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マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
帝都クライペダ編

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旅立ちの薄明

 夜明けは、まだ空の端にしか生まれていなかった。

 東の地平がかすかに薄まり始めているのに、城の石壁にはまだ夜の色が深く残っている。青でも黒でもない、夜が手放しきれなかった最後の濃紺。その色が、塔の尖端にも、城壁の稜線にも、まるで名残惜しむように静かに沈んでいた。

 風は冷たい。けれど、その冷たさは、重殻喰いと対峙した頃のような“死の匂いを含んだ冷たさ”ではなかった。

 今朝の風は違う。胸の奥にそっと触れてくるような、別れの前にしか生まれない種類の冷たさだった。それは、旅立つ者の背を押すための冷たさであり、残される者の心に静かな影を落とす冷たさであり、夜と朝の境界にだけ宿る、淡い痛みを含んだ冷たさだった。

 城壁の上を渡る風は、まだ眠りから覚めきらない世界を撫でながら、どこか遠くへ向かう気配を運んでいく。その気配は、まるでこう告げているかのようだった。

 ――もうすぐ、夜が終わる。

 ――そして、お前たちの物語もまた、次へ進む。

 薄明の光が、ゆっくりと、しかし確かに世界の輪郭を描き始めていた。


 旅立ちの朝の風だ。

 まだ始まりきっていない朝の空気の中で、城門前にはすでに人が集まっていた。

 兵士たち。従者たち。神官たち。城に仕える者たち。そして、見送りに来たルーストフェルン公爵、ヴェルデバイク博士、多くの兵士たち。

 人は多い。だが、不思議と騒がしくはない。

 声はある。足音もある。馬の鼻息も、車輪を確かめる音も、荷を固定する革紐のきしみもある。

 それでも城門前を満たしているのは喧騒ではなく、“送り出す者たちの静かな熱”だった。その熱は、炎のように燃え上がるものではない。むしろ、胸の奥にそっと灯る小さな灯火のようで、誰もがそれを抱えたまま、ただ静かに立っていた。

 夜明け前の薄明が、人々の影を長く伸ばす。その影は、まるで旅立つ者たちの背をそっと押しているかのようだった。

 兵士たちの鎧は、まだ朝日を受けきれず、青い闇の名残を映している。神官たちの白衣は、薄明の中で淡く揺れ、祈りの気配を静かに漂わせていた。

 誰もが言葉を選んでいる。軽々しく声をかけてはいけないと、本能で理解しているようだった。


 旅立ちの朝の風が吹く。その風は、別れの痛みと、期待の光と、これから始まる物語の気配をすべてひとつに混ぜ合わせて運んでくる。

 冷たいのに、どこか温かい。静かなのに、確かに胸を揺らす。それは“行ってこい”と告げる風だった。


 レオンは、その空気を胸の奥で静かに受け止めていた。

 今日ここを発つ。次に向かうのは、シィグルダ帝国の帝都クライペダ。《王権石座レガリア・スローン》が眠る場所。そして、おそらく次の石碑が待つ場所。

 重殻喰いを倒したあと、城の中には確かに安堵があった。だが、その安堵は“終わり”ではない。もっと大きな何かに向かう前の、ほんの短い呼吸に過ぎなかった。その呼吸が、今まさに終わろうとしている。

 城門前に立つ者たちは、そのことを誰もが知っている。だからこそ、笑顔の奥に影がある。安堵の裏に、送り出すことの痛みがある。その二つを同時に抱えたまま、人々はこの朝に立っていた。

 兵士たちの表情には、戦友を送り出す誇りと不安が同居している。神官たちの祈りの声は、どこか震えているようで、それでも確かに旅立つ者の背を押していた。

 従者たちは荷を整えながら、その手つきにほんのわずかな迷いをにじませる。“もっと持たせるべきか”“何か忘れていないか”そんな思いが、指先の動きをわずかに鈍らせていた。


 ルーストフェルン公爵は、静かに立っている。その姿は揺るがない岩のようでありながら、その眼差しの奥には、“行かせたくない”という人間らしい痛みがほんの一筋だけ沈んでいた。

 ヴェルデバイク博士は、手にした資料を何度も読み返すふりをしていた。だが、その視線は文字ではなく、旅立つ者たちの背中に向けられている。研究者の冷静さの奥に、仲間を送り出す者の温度が確かにあった。

 そしてそのすべてを、レオンは静かに胸の奥で受け止めていた。


 風が吹く。冷たいのに、どこか温かい。別れの痛みと、未来への光を同時に含んだ風。その風が、レオンの髪を揺らし、包帯の下の傷をそっと撫でていく。

(……行くんだな)

 胸の奥で、静かな熱がゆっくりと燃えた。

 恐怖でも期待でもない。その中間にある、戦う者だけが持つ“進むための熱”。それは、旅立ちの朝にだけ灯る、淡く、しかし確かな炎だった。


 馬が、低く鼻を鳴らした。白い息が朝の冷気に溶け、淡い霧となって空へほどけていく。そのはかなさは、まるでこの朝に漂う“別れの気配”そのものだった。

 レオン、エルザ、カイン、リリス、ロアンは騎乗する。鞍に体を預けるたび、革のきしむ音が静かに響き、それが旅の始まりを告げる合図のように思えた。

 セシリア、オーケルベーレ、ドミニチ大枢機卿、そして四人の神官は、二台の馬車に分かれて乗ることになっていた。

 馬車の車輪はまだ動かない。だが、その静止は“これから動き出す”ための静けさであり、まるで息を潜めて朝の合図を待っているかのようだった。


 旅の形は決まっている。順序も、役割も、表向きの身分も。すべてが整えられ、すべてが準備され、すべてが“正しい形”に収まっている。

 だが決まっているからといって、心まで整然と並ぶわけではない。

 馬の蹄が地面を軽く叩くたび、胸の奥に沈んでいた感情がわずかに揺れる。緊張。期待。不安。そして、言葉にできないほど静かな決意。

 別れの朝とは、いつだってそういうものだ。誰もが前を向いているのに、誰もが胸のどこかで“置いていくもの”を感じている。その痛みを抱えたまま、それでも進むしかないと知っている。

 薄明の光が、騎士たちの影を長く伸ばす。その影は、まるで旅立つ者たちの背をそっと押しているかのようだった。


 風が吹く。冷たく、澄んでいて、それでいてどこか優しい。

 ――行け。

 ――戻ってこい。

 ――物語を続けろ。

 そんな声が、風の中に確かに混じっていた。

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