08.ミュルの行方
なんか中途半端な終わり方です。
なので先に謝っておきます。
ごめんなさい。
「ブハァッ!」
気が付くと宿屋の中にいた。
どうやら寝てしまっていたようだ。
グランが目を覚ましたのに気が付いたフェルが「大丈夫か?」と駆け寄ってきた。
「帰ってきたと思ったら急に倒れるから、心配したぞ。」
「そうだったのか。ありがとう。足は治った?」
「おかげさまでな。もう痛みはない。」
早い段階でグランが手当てをしたおかげで足の罅は塞がったようだ。
「ところで、ミュルはどこに?」
「まだ帰ってきてないが、ミュルがどうかしたのか?」
そうか、と返事だけして右眼に手を翳す。このままミュルを放っておいたらどうなるのか考えながら。
心配性かもしれないが、一つだけ確認しておきたいのだ。
あの夢が予知夢である可能性を。
周期や条件はわかっていないが、グランは予知夢を見ることがある。
どれも不幸なものばかりだが、どうにもならないものではないことが多い。気分は良くないが。
ただの早とちりであることを願いながら、紅正星式真眼の能力を使う。
眼からイメージが流れてくる。
──ミュルは日が暮れても帰っては来ない。
夜遅くに捜索に行くと、森の奥で血だらけのミュルが発見される──
残念ながら予知夢のようだ。
グランは舌打ちし、ミュルを探しに行く準備をする。
グランの様子を不思議そうに眺めているフェルに、
「早くいくぞ、付いて来い。」
やや強い口調で言い放ち、宿を後にした。
何だかよくわからないまま、フェルも付いて行くことにした。
「なあグラン、ミュルがどうかしたのか?」
「あ? お前心読めるくせにわかんないの?」
前回散々俺の心の中を覗きやがってッ、と小声で付け足す。
が、言ってることの訳がわからない様子のフェルは、取り敢えず訂正する。
「それがグランの心だけは読めんのだ。しかしどこで私が人の心を読めることを知ったのだ?」
フェルは続けてひとつ疑問を口にしてみるが、それへの返答はない。
「(面倒くさい仕様になりやがってッ!)」
グランは舌打ちする。
確かに前回と多少誤差があることは予想していた。
だがこんな面倒な仕様変更があったとは。
溜息をつき、フェルからの最初の疑問に答える。
「このままだとミュルに良くないことが起こる。だから助ける。」
真面目な声色で答えたグランに、フェルから追加の質問はなかった。
■■■
息を切らしながらも二人は木々をかき分け進んで行く。
かれこれ10分以上も走りっぱなしだ。
体力のないグランにはきついものがある。
そして本格的にグランが疲れだしたとき、ようやくミュルを見つけた。
「いた ────あれ?」
近くまで駆け寄って、立ち止まる。
「どうかしたのか?! グラン!」
続いてフェルもやってくる。
よほど心配だったのか、走って掻いた汗のほかに冷や汗を掻いているようだった。
「あ、うん。えっとね。」
グランは引き攣った笑みを浮かべ、冷や汗を掻きながらあやふやに答えるだけにとどめた。
端的に言おう。
別にミュル、なんともない。
山賊(と思われる集団)と一緒に酒を楽しんでいた。
しかも今までにないくらいの笑顔で。
「……。」
一先ずグランは、この後どうしようか考えることにしたのだった。
■■■
『早とちりの人』
そう書かれたプラカードを下げて正座させられているグラン。
その表情は疲労の色が滲んでいた。
斯く至るまでを簡単に振り返ろう。
先ず、グランはミュルがいなくなる予知夢(らしきもの)を見たことから、フェルとともにミュルを探し始めた。
次に、二人の懸命な捜索の結果、無事にミュルを見つけることは出来たが、ミュルはいたって健康で、怪我の一つもありはしなかった。
終いにグランが紅正星式真眼の能力を使ってちゃんと調べた結果、ミュルは倒れていたわけではなくただ寝ていただけで、酔っ払いミュルの前に現れてしまった大型のモンスターがミュルの攻撃魔法で滅多打ちにされ、ミュルはそのまま魔力切れで寝落ち、その体には倒されたモンスターの返り血がべっとりとついていただけ、ということだった。
グランの早とちりに振り回されたフェルは、戒めとしてグランに『早とちりの人』と書かれたプラカードを下げさせている。
今回の事の非を全面的に認めたグランは、雰囲気で正座をすることにした。
「そうだ、フェル。これをミュルに飲ませておいて。」
「媚薬か? なら私にも飲ませてくれ。」
「違う、悪酔い防止薬だ。ミュルが悪酔いしないようにしないと、大変なことになる。」
想像しただけでもぞっとする……というようなグランの表情を見て、フェルは薬を受け取りミュルに適当なこと言って飲ませていた。
二人も、ミュルと一緒に山賊たちの宴にまぜてもらっている。
楽しそうに酒を飲む山賊たちの中に一人、グランには見覚えのある顔があった。
「(あ。えっと、確かあの子は……)」
うっすらと思い出そうとし、でも出てこないので、まあいいかと流そうとしたとき、少女と目が合った。
「(赤毛のショートカットに紅く透き通った眼、あの白い肌…… あ!)」
そしてやっと思い出した。
「(昼間治療した女の子だ。)」
グランは調子を訊くために立ち上がって、少女の傍へと向かった。