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狙われるラインフォール

 翌日――


 ラインフォールは、アルトの出勤を見送った後、川で釣りをするため街の外に出た。

 ラインフォール自身は肉料理が好きであったため、アルトの家に居候を始めてから毎日肉料理を作っていたが、アルトがふと、「たまには魚も食べたい」と言ったので、今晩は魚料理――と言っても塩焼きにするだけだが――にしようと考えたのだ。

 ちなみに、川に来たのは決して川魚にしようと考えたからではない。ラインフォールは海魚と川魚の区別がついていないため、河川の中流域でも魚屋で売っているような魚を釣ることができるという認識であった。

 その程度の知識なので当然釣りをするのも初めて。アルトの家の物置に、前の住民が残していったと思われる釣り竿見つけて、とりあえずその釣り竿とバケツを持って、だだっ広い平原の中を流れる川にやって来て、餌も付けずに、適当に浅瀬に釣り糸を垂らした。


 もちろん釣れない。

 そこにたまたま、同じように釣りをしに来た高齢の男が現れ、ラインフォールに餌を分け与え、そして、浅瀬よりも淵の方が良いとアドバイスをしたので、ラインフォールは素直に老人の後について行き、老人とラインフォールは2人並んで岩の上に座って糸を垂らした。

 ラインフォールはアルト以外とはあまりしゃべらない質で、老人もラインフォールのことを詮索せず必要なこと以外はあまり喋らなかったので、ラインフォールは初めての人間との交流にもかかわらず、老人の近くにいることにあまり悪い気はしなかった。


 場所を変えてから何度か魚が餌をつついている感触が糸を伝って竿を握る手に感じられ、引き上げてみるも全く魚は釣れない。それは、ラインフォールの感覚と反射神経が尋常でなく鋭いため、針を引き上げるのが早すぎるせいなのであるが、ラインフォールには分からずただ首を傾げるばかり。

 老人はラインフォールの横で調子よく魚を釣り上げながら、ラインフォールの様子も見ており、ラインフォールがなかなか魚を釣り上げることのできない理由に気付くと、「少し落ち着いて待ちなさい。焦ってもいいことはないよ」とアドバイスをし、ラインフォールはなるほどと、針を引き上げるタイミングを少し遅らせてみると、ようやくアユを1匹釣り上げることができた。


 ラインフォールは存外嬉しかったが、その時点で時刻は午前11時半近くになっており、老人もそろそろ帰ろうかという雰囲気になったため、ラインフォールはブーツを脱ぎ、ズボンの裾をまくり、剣を抜いて川に自ら入ると、剣で2、3匹のアユを突き刺して捕獲した。

 老人はびっくりして、


「あんた、竿を使わない方が上手じゃないか」


 と笑ったので、ラインフォールも、そういえばそうだな、と思いつつ、


「川のせせらぎに身を任せながら糸を垂らす感覚は悪くない」


 と笑みを浮かべた。


 そうして、ラインフォールが川から上がり、老人が貸してくれた手拭いで丁寧に脚を拭いてブーツを履いたとき、ラインフォールは自分を狙う4人の気配に気付いた。

 次の瞬間、ラインフォールと老人目掛けて風の刃が飛んで来る。


「ひいいっ!」


 身体を屈める老人を庇いながら、ラインフォールは剣で風の刃を切り払った。


「おい、貴様の魚と俺の魚、絶対に落とすなよ」


 ラインフォールは老人にそう言うと、老人に自分のバケツを手渡して老人を片手で抱えた。

 と、ラインフォールの背後から女剣士が斬りかかり、ラインフォールは剣で女剣士の攻撃を受け流すと、老人を抱えたまま下流に向かって走り出した。


「待て! 逃がすか!」


 そう言いながら次に現れたのは両腕にガントレットを装着した巨漢の男。男は立ち塞がるようにラインフォールの前方でガントレットを構えると、ガントレットに魔力を籠めて、ラインフォールに向かって殴り掛かってきた。

 ラインフォールはジャンプして男の攻撃をかわし、男の頭を踏み台にして、男の背後に着地すると、そのまま振り返ることなく走り出す。そのラインフォールを追うように、今度は魔法攻撃が飛んで来たが、ラインフォールは背中に眼がついているかのように全てかわし、森の中へと入って行った。


「へえ、意外だね、魔族が人間を庇うなんて」


 その様子を川の対岸から見ていたマサキが呟く。

 ラインフォールが逃げるのは想定外だが、人間を抱えていることはむしろ都合が良い。ラインフォールが人間を襲ったということにすれば、ラインフォールを倒す文句のつけようのない大義名分となる。


「逃がさないよ」


 マサキは脚に魔力をため、脚力を強化すると、猛スピードでラインフォールを追い掛け始めた。




 マサキは森の中でラインフォールの背中を見つけると、走りながら、


「氷牙弾!」


 と、ラインフォールの背中目掛けて氷柱を飛ばし、ラインフォールが振り向き様に氷柱を切り払い、立ち止まって剣を構えたのを見て、ラインフォールから十数メートル離れた位置で止まって、ラインフォールを観察した。


 どこかで放したのか、抱えていた老人がいない。マサキは目だけで辺りを見回すも、老人の姿は見えない。だが老人など、所詮いてもいなくても関係がない。マサキは気を取り直してラインフォールに視線を戻した。

 黒髪、顔の半分を覆う前髪、オオカミの様な目、黒づくめ、そして黒い剣。


「黒耀のラインフォールだね?」

「その名はもう名乗っていないがな」

「……どういう意味か分からないけど、認めたということで良い?」

「なにか用か」

「人に仇なす魔族の指揮官……人として、倒すのは当然だろう」

「同胞を傷つけてもか?」

「同胞? ああ、さっきの爺さんか、魔族に連れ去られようとしていたところを助けようとしたんだ、結果怪我をしてもそれはやむを得ない」

「人間というのは、仲間を大事にすると聞いていたが、そうとも限らんらしいな」

「まあ、ケースバイケースってこと、悪いけど、その首もらうよ」


 マサキがそう言うや、追い掛けてきたマサキの仲間3人が一斉にラインフォールに攻撃を仕掛けた。

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