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妖剣・オオタケマル

 アルトの右腕の前に闇が現れ、その中から奇妙な意匠の古びた鞘に納まった剣が現れた。


「そんナ剣デ、どうスルつもりダ? ハハハ」


 クロウレスは嘲笑する。


「くく、分からなければ、刮目しろ」


 アルトは左手で鞘を握り、右手で剣の柄を握ると剣を鞘から抜いた。

 両刃の直刀。鞘と似た文様の刻まれた白い刃が、月の光に妖しく光る。


「なんと猛々しく、それでいて神々しい……」


 月の光に輝く刀身には禍々しさの中に美しさもあり、ラインフォールはアルトが握る剣に見惚れた。


「クロウレス、覚悟は良いか」


 アルトは妖剣・オオタケマルを両手で握り、上段に構えた。


「アルトわるす様……いヤ、あるトワルス! その驕リごト、消シ飛べ!」


 クロウレスが魔力の塊をアルトに向かって放った。

 アルトは慌てる様子なく、刀身に魔力を纏わせて、妖剣を鋭く振り降ろした。

 直後、魔力の塊は真っ二つに切断され、その場で破裂するように、闇を放ちながら爆発した。


「アルトワルス様!」


 爆発に巻き込まれたアルトの身を案じ、ラインフォールは叫んだ。

 が、クロウレスに勝利を確信した様子はない。笑うこともなく、ただじっと爆風で生じた砂煙を見つめている。


 砂煙に人影が見え、砂煙が晴れると、アルトが妖剣を振り降ろした体勢のまま、そこにいた。

 やはり、アルトは無傷であった。

 魔力の塊は、妖剣によって真っ二つに切断されたことで、威力が半減したのだ。おそらくそれが妖剣の力。理外の武器だ。


「まダだっ! まダ、これカラだッ!」


 クロウレスはさらに魔力を解放し、長いかぎ爪を構えた。


「いや、もう終わっている」


 アルトはそう言い放つと、妖剣を鞘に納めた。


「な……ニ……?」


 次の瞬間、クロウレスの身体から血が噴き出し、変化した身体と魔力が元に戻りながら、地面に落下した。

 魔力の塊を切断した一振りでクロウレス自身も切られていた。

 クロウレスの後を追い掛けるように、妖剣・オオタケマルを手にアルトは地上に降り立った。


「アルトワルス様、その剣は、一体……」

「これは、俺が2年の旅の中で見つけたものだ。この剣は、本来の持ち主が持っていた三振りの剣のうちの一振り。長い年月の中で残った一振りだ」


 そう言うとアルトは妖剣・オオタケマルを闇の中に封じた。


「……どうやら、我々の完敗のようですね」


 スパーダが槍を支えに身体を引き摺りながらクロウレスに近付き、クロウレスの様子を確認する。クロウレスは重傷を負っているが、命に別状はなさそうだ。

 急所は避けてある。アルトは手加減をしていたのだ。


「アルトワルス様、これまでのご無礼をお詫びします」


 そうして、スパーダはクロウレスを抱えると、


「私はこれで失礼します。またいずれお会いしましょう」


 と立ち去ろうとしたが、不意にラインフォールを振り返った。


「……ラインフォール、私はいずれ、必ず貴様を超える。 ……また、な」


 スパーダは口元に笑みを浮かべ、ラインフォールは無言で頷いた。

 アルトはスパーダとラインフォールを交互に見ると、小さく笑って言った。


「スパーダ早く行け、いずれここにも人間どもが来る」

「はい、では失礼します」


 スパーダはそう言うと、クロウレスとともに風のように消え去った。


 そのころ、街の中でもモンスターたちが一斉に街の外に向かって移動し始めていた。クロエとアリスに倒されたバラックスもモンスターたちによって街の外へと運ばれ、瞬く間に街の中に平穏が戻った。

 後には、破壊された町と、倒したモンスターの死体ばかり。




 数日後の夕方。アルトの家の前で、クロエとアルトが木剣を持って対峙していた。数日遅くなってしまったが、ついにアルトの出した条件の試合の日。


「それでは、1本勝負。勝敗は私が判断します、よろしいですね」


 審判のラインフォールは、アルトとクロエが頷いたのを見て、腕を振り降ろした。

 2人は直ぐには動かず、木剣を構えたまま対峙する。

 静寂が流れた後、アルトがわずかに右足を前に動かしたとき、クロエが脚を踏み切った。


 速い。

 タルエンの町の祭りで試合をしたときとは比べ物にならないくらいに速い。だが、アルトにとっては反応できない速さではない。

 クロエの連続攻撃をアルトは全て受け、そして、クロエが一旦距離を取った瞬間、アルトは木剣を投げる構えを見せた。

 祭りのときと同じ流れ。クロエはアルトが剣を投げて来ると考えた。

 しかし、アルトの動きはフェイント。

 クロエが身構えたところで瞬時に距離を詰めて隙を突いた。

 が、クロエはアルトの木剣をかわし、アルトの脇腹に剣を突き付けた。

 クロエは、ラインフォールとの稽古で培った集中力でアルトの動きの変化に気付き、鍛えた身体能力で瞬時に反応したのだ。


「それまで!」


 ラインフォールが試合を止めた。クロエの勝利だ。


「見事だ、俺がどう攻めるかも予想した上で、準備をしたわけか。認めよう、俺の敗けだ」


 集中力と身体能力の向上に加え、型通りの動きしかできず、予想外の攻撃に全く反応できなかったクロエの欠点も、ラインフォールの稽古によって補われていた。


「よし……!」


 ラインフォールは溢れ出る喜びを押さえられず、思わずガッツポーズをした。


「勝った……」


 勝利したクロエも自分自身で驚いていた。


「じゃあ、これで……!」

「ああ、クロエは俺とラインフォールで稽古をつけよう。ラインフォールは、ここに住むことを許す。ただ……」

「なんでしょうか?」

「もう少し料理は勉強してくれ」


 アルトの指摘に、ラインフォールは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。そんなラインフォールを見て、アルトとクロエは笑った。




 クロエの心は今までに経験したことのないほどに高揚していた。


 元・魔王であるアルトに認められた。

 ラインフォールに2週間指導してもらっただけでアルトに勝つことができたのだ。これから2人の指導を受けることで、もっと強くなれると予感していた。


 クロエが軽い足取りで騎士の詰所から騎士団統括事務所に続く渡り廊下を歩いていると、クロエの前にアリスが現れた。

 今日は取り巻きもおらずアリス1人。


「アリス、怪我はもう大丈夫なようね」


 クロエは本心でそう言ったが、アリスはなぜか不満な様子。


「……それ、嫌味? 離れたところから魔法を使っただけの私の怪我なんて、大したことないわ」

「いや、そんなんじゃ……」


 思わぬアリスの反応に戸惑うクロエに、アリスはメダルを見せた。


「功績が認められて、褒章をもらったわ」

「ええ、聞いたわ。それに、モントレー副団長が重傷で長期療養に入るから、あなたが副団長になるんだってね。おめでとう」

「また、嫌味?」

「いや、だからそんなつもりはないんだけど……」

「バラックスに止めを刺したのは私だけど、クロエがいなければ勝てなかった。この評価は正当ではない……」


 アリスは、褒章のメダルを強く握った。

 本当は辞退しようと思った。だが、アリスが褒章を授与されることは、第12騎士団としても誉であり、英雄を作り上げることで街が破壊された事件に対する民衆の不安を払しょくすることもできるため、辞退することができない状況であった。


「この褒章は、戒めとして受け取った。クロエ、あなたへの借りを返すまで、私だけは私を認めない」

「……そう、好きにしなさい」


 ここにも自分を認めてくれる人がいた。クロエは小さく笑った。

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