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 兄様と戸口へ戻り、扉の隙間から外を窺う。常闇の祠の周りには、レグルス王子の言う通り魔物が次々と集まってきていた。光魔法を止めて明かりを消し、後ろのミモザちゃんに小声で尋ねる。


「光の薔薇の採取は出来た?」

「まだ。この薔薇硬くて……レグルス様〜手伝ってください〜」


 王子がミモザちゃんの元に向かう間に、アーク兄様と言葉を交わす。


「薔薇の採取が済むまで、俺が外で魔物を抑える。リアはここにいろ」

「私も戦う」

「駄目だ。リアはここで殿下とミモザ嬢を守れ。薔薇が採取出来たら2人を祠から出して鍵を掛け、合図をくれ。俺が突破口を開く」

「兄様はどうするの?」

「俺は大丈夫だ。すぐに後を追う」


 具体的な策は何もないのだろう。とてもじゃないが、大丈夫だとは思えない。

 私がよっぽど不安そうに見えたのか、アーク兄様は私の頬に手を延ばし、そっと撫でた。


「心配ない。リアは何があろうと俺が護る」

「私は兄様に護られたい訳じゃない」


 隣で一緒に戦いたいのだ。

 兄様は何故か、寂しそうに笑った。私の掌に祠の鍵を押し付け、握らせる。


「ここは任せる」


 言い置いて、アーク兄様は一人外に飛び出してしまった。私も後に続きたかったが、私には私でやらなければならないことがある。戦況を気にしながら、私は再びミモザちゃんに問う。


「ミモザちゃん、まだ?」

「まだ……ちょっとこれ硬すぎ、どうなってんの?」

「早くっ、急いでよ!」

「ミリアリア嬢、落ち着け。これを切ってしまえば大丈夫だ」


 王子の大丈夫は兄様の以上に信用できない!


 私はミモザちゃんに駆け寄ると、レグルス王子を突き飛ばすようにして押しのけた。剪定鋏を握るミモザちゃんの両手を右手で掴み、左手で薔薇の蔦を引き寄せる。剪定鋏を祭壇の上に固定して刃の間に蔦を押し込む。


「いくよ、せーのっ!」


 体重をかけて柄の部分を押し下げると、ガキキンと硬質な音をたて、蔦を断ち切った手応えがあった。同時に切り落とした薔薇の蕾が膨らみ花開く。花弁の間から光が溢れ、急激に明るく強く眩しくなる。目も開けていられない。


「リア、無事かっ!?」


 外にいるはずの兄様の声が、近くに聞こえた。眩しさに目が眩み、視界が白くチカチカする。声のする方へ手を延ばすと、その手を掴まれ、大きく温かなものの内へと引き寄せられた。


「怪我はないか?」

「ええ。兄様こそ怪我は?外の魔物はどうしたの?」

「さっきの光に当たると魔物が消えたんだ。あれは何なんだ?」

「ミモザちゃんが切った薔薇から光が溢れて……」

「アタシが光の薔薇に選ばれたのよ!!」


 まだ視界がきかないなか、ミモザちゃんの浮かれた声が耳をつんざく。やめて。視力が回復してないのに聴力まで奪おうとしないで。私は光が溢れだしても直ぐには目を閉じず、至近距離で光が目を刺したので回復に時間がかかるのだ。


「やったっ、これでアタシは正式な聖女よ!誰にも文句は言わせないわ!」

「ミモザ、オレは信じていた。お前は薔薇の聖女だと」

「ありがとうございます、レグルス様っ!」


 盛り上がっている2人の姿が、やっと視界の端に映るようになった。だがまだ視界の大部分は白、というか白銀にきらめいている。兄様の鎧の色だ。


「──えーと、兄様?そろそろ離して欲しいんだけど」

「この手はどうした。傷だらけじゃないか」

「ああ、薔薇の棘で引っ掻いたみたいね。大した事ないから。それより離し──」

「待ってろ、傷薬をつけてやるからそのまま動くな」


 どうしよう、兄様が離してくれない。私を抱え込んだまま、離す気がない。


 体を捻り、兄の腕の中で横抱きのような体勢になると、ミモザちゃんとレグルス王子が手を取り合って喜んでいるのが見えた。

 これでリゲルもミモザちゃんの資質がどうのと、異議を唱えることは出来ないだろう。光の薔薇を採取出来るのは、薔薇に認められた聖女だけだ。光の薔薇を持ち帰れば、神殿がミモザちゃんを正式な聖女と認定し、聖女ミモザの存在を内外に知らしめることとなる。


 また一歩、ゲームのエンディングに近づいた。それはつまり、ミモザちゃんの最期も迫っているということ。だが私は今回、起死回生のアイテムを手に入れた。これを上手く使えばミモザちゃんを救えるはずだ。


 こっそりガッツポーズをする私。その握り込んだ掌を、アーク兄様が開いて傷薬を塗り込んでくれる。

 どうしよう、兄様が離してくれない。私を抱え込む力も、さっきより強くなっている気がする。


 目下の問題は、いかにしてアーク兄様を傷付けることなく兄様から離れるかということだ。本当にどうしよう?


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