改良型のエリナ騎は簡単に見比べても判る通り、スライムを組み込んだ分で魔力消費量もパワーもスピードも明確に上がってるけど、反面騎体重量が従来型の三割増しだから、筋線と板筋にかかる負担も確実に増えてるし、その良し悪しがバランス取れてるかどうかは、まだ未知数だ。


 てかエリナお前、何でか知らねぇけどなんかやたら気合い入れて動いてるし、そんなにこの試験が楽しみだったのか?



「ふぅむ……こりゃあ筋線と板筋はともかく、魔力路は対魔銀を表面に被せてやって、魔力漏れを減らしてやらんと危険だな」


「あー、そういう使い方もありか。でも費用がなぁ……」



 魔力は電気と違って、被覆なしでも感電とか漏電したり、周囲に電磁ノイズ撒き散らしたりするわけじゃないし、爺さんが言う危険ってのは謎だけど、せっかく作って送り出した魔力がただ漏れるのを放置するのはもったいないっていう、ルーナの意見は理解出来る。



 けどそうなると、騎体全身の魔力路に使う対魔銀の調達費と、何より被覆の加工費が――


「む、そういえばユージは知らんかったか。魔獣は、特に大型の奴らや大きい親玉のいる群れなんかはな、より強い魔力を感じるとそこに近付く性質があるんだ」


「……それって魔獣からすれば、魔力はエサみたいなもんだからか?」


「みたいではなく、そのまんまだわい。まぁこの事は本来、正式な騎装士なら士導院や配属先の先輩に教わるからな、お前さんが知らんのも仕方なかろう」


――費用とか材料で悩むとか、それどころの話じゃなかった。



 オレが関わった魔獣との戦闘はまだ二回、しかもどっちも迎撃戦だった。


 けどよく考えてみりゃ、遠距離で倒したトライデントリザードはともかく、レギオンマンティスはこっちとさんざん近接戦闘したんだし、あいつらは分かってたはずだ。


  紋繰騎(クレストレース) は全身が金属の塊で、食えるのは中身の人間くらい、硬い殻をわざわざ壊して食うほどの価値なんかないってさ。


 なのに、痛い目に遭わせてくるオレ達を無視したり逃げたりしないで、ひたすら襲いかかってきてたのは、そういう理由があったからなのか。


 士導院(しどういん)……いや、 紋繰騎(クレストレース) っていう“魔獣をより効率的に駆除するシステム”を創り出した奴は、とんでもない考えの持ち主だったらしいな。



  紋繰騎(クレストレース) は魔獣との戦いで最前線に立って、大きな戦果を挙げられる国家の主軸戦力、これは間違いない。


 その設計思想っつーか、どっちかってーと存在意義だろうけど、メインはもちろん大型魔獣との戦闘で活躍出来るからだ。


 でも、その影に隠れてるもう一つの側面、騎体を動かす魔石そのものと、そこから引き出される大量の魔力が、魔獣の持つ性質を逆手に取った、殺虫灯みたいな役割も兼ねてる。


 デカい魔獣を相手に戦えるし、騎体には人の住む場所より多い魔力を持ってるから、魔獣を誘き寄せる釣り餌にもなるおかげで、人間が大勢で積極的に出向かなくても手軽に退治出来る。


 だからこそ、 紋繰騎(クレストレース) が金食い虫だと分かっていても、士導院(しどういん)も各国もずっと使い続けてるんだ。



 ……にしても、自律戦闘が可能で、豊富な魔力に誘き寄せられる魔獣の行動も誘導出来る、対大型魔獣用の主力、かつ現段階だと最も有効な囮か。


 そりゃあ、こんな存在意義を持った強力な兵器が、限られた奴にしか扱えないってんなら、 紋繰騎(クレストレース) に乗って 騎装士(スキナー) として活躍出来る人材を、期間限定的にでも貴族扱いするし、それが人によっては誇りにもなれば、逆に選民思想みたいにアホな考え持つ奴らが出たりもするよなぁ。



「……それ踏まえたら、フィナ達は揃って“良い女”ってやつなんだろうな」


『えっ!? 私いま、ユージさんに誉められましたのっ!?』



 あちゃ、思わず口から漏れちまったけど、しっかり聞かれてたなんて恥ずかしいな。



『フィナ隊長っ! ちゃんと聞いてましたか! ユージさんは、“達”って言ってましたよ!』


『えへへっ! ユージさんがそんな風に誉めてくれるなんて、女の子として嬉しいなぁ』


「……おーい、お前ら。今のは物の例えだぞ。つか、動作確認はそろそろ終わりにして、 魔法戦杖(バトルスタッフ) の試射準備始めるぞ」


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