闇を切り裂く剣、魔剣ラインフォール
スパーダは真剣な眼差しでラインフォールの言葉に耳を傾ける。
「俺は四武将になるつもりもなかった。俺の行動は全てアルトワルス様のため。軍団長は過程であり、四武将は結果に過ぎない」
「なるほどな……軍団長も四武将も、俺にとってはゴールだった。それでは追い付かないどころか、引き離されるわけだ」
スパーダは自嘲気味に笑った。
が、直ぐに口もとを固く結び、鋭い視線でラインフォールを見る。
「だが、このままで終われるものか、俺の全力を受け止めてもらうぞ」
スパーダの身体から魔力が溢れ出した。軍団長に相応しい、激しく、巨大な、凶悪な魔力。
「良いだろう、魔剣士・黒耀のラインフォール、魔槍士・黒槍のスパーダの全力、全身全霊をもって受け止めよう」
ラインフォールの身体からも魔力が溢れ出す。スパーダと同等、いや、立ち昇る勢いはラインフォールの方が凄まじい。
「奥義・天槍牙!」
スパーダの槍から伸びた魔力が、巨大な刃となり天を貫き、そして、スパーダが両腕に力を込めて動かすと、刃は雲を切り裂き、はるか先の山を真っ二つに切断しつつ、ラインフォールに向かって振り下ろされた。
ズズンッ……
スパーダの正面から木々や岩が消し飛び、1本の道ができた。スパーダの瞳に映る果てしなく続く何もない道に、スパーダは思わず目を奪われた。スパーダはその道に、なぜか可能性を感じたのだ。
次の瞬間、スパーダの全身から血が噴き出し、スパーダは膝を突いた。
「見事、貴様が作った道は軍団長に相応しいものだ。貴様の槍のごとく、可能性に向かって真っ直ぐ進め」
スパーダの背後で、ラインフォールは剣を鞘に納めた。
スパーダは膝をつきはしたものの、槍を支えにして倒れはしなかった。
それは軍団長として、また、四武将としての意地であった。
「……きゅ、急所を、避けるとは……屈辱……だな」
そう言いながらスパーダは笑った。
「殺しはせん。きっとアルトワルス様ならばそうする」
ラインフォールはそう言ってスパーダに手を差し伸べようとした。
そのとき、ラインフォールとスパーダの間に、一陣のつむじ風とともに1人の男が現れた。
ところどころ焦げた包帯で全身を覆った男。なんとアルトに倒されたはずのクロウレスである。
クロウレスは眼を血走らせながら大声で叫んだ。
「ぬるいこと……やってんじゃねえぞぉぉぉっ!」
クロウレスは包帯が剥がれ落ちるのも気に留めず、鋭い蹴りをラインフォールに向けて放つと、ラインフォールはバックステップで蹴りをかわして背中の剣の柄を握った。
クロウレスは血走った目を見開いてスパーダを見る。
「スパーダぁ……バラックスも、お前も、俺も敗けた。このままで良いのか!」
スパーダは悔しそうに目を伏せた。
「今回は敗けを認めざるを得まい。撤退しよう」
「……ざけんじゃねぇぇっ!」
そう叫びながら、クロウレスはスパーダを蹴り倒した。
「このままで終われるか! 俺はやるぞ、どうなろうが構わねえ、皆殺しにしてやる!」
「クロウレス、まさか、止めろ!」
スパーダが止める間もなく、クロウレスは顔を覆う包帯を引き千切る。
「なんだ、それは……」
ラインフォールが驚くのも無理はない。
包帯に隠されたクロウレスの額には大きな目があった。
ラインフォールが知る限り、以前はなかった。一体、あの目は何だ。
と思っていると、クロウレスの魔力が異常なほどに高まり、クロウレスの細い身体が膨れ上がるようにパンプアップし、爪は長く鋭く伸び、さらに背中からコウモリのような羽根が生えて、クロウレスは宙に舞い上がった。
禍々しい気配は街の中にいるアルトにも感じられた。ほかの騎士たちも、正体不明の脅威に立ち竦んでいる。
魔力の素養が薄いクロエも何かを感じ取ったようで、アルトを見た。
「軍団長……いえ、まるで神の使いのような気配……」
アルトは眉間に皺を寄せ、目を細めて、禍々しい気配のする方向を睨むと。
「ここから動くなよ」
と言い残し、姿を消した。
「どんな外法を使った!」
ラインフォールは剣を抜こうとしたが、その前にクロウレスの爪から放たれた斬撃で、ラインフォールは斬り刻まれた。
速い。まるで反応できなかった。
それに、今の1撃は想像以上の威力。ラインフォールは激しい出血で、直ぐに起き上がれなかった。
有り得ない力。この力は軍団長レベルだ。クロウレスの本来の力を遥かに超えている。
「クロウレス、止めろ、戻れなくなるぞ!」
スパーダが叫んだ直後、クロウレスはスパーダの真上から高速で落下し、スパーダを踏み付けた。
「が、あ……っ」
スパーダは激しい痛みに悶える。
「この力ハ、スバラしい、今ノ俺なラ、あるとワルス様ニモ勝てル!」
クロウレスは高らかに笑うと、動きの鈍ったラインフォール目掛けて突進した。
ラインフォールが全身から血を流しながら、身構え、せめてクロウレスと相討ちを、と思った直後――
「死にぞこないが、その姿はなんだ」
クロウレスの前にアルトが現れ、クロウレスの突進を受け止めた。
「エーでる様から授かっタ力ダ、アなタと戦ウときに使エとな!」
クロウレスの変貌は、「鍵」を取り込んだときに似ているが、「鍵」は取り込んでいない。一体、エーデルは何をしたのか。
しっかりと調べたいところだが、そんな余裕はなさそうだ。
「死ねェェッ!」
クロウレスが爪を振り回し、アルトから距離を取りつつ斬撃を飛ばした。
アルトは片手をクロウレスに向け、手の平に魔力を籠めて斬撃を全て弾き返した。
「だガ、次はアルトわるス様といエド、止メらレないゼッ!」
クロウレスは高く飛び上がると、胸の前に闇を集め始めた。闇は少しずつ濃くなり、高密度に収束する。
クロウレスの闇の収束に巻き込まれるように、周囲に強い風が巻き起こる。
ラインフォールに緊張が走った。
「なんと凄まじい魔力の凝縮……」
特別な魔法ではない。ただ魔力を凝縮しているだけだ。
ただ、その密度が尋常ではない。もはやブラック・ホールである。
もしもこの1撃が街に向けて放たれれば、一瞬で街は消え去るだろう。
「アルトワルス様、一旦距離を取りましょう」
ラインフォールは進言した。
この攻撃は防ぐことはできない。とにかく遠くに移動し、回避するしかない。
「バカを言うな」
しかしアルトは鼻で笑った。
「この俺に逃げろと言うのか。クロウレスごときを相手に?」
アルトの足元に風が巻き起こり、アルトは宙に浮かんだ。
「しかし、アルトワルス様、これは……!」
強い風に髪を乱しながらラインフォールが声を上げた。
アルトの顔から笑みが消え、冷たい金色の瞳でラインフォールを見下ろす。
「ラインフォール、貴様の発言は俺に対する侮辱だ。そこで静かに見ていろ」
「……申し訳ありません」
ラインフォールは頭を下げると、自分1人逃げようともせず、その場に膝まずき、アルトを見上げた。
「さて……こいつには、これか……」
アルトは吹き荒れる強風の中、右腕を前に出した。
「魔装召喚、妖剣・オオタケマル」




