(出題編)
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[問題]
かつては昼夜問わず働きづめだったY君は、ワーカーホリック(*)。
しかしある日を境にぱったりと働くのをやめ、それ以来一日も働かなくなってしまった。
どうしてだろう?
* ワーカーホリック=仕事にがむしゃらに打ち込むこと。仕事中毒。
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野本:……えと、これってまさか?
海川:なんか十年前の追試でも見たような。
亀坂:懐かしすぎるでしょ。これ。
汁原:そう。『ウミガメのスープ』だよ。
汁原:別名シチュエーションパズル、水平思考パズルとも呼ぶけどね。
亀坂:十年前にも聞いたよ、それ。
野本:で、その懐かしいウミガメのスープがなぜここに?
汁原:勿論、問題を解いてもらうためだ。君たちに十年間の成長を見せて貰いたいと思ってね。
海川:えー。なんで社会人になってまで。俺、テストとか大嫌いなの知ってんだろ?
野本:これはテストじゃないよ。どちらかと言えば知的ゲームの一種だね。
野本:それは知っていますが……。
汁原:ふふっ。十年ぶりだから一応ゲームのやり方をおさらいしておこう。
汁原:君たち三人は解答者。
汁原:出題者である私に「YES」か「NO」で答えられる質問のみ行うことができる。
汁原:君たちは私の「YES or NO」の答えを手掛かりにして、問題に隠された真相を解き明かさなくてはならないんだ。
海川:あー、たしかにそんな感じだったな。
亀坂:懐かしすぎてすっかり忘れてたけどねー。
海川:……でもなんだよこの問題。さっぱり意味分かんねえよ。
亀坂:海川、諦めんの早っ!
野本:たしかに難しそうな問題ですね。
野本:でもほら、あの追試のときみたいに三人で力を合わせれば、きっと答えに辿り着けますよ!
海川:相変わらず野本は真面目だな。さすが県庁職員。
亀坂:いや、それは別に関係ないでしょ。
亀坂:あー、まあいいや。先生に私らの成長を見せないとシャクだしね。
亀坂:社会人ナメんなよってことで、最初の質問。ズバリ過労死だった。どーよこれ?
汁原:NO。勝手にY君を殺さないように!
海川:じゃあリストラにあったとか? このご時世だし、ありえるだろ。
汁原:NO。違います。
亀坂:あー懐かしいね、この感じ。でもなんかムカつく!
野本:まあまあ、亀坂さん。所詮ゲームですから落ち着いて。
野本:じゃあ、Y君が仕事で事故にあったとかはいかがでしょう?
汁原:NO。うーん……なかなか苦戦してるね。
汁原:君たち三人が同窓会出席するって聞いて、昨日徹夜して考えた甲斐があったなぁ。
亀坂:わー暇人なんだね先生。寂しいやつ。
海川:先生ってさ、他に趣味ないの?
汁原:こほん! 十年前も言ったけど、質問はYES/NOで答えられるものにするように!
汁原:あとちゃんと別の趣味もありますよ。クロスワードパズルとか。
亀坂:うわー。やっぱ根暗じゃん。
汁原:違うわい。つか早く質問を続けてください。
海川:うーん、過労死でもリストラでも事故でもねぇか。野本、ほかになにか思い当たる?
野本:ええと、すぐにはなかなか……。
亀坂:あっ、分かった! 仕事でメンタルやられて入院したとか。
亀坂:最近よくニュースで見るし。ありそうじゃん!
汁原:NO。妙に生々しい理由を持ち出さないように!
海川:えー。もうほかに思いつかねえよ。じゃあ自分から仕事を辞めたとか?
亀坂:はは、まっさか-。
汁原:……YES!! 凄く重要な質問です。
海川:へ?
亀坂:えっ!?
野本:スゴイです、海川さん。お手柄ですね!
海川:マジ? やったー!
海川:……って自分から仕事を辞めた。なんで?
亀坂:あっ。たしかに。なんでだろ?
汁原:でも一歩前進しましたよ。
汁原:ちなみにちょっとヒントを出すけど、仕事をやめたのは【仕事が終わったから】です。
汁原:さあさあ質問を続けてください。
亀坂:でもさでもさー。仕事が終わったから休むって、普通じゃない?
海川:たしかに。普通仕事がひと段落ついたら休むよな。
野本:でも本当にそうでしょうか?
野本:問題文をよく見てください。
野本:Y君は仕事をやめて、それ以降ずっと働かなかった、みたいに読めませんか?
野本:数日ならわかりますけど、【ずっと】って、ありえるんでしょうか?
亀坂:あっ。たしかにー。
汁原:あー君たち。三人だけで相談して先生を仲間外れにしないように。
亀坂:あーごめんごめん。たしかに質問しなきゃ話が進まないもんね。どうしよっか?
海川:……あー、もしかして俺わかっちゃったかも!
亀坂:マジで?
海川:先生、こういうのはどうよ? Y君の仕事は宝くじを買うとか、そういう系の仕事だったわけ。
海川:んでもってたまたま宝くじの一等が当たって、五億円とか十億円とか手にしちゃったわけよ。
海川:どうよ。これなら一生働かなくていいべ?
亀坂:あー、まあそれなら……すっごくご都合主義だけど。
野本:うーん。そもそも宝くじを買うって仕事と呼べるんでしょうか? どちらかと言うと、それは趣味なのでは?
汁原:あー君たち、私を差し置いて勝手に答え合わせしないように。
汁原:海川の質問の答えはもちろんNOだ。
汁原:発想は悪くはないけど、それじゃ答えとして単純すぎるよ。
汁原:この問題にはもっと壮大な答えが……おっと。これ以上は言えない。
野本:壮大……? なんでしょう、すごく重要なヒントのような。
海川:例えばさ、でっかいお城の修復プロジェクトとか、そんな感じの仕事なんじゃね?
海川:あれなら何十年もかかるっしょ。
海川:仕事終わったらちょうど定年を迎える年齢だったから辞めた。どーよ?
汁原:うーん。これも発想は悪くないし、一応説明はつくけど。
汁原:残念ながらNO! 全然違います。
海川:えー。
亀坂:なんか十年ぶりにムカついてきたんですけど?
汁原:こら。教師をそんな目で睨まない。怖いから!
野本:むむー。話がちょっと行き詰まってきましたね。じゃあ別の視点から質問して、Y君がどんな人物なのか探ってみませんか?
汁原:おっ、流石は野本。このゲームの攻略法がよくわかってるね。
野本:えへへ、あの追試以来ウミガメのスープのこと、こっそり勉強しましたから。
海川:出た。ザ・マジメ人間。やっぱ県庁職員は俺らとは違うわ。
亀坂:だからそれは関係ないってば。
海川:じゃあさ、一応確認しとくけど、このYって人は君付けされてるくらいだから、男の子なんだよな?
汁原:……うーん。
野本:あれっ? 汁原先生?
汁原:……答えはYES/NOだな。
汁原:でも重要な質問だよ、これは。
亀坂:はっ?
海川:じゃあ女の子なの?
汁原:いや、それもYES/NO。
汁原:はっきり言ってY君に性別の概念はないんだ。
海川:へっ?
野本:どういうことでしょうか? Y君は生き物じゃなくてロボットだということですか?
汁原:それはNO。Yはロボットではないよ。
亀坂:あっ、もしかして十年前の追試みたいに、Y君は【架空の人物】とか?
汁原:む、亀坂鋭いな!答えは……【ほぼYES】。
汁原:すごく良い質問だよ。
海川:……マジかよ。
野本:亀坂さんすごいです!
野本:でも【ほぼ】YESってどういう意味ですか?
汁原:ふふっ。質問はYES/NOで答えられるものにしてくれたまへ。
亀坂:あ、なんかムカつく!
亀坂:先に釘刺しとくけど、答えがまたスタジオジ●リ関連とかだったらぶっ飛ばすからね!
汁原:教師をそんな怖い目で睨まないように!
汁原:大丈夫、ジ●リでもなければ、ドラ●もんでもサ●エさんでもないから! 安心して。
海川:そこ、安心するようなとこかよ。
亀坂:そもそも著作権法心配しないといけない問題って、前提としてどうなのよ?
野本:まあまあ、でも話が前に進みましたよ。ちょっと整理してみますね。
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-質問のまとめ-
1. Yが働かなくなったのは【仕事が終わった】から。
仕事が終わってからはずっと働いていない。
2. Yは実在の人間でもロボットでもなく、【架空の人物?】である。
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野本:むむー。まとめてみましたけど、よくわかりませんね。
汁原:ふっふ。昨日徹夜して考えた自信作だからな。
海川:いや、そんなこと自慢せんでも。
亀坂:やっぱ暇人じゃん。
野本:その時間を生徒のために使ってくださいね。
汁原:何気に辛辣だなぁ。君たち……。
海川:元教え子たちの前で落ち込むなよ。
野本:……しかし困りましたね。質問しようにも取っ掛かりがなくなってしまいました。
亀坂:たしかにー。
海川:【架空の】ってのが気になるけどなー。Yはゴブリンとかドワーフなんじゃね?
汁原:NO!
海川:じゃあ悪魔とか?
汁原:NO!
亀坂:じゃあ天使?
汁原:NO! 答えが分からないからって総当たりで質問しないように。
汁原:仕方ないなぁ、じゃあ大ヒント!
汁原:Yが働いたのは【何日間】だったか?
汁原:これが重要です。
海川:へっ!?
亀坂:何日間? なにそれ?
野本:それが答えに関係あるんでしょうか?
汁原:YES。勿論あります。
海川:えー、分かんねぇよ。
亀坂:もっとヒントプリーズ的な? ほら、はよはよ。
汁原:だから教師を脅迫しないように!
野本:……何日間かがポイント。何日間、何日間。
亀坂:おーい、野本ー?
野本:……何日間。何日間かぁ。
海川:ダメだこりゃ。完全にスイッチ入ってる。
亀坂:何日間って言えばさ、海川んとこは週休二日制なの?
海川:おう。繁忙期以外はそうだな。先生もそうだよな?
汁原:まあ、部活とか学校行事がないときはそうだなぁ。
汁原:でもさ結構休日出勤多いわりに、振替休日がなかなか取れんのだよ、これが!
海川:いや、元教え子にガチで愚痴らんでも。おーい、野本は役所だから週休二日だよな?
野本:……(ぶつぶつ)。えっ? あ、はい。
野本:基本的にそうです。でも選挙とかある時は普通に休日出勤しますよ?
海川:へー。役人も案外大変なんだな。
野本:はい。たまにですけどね。亀坂さんは?
亀坂:あたし? あたしは基本月曜日以外働いてるから週休一日だねー。
海川:マジ?
野本:すごい。よくそれで体もちますね?
亀坂:まぁ夢だった自分のお店開いたばっかだからねー。それくらいやんないと。
野本:……えらいなぁ。週六日勤務かぁ。ほんとにえらい。
野本:むむっ……【週休一日】!?!?
海川:急にどうしたんだよ野本。食いもんでも当たったのか?
野本:あっいえ、そういうわけじゃ。でもいま何かを閃きかけたような。
野本:うーん。週休一日……週六日勤務………………って、ぁぁぁああああーーーっ!!!!
海川、亀坂:声がでけぇよ!!
野本:すすす、すみません。
野本:で、でもわたし。
野本:【答え分かっちゃった】かもしれません!
海川:へ?
亀坂:ええぇ!?
汁原:……(マジかっ!)。
野本:じゃあ試してみますね。汁原先生、一つ質問をさせていただいても?
瞳を爛々と輝かせ、汁原を喰い入るように見つめる野本の顔は内心の興奮を隠せず上気していた。
次に野本が発した質問は問題の核心に迫るものであったのだが、その質問とは一体なんだったのだろう?
[解決編につづく]
出題編、いかがだったでしょうか?
正解しても特に賞品はありませんが、見事正解に辿り着いた方には幸福な一年が待っているやも?




