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マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
帝都クライペダ編

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玉座の間は遠く、道は細い

 エルザが低く言う。

「強行突破は?」

 その声は鋼のように硬く、だが同時に、“最悪の選択肢でも排除しない”という戦士の覚悟がにじんでいた。

 ロアンが首を横に振った。

「玉座の間まで辿り着く前に、帝都全体を敵に回す。仮に突破できても、その後がない」

 その言葉は、地図の上に静かに置かれた重石のようだった。軽口も、希望的観測も入り込む余地がない。帝都の現実を知る者の、冷たい結論。

「なら、短期決戦で起動だけ済ませる」

 エルザの提案は鋭い。だが、その鋭さを受け止めるようにカインが淡々と補足した。

「起動にどれほど時間がかかるか分からない。セシリアの術式が完成したとはいえ、王権石座の起動手順は未知。石碑とは違う。制御核なら、単なる接触だけで済まない可能性が高い」

 その声は冷たい。しかしその冷たさは、希望を切り捨てるためではなく、“誤った期待”を排除するための冷たさだった。まるで、曇った窓を指先で拭い、現実の輪郭をはっきりと見せるように。

 セシリアは胸元で手を重ね、静かにうつむいた。

「私が……ちゃんとできるかどうかも、まだ分かりません」

 その声は弱くはない。震えてもいない。だが――重い。

 自分が鍵であること。帝国の血を継いでいること。戦略級結界を張り直す役目があること。それらを受け入れ始めてはいる。だが、受け入れることと、迷わないことは違う。

 セシリアの肩に落ちる影は、血筋の重さではなく、“選ばれた者としての責任”の影だった。

 窓から差し込む淡い光が、セシリアの髪に触れ、その影を静かに揺らす。その揺れは、彼女の迷いと、それでも前へ進もうとする意志の両方を映していた。


 エルザが即座に言った。

「できるかどうかじゃない。やるなら、私たちが支える」

 その言葉は短い。だが、短いからこそ強かった。余計な飾りも、慰めもない。ただ、戦場で幾度も背中を預け合ってきた者だけが自然に口にできる“約束”の重さがあった。

 その声が落ちた瞬間、会議室の空気がわずかに揺れる。

 セシリアの胸元に置かれた手が、ほんの少しだけ震えを止めた。迷いの影が薄れ、代わりに、“ひとりではない”という温度が静かに胸の奥へ広がっていく。

 セシリアは小さく微笑む。

「……ありがとう、エルザ」

 その微笑みははかなくも強く、まるで薄曇りの空に一筋の光が差し込んだようだった。

 エルザは何も言わない。ただ、黄金の瞳でまっすぐにセシリアを見つめる。その視線が語っていた。

 迷ってもいい。揺れてもいい。でも、倒れそうになったら支える。だから前を向け。

 言葉よりも確かな約束が、静かな会議室の空気にゆっくりと溶けていった。


 そのやり取りを見て、ペルダ枢機卿は静かに目を伏せた。

 祈るように。けれど、それは神へ向けた祈りではない。この場にいる者たちの決意を、胸の奥でそっと受け止めるための所作だった。まるで、彼らの覚悟が落とす光と影をひとつ残らず抱きしめようとするかのように。


 沈黙が落ちる。

 その沈黙は重くなく、かといって軽くもない。ただ、“これから進む道の重さ”を全員が静かに共有するための沈黙だった。

 会議室の窓の外では、帝都の音が遠くに聞こえていた。

 馬車の車輪が石畳を擦る音。行き交う人々の声。商人の呼び込み。衛兵の足音。

 栄えた都市の音。生きている都市の音。

 だが、その音の奥には、どこか乾いた緊張が混じっていた。

 笑い声の裏に潜む、言葉にできないざらつき。衛兵の足音ににじむ、過剰な警戒の気配。商人の声に混じる、焦りのような揺らぎ。

 この帝都は生きている。だが、健やかではない。まるで、巨大な獣が体内に毒を抱えたまま無理に歩き続けているような、そんな不安定な呼吸が街全体から微かに漂っていた。その気配を、窓の外の光と影が静かに語っていた。


 レオンは口を開いた。

「まず必要なのは、玉座の間に近づく理由だ。偶然を装うにしても、通行許可を得るにしても、何らかの建前がいる」

 その声は静かだが、机の上に置かれた地図の線をひとつずつ照らす灯火のようだった。

 カインがうなずく。

「それと時間。起動に必要な時間を確保しなければならない」

 淡々とした声。だがその淡々さは、複雑な問題を冷静に切り分けるための鋭い刃のようだった。

 リリスが指を立てる。

「あと逃げ道。行けても帰れないなら、だいぶ困るよ」

 その言葉は軽く聞こえる。だが、軽さの奥にあるのは“影を歩く者”の現実的な感覚だった。

「だいぶどころじゃない」

 ロアンが低く返す。その声は、帝都の裏側を知る者だけが持つ重い実感を帯びていた。

 淡い光が窓から差し込み、長机の上に影を落とす。その影は、彼らがこれから踏み込む宮殿の迷宮を静かに象徴しているかのようだった。

 理由。時間。逃走経路。

 三つの条件が、まるで見えない鎖のように作戦の周囲を締めつけていく。

 だが同時に、その鎖の隙間から、“突破口を探す意志”がゆっくりと立ち上がり始めていた。


 エルザは腕を組み、険しい顔で地図を見下ろしている。その視線は鋼のようにまっすぐで、地図の線の奥に潜む“危険の形”を見抜こうとしていた。

「中の警備を減らす方法はないのか」

 その問いは短いが、戦士としての直感と経験が凝縮されていた。

「あるとすれば、式典、火災、騒動、あるいは別方面への誘導」

 カインが言う。淡々とした声は、まるで冷たい水が地図の上を流れていくように余計な熱をすべて洗い流していく。

「ただし、宮殿側が不審を抱けば逆効果。警備は増える」

 その一言が落ちた瞬間、地図の上の宮殿が、さらに厚い壁をまとったように見えた。

 レオンは考える。

 正面からは無理。隠し通路だけでも足りない。建前が必要。かつ、警備を完全に刺激しない方法。

 思考が静かに深まっていく。まるで霧の中で、一本だけ続く細い道を探すように。

 細い道だ。だが、道がないわけではない。

 淡い光が窓から差し込み、地図の上に細い影を落とす。その影は、彼らが探している“唯一の道”のように細く、頼りなく、しかし確かに続いていた。


 レオンの瞳がわずかに細められる。

 行けるかどうかではない。行くための道を見つけるのだ。

 その静かな意志が、会議室の空気にゆっくりと満ちていった。

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