刃の灯火、祈りの光-1
そして人気が集中していたのは、やはりエルザとセシリアだった。
「エルザ殿!」
「今度はもっと近くで剣を見せてください!」
「いや、見せるだけじゃなくて、教官に――」
「無茶言うな!」
兵たちの声が飛ぶ。その声は朝の冷たい空気を震わせ、まるで小さな焚き火のように場を温めていた。
エルザはそのたびに、少し困ったような顔をする。戦場では一歩も引かないくせに、称賛にはどうにも弱い。頬にかすかに影が差し、視線がわずかに泳ぐ。その仕草は、黒い刃を振るったあの瞬間の凛烈さとはまるで別の、柔らかな人間味を帯びていた。
《アーク・シヴァー》で重殻喰いに止めを刺したあの一撃は、多くの兵の目に焼きついている。死にかけた戦場の空気を、最後にひっくり返した黒い刃。絶望の底に差し込んだ、鋭く、冷たく、そして確かな光。その光を振るった戦士が、今はこんなにも真面目で、不器用で、少し照れている。だからこそ、余計に人気が出るのも当然だった。
兵たちの視線には、尊敬と親しみと、そしてほんの少しの憧れが混ざっている。
エルザの紫紺の瞳は、その視線を受け止めきれずにわずかに揺れ、朝の薄明がその揺れを静かに照らしていた。
風が吹く。冷たく澄んだ風。だが、その風はどこか優しく、エルザの髪をそっと撫でていった。
「……やめてくれ。私は、やるべきことをやっただけだ」
「その“やるべきこと”ができるのがすごいんです!」
「そうそう!」
「あと剣が格好良すぎました!」
エルザは押し切られるように、ほんの少しだけ視線を逸らした。耳のあたりがわずかに赤い。その赤みは、朝の薄明よりもずっと素直で、戦場で見せるどんな鋭さよりも人間らしい色だった。
それを見た兵たちが、ますます楽しそうに笑う。その笑いは、エルザをからかうためのものではない。むしろ、「あなたが生きていてくれてよかった」という想いが、冗談の形を借りて溢れ出しているだけだった。
エルザの強さは、真っ直ぐだ。だから見ている側も、そこに余計な影を感じない。守ると決めたら守る。斬ると決めたら斬る。その単純で折れない強さが、兵たちの胸に深く残っているのだと、レオンには分かった。
戦場の最中、誰もが息を呑んだあの黒い刃――《アーク・シヴァー》。絶望の淵で振り下ろされたその一撃は、まるで夜を断ち割る雷光のようだった。
だが今、エルザの横顔に宿るのは、雷光ではなく、朝の風に揺れる静かな灯火だった。その灯火は、強さの証であると同時に、仲間たちが守りたいと思う“彼女自身”の温度でもあった。
兵たちの視線は、尊敬と親しみと、そして少しの憧れを混ぜながら、彼女の背にそっと寄り添っていた。
エルザは照れを隠すように髪を払う。その仕草ひとつで、また兵たちの笑いが柔らかく弾ける。
朝の風が吹く。冷たく澄んでいて、それでいてどこか優しい。その風は、エルザの強さと不器用さ、そして兵たちの温かな想いをひとつに束ねて運んでいくようだった。




