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第四章 真実



 篝はすくすくと育っていた。

 いや、むしろ。

 育ち過ぎていた。

「ぱぱぁ」

「ほーら、こっちへおいで」

 生まれてから一ヶ月。

 すでに立って歩けるようになっていた。

 もう驚きの範疇を超えている。

 瑚太朗の中で常識というものがガラガラと音を立てて崩れていた。

「うっぷす」

「おまえ、いつの間に英語まで覚えたのかよ」

 瑚太朗に手を伸ばして歩き、しがみついた。

 一日こうやって二時間くらいは散歩させている。

 まだずっと立つことは出来ないが。

(それでも普通じゃねえよな……)

 この現象をどう捉えればいいのか。

 いろいろ考えてみた。

 この境界での魔物が放出するエネルギーが、篝に影響を与えているのか。

 だが振り返ってみても、自分にはそんな影響など感じられない。

 篝がこの調子で成長を続けるなら、自分なら急激な老化現象があっても不思議ではないのに。

 むしろ鏡で見ると、以前より若くなってるような……。

(そんなアホな)

 もう二十六歳になる。

 だが見た目はどう贔屓目に見ても十八歳前後。

 写真でも撮っておけばよかった。

 そうすれば今の自分と比較することができたのに。

 おかげで。

 外部の人間との接触を避けざるを得なくなっていた。

 連絡は主に魔物を使っている。直接会えばどうしても見た目をあやしまれてしまう。

 それに朱音のことも……。

「…………」

 いずれきちんと公表するつもりでいる。

 ただ、今だけは、こうやって娘と二人で過ごしていたかった。

「ぱぱ、だっこ」

「はいはい」

 こうやってせがむところは、朱音によく似ていた。

 顔をよく見てみる。

 目元、口元、顔立ち、髪。

 それほど朱音と似ているようには見えない。かといって自分にもあまり似てない。

 先祖がえりとかそういうのだろうか。

 朱音の親戚筋から似ているとか。

 親戚なんて聞いたこともないが。

「あーあ……。子供を間にはさんでこういう話を嫁さんとするのが夢だったけどな」

 過ぎたことを言っても仕方ないが。

 篝は小さな手を瑚太朗の頬にぴたぴたと当てて、笑っていた。

 その可愛らしい紅葉のような手にそっと触れ、娘の頬にキスをした。

「もう、なんでもいいや……。早く大きくなれよ。パパと結婚したいとか言ってくんないかな」

「ぱぱ、ぱぁぱ」

「なんだい?」

「もっと、ほっぺ」

「このふしだら娘。キスをせがむとは……」

 軽く指を額に押しあて、(デコピンしようとしたが無理でした)頬に唇を寄せる。

 くすぐったそうに笑う篝。

 瑚太朗は幸せだった。

 ――今だけは。






 瑚太朗に手紙が届いた。

 珍しいな、と思って封を切る。

 いつもは物資を運ぶ魔物だが、手紙一通だけというのは初めてだった。

 差出人は――。

「……っ!」

 急いで中身に目を通した。



『こたろうお兄ちゃんへ


 泣かないでください。

 あかねお姉ちゃんは、お兄ちゃんにあやまっていました。

 なくなるとき、しまこのところへきました。

 しまこにあやまっていました。

 しまこに、きおくを、うつしたこと。

 でも、うつしただけなの、ごめんねって。

 どういう意味なの? ってきいたら。

 お姉ちゃんのおなかにいる、赤ちゃんに、うつしたって。

 じんかく、ってお姉ちゃん、いってました。

 じんかくってなあに? ってきいたら。

 ごめんね、しまこには、まだわかんないよね、って。

 お姉ちゃんは、やってはいけないこと、しちゃったのって。

 それで、こたろうお兄ちゃんを、まきこんでしまったって。

 ごめんね、ごめんねって。

 泣かないでっていったら。

 お兄ちゃんに、こう伝えてほしいって。

 かがりを、守って。

 いのちを、守って。

 かがりは、はじかれてしまうから。

 もうすぐ、はじかれてしまう。

 せかいから。

 それまでどうか、守ってあげて。

 そう伝えてほしいって、いってました。

 お兄ちゃん、しまこには、よくわからないですけど。

 あかねお姉ちゃんの、お願いを、どうかきいてあげてください。』



「…………」

 何度も読み返してみる。

 志麻子の文字は、あちこち曲がって読みにくいが、それでも一生懸命書いたことが伝わった。

 思い出せる限りの記憶で、朱音の言葉を忠実に再現しようとしてくれた。

 だからわかる。

 ここに書かれてあることは真実だと。

(人格を移した……だと?)

 聖女としての人格。

 それを篝に転写したと……。

 ならば、篝の急激な知能の発達は、まさかまさかと思っていたが。

(そういう……ことかよ……)

 転写には時間がかかると朱音は言っていた。

 朱音も元々は知能遅れの障碍児だったらしい。

 ゆっくりと加島桜から記憶と人格を移され、徐々に言葉と知能を身につけていった。

 ならば本来の意味でいう転写とは。

 記憶と同時に、加島桜という人格そのものを別の人間に乗り換えるということ。

 この場合。

 朱音の人格が篝に移された。

 ただ記憶は志麻子に移ったまま。

 どういう意味なのか。

 不完全だということか。

(いや……違う)

 聖女の記憶は代々受け継がれていくものだが、本当に引き継ぐのは記憶じゃない。

 意志だ。

 記憶を何世代にも渡って受け継がれていった聖女たちは、その過程において、徐々に人格そのものが別の何かに変わっていった。

 加島桜が命そのものを憎んでいたのも、それが理由だ。

 朱音がおかしくなったのも……。

「篝……」

 ベッドの上で眠る娘を見る。

 見た目はもう三歳児ほど。ほとんど言葉を覚えた。

 子供だからまだそれほど影響は出ていないが。

 やがて人格が、朱音から引き継がれた意志に乗っ取られていく可能性は……限りなく高い。

(どうすりゃいい……?!)

 とんでもない置き土産をしてくれた。

 よりによって自分の娘に……。

 なぜ?!

「あのとき……か?」

 穴の中に落ちたときか。

 生命の危機を感じた朱音が、体内のまだ受精卵にすぎない存在に転写をした。

 聖女の本能のようなものだろう。

 朱音にもどうすることもできなかった。

 わかるが……。

「朱音さん……俺……初めてあんたを恨むよ……」

 やりきれない思い。

 だが、今さらこんなこと言っても仕方ない。

 問題はこれからだ。

 篝を正しく導いてやらないと。

 また第二の朱音が繰り返されてしまう。

 瑚太朗は再び手紙を見た。

「はじかれて……弾かれて?」

 ここだけ意味がよくわからない。

 世界から弾かれる。……どういう意味だ?

 このうえさらに、篝の身に何か不吉なことでも起こると?

 今わかってるだけでも十分不吉この上ないというのに。

「守ってやる……」

 朱音が託してくれた命だ。

 たとえ自分が死のうと、いや死んでも。

 篝を守ってみせる。

 瑚太朗はベッドで眠る篝の手をぎゅっと握りしめた。






to be continued……

短いですが、ちょうどキリがいいのでこの辺で。

最初が長すぎた……。

プロローグと本編に分けるべきでした。って今更。

朱音のしたことの一部が明かされましたが、実はまだあります。

そっちのほうが重要です。(むしろそっちをメインにしてます)

まだ先は長くなりそうですが、今後ともよろしく。

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