勇者と聖女
かつてこの世界は魔王に脅かされていた
しかし、一人の勇者により魔王は封印された
そう伝えられている
アルグレア聖王国
現在、この国は危機に見舞われていた
復活した魔王スクハ・ルサス
その軍勢
国王レイヴンはこの危機を乗り越えるべく各地から勇者を集った
この国には一本の剣と共に伝えられている伝承がある
大きな黒い結晶に突き刺さる形で存在している聖剣「グランセイバー」
それは王城の片隅に置かれていた
これを抜くことが出来たものこそが真の勇者であると
聖剣「グランセイバー」は使い手の力量に比例し、真の力を発揮するとあった
国王の招集に対し、我こそが勇者だとその場に多くの人々が集う
彼、ノルヴェイン・ヴァルネストもその一人だった
まだ二十二歳
黒に近い濃紺の髪を持ち、前髪は少し長めで鋭い灰青色の瞳をしている
身体は少し細く見え、少なくとも外見からは威圧のようなものは感じられない
国王の立ち合いのもと、その場に募った人々が次々に聖剣の柄に手をかける
しかし、誰にも抜くことができなかった
集まった中でも最も巨大な体と筋力量を誇る人物が挑んだが、結晶ごとわずかに動かすのが限界で、剣はわずかも結晶から抜けない
その男は結晶が動かないよう足で固定したが、全く剣が抜ける気配はなかった
「こりゃ、無理だぜ。完全に結晶と同化してやがる」
彼はそう言い残しその場を去った
そしてノルヴェインの番がまわってきた
ノルヴェインが柄に手をかける
その時、周囲でざわめきが起こる
剣が刺さっている結晶部分にわずかにひびが入った
ただ柄を握っただけでである
ノルヴェインはそのまま力を込めると剣が少しずつ抜けていく
「おお・・・・!」
「どうなってんだ」
やがて、その聖剣は結晶から完全に抜けた
結晶の欠片がわずかに宙を舞う
一部始終を見ていた国王がノルヴェインを呼び寄せる
しかし周囲からは疑問を浮かべるものも多かった
「あんな弱そうな奴が、勇者?」
「さっきの大男のせいで結晶が割れかかってただけじゃないのか」
しかし、当の本人が否定した
「いや、俺が諦めた時には結晶にはそんなダメージは全く無かった。力の問題じゃないのかもしれないぜ。勇者だけの特別な何かがあるのかもしれねえ」
それを聞き全員が黙る
国王はノルヴェインに告げた
「お前を勇者と認める」
「はい」
「これからお前は復活した魔王スクハ・ルサスの討伐に向けて旅立たなければならない」
そう言ったあと、国王は続ける
「しかし、この国にはこのような伝承がある。復活した魔王を倒すためには数々の試練を受け、聖剣の真の力を引き出さねばならぬとな」
そして、少し間を置き
「まずはその足でリュミエール教会に向かうのだ。そこに勇者を導く存在がいる」
「わかりました。教会へ向かいます」
そうして、ノルヴェインは国王から多額の路銀を受け取り、王城からそれほど離れていないリュミエール教会を目指した
見送る人々
しかし大歓声をもって送り出すというよりは、皆どこか信じられないという表情を浮かべ、誰もが黙ってノルヴェインの背中を見つめていた
ノルヴェインはリュミエール教会の前に立っていた
その門にいるシスターがノルヴェインを迎える
「お話は聞いております」
シスターはうやうやしく首を垂れ、
「お待ちしておりました」
そう言うと頭を上げ「こちらへどうぞ」とノルヴェインを招いた
その道中、ノルヴェインがシスターに尋ねる
「勇者を導く存在って聞いているけど、どういう人なんだ?」
それを聞くと、シスターは短く答えた
「聖女様です」
田舎育ちのノルヴェインにはイマイチ実感がわかない
そもそも教会などというものにも馴染みがなかった
やがて通された広間には何人ものシスターが道を作っていた
案内したシスターもその列に加わる
その先に一人の明らかに身分が違いそうな女性がいた
透き通るような淡い金髪を腰まで伸ばした女性
彼女はその服装のせいか、どこか神秘的な印象があった
その女性のもとへノルヴェインは歩いていく
やがてその距離は数メートルまで近づいた
そこでノルヴェインは立ち止まり尋ねた
「あなたが聖女様でしょうか?」
それを聞くと目の前の女性はわずかに頬を緩め
「はい。私がこの教会の聖女、フェルネリア・リュミエールと申します」
そう言って一礼をする
あとでわかったところでは彼女は二十五歳
普段は教会で働いているわけではなく、聖女としての修行をしているとのことだった
しかも聖女は彼女の家系に代々受け継がれている役割であり、今回の勇者誕生を聞き、駆けつけたという話だった
フェルネリアはノルヴェインの顔を真っ直ぐに見つめると、
「私には勇者を導く使命があります」
そう告げた
なんでも、勇者に選ばれたからと言って、そのまま即戦力で魔王と戦えるわけではなく、魔王と戦えるだけの実力を身に付けて行かなくてはいけないらしい
そのために勇者の試練と呼ばれるものを受ける必要がある
そして聖剣「グランセイバー」も勇者の力に呼応して真の力を発揮できるようになるとのことだった
「しかし、その試練を一人でというのは無謀です。かなりの危険も伴います」
フェルネリアは続ける
「だから私も勇者様にお供いたします」
なんでも、彼女は回復魔法の使い手だということだった
しかも、人間のレベルを超越しているほどの魔力を持っており、大抵の怪我は瞬時に治してしまうとのことだ
それが聖女の修行で得た力なのだろうか
いずれにせよ、勇者を導く役割としてはこれ以上の存在はいないと言っても良いだろう
「わかった。よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
そうして、二人は教会を後にした
旅立つ二人の姿を遠くから見つめている存在がいた
それは白銀の鎧を身に付けた騎士だった




