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19.ドラゴン戦



 ゲームよりも戦う人数少ないじゃん! って思ったけど。私たちに課せられたのは「足止め」。このメンバーで撃退しろ、とまでは言われていないんだよね。魔法局員が来たら全員で戦ってね、ってだけ。

 だから、なるべく無理せず、でもなるべく時間を稼いで、っていうのが基本行動。




 最初にヴァン先輩が飛び出していったのは、ドラゴンの元まで辿り着くのに時間がかかるから。

 時間差で出発したブライアンは風魔法で加速したから、ヴァン先輩とほぼ同時に作戦ポイントへ到着しているはず。

 二人はドラゴンから身を隠しつつ、でもこちらからはよく見える、という場所を中心に立ち回る。


 で、私たち。

 空を飛んでいる時点で、ドラゴンの視界に入りやすい。ということで、彼らの囮も兼ねてる。危険度で言えば一番、なんだけどね。

 まー、エディが飛ばすこと飛ばすこと。

 ドラゴンがこちらを捉えた直後から、ドラゴンの目前に閃光を放ち、翼を光の槍で貫き(そしてそれに合わせてブライアンが風魔法を同じ場所に打ち込み)、一瞬傾いだ所に光の渦を纏わせて三半規管の混乱を引き起こし(そしてそれに合わせてヴァン先輩が水魔法をジェットで吹き付けてひっくり返し)、すぐに体勢を立て直したドラゴンに光の矢。

 矢継ぎ早とはこういうことよね。

 ちなみに私はまだ一度も攻撃魔法を打ててない。何でだ。完全に置いてけぼり。おかしいな?


「そうだ、ソフィー。闇魔法も使えるんだったな?」

「全属性使えるんですから、当然ですよ!」

「それじゃ……」


 指示されて、ドラゴンの首回りに闇の輪を取り付ける。ようやく出番がきた!

 うん、まぁ、攻撃っていうか……まぁ一種の攻撃だけど……ちょっと違うような。さすがにドラゴン相手じゃ、首輪を締めるのもちょっと難しい。やってみてるけどなかなか……むむぅ。

 あの、火魔法とか、土魔法とか。風魔法を使えなくても色々ありますけど?


「それこそ、あの二人と相談しながらじゃないと、魔法が相殺されちまうだろ」


 あ、そっか。

 ヴァン先輩は水魔法。これは火魔法と打ち消し合っちゃう。

 ブライアンは風属性。土魔法をぶつけたら威力が削られる。

 闇魔法は、光を使うエディと直接相談できるからいいけど……。

 とりあえず、光魔法と水魔法なら気軽に打ってもOKかな?


 様子を窺いながら、風魔法を操って、あっちへ飛び、こっちへ飛び。ドラゴンの吐く炎を避け、地上の二人が狙われそうなら目前を横切り、翼の風圧を受けたらその勢いに乗って下から回り込み。

 嫌だよねー、目の前をうろちょろする虫って。しかも潰そうとするとサッと逃げるんだよ? 特に寝入る直前、ウトウトしてる時に耳元にプーーーーンと来られたら、殺気が湧き出るよね。主に夏の風物詩。あの、僅かな羽音。ああっ、思い出すだけでイライラする!


 ん? 今のヒントじゃない?

 エディはドラゴンに光の目潰しを放ったけど、逆に闇で覆って視覚を減らして、聴覚や嗅覚をおちょくれば……。


「ソフィーの経験と同じで、殺気が増すだろ」


 うーん、そっか。やっぱり私が他の魔法もバンバン打てるようになるといいんだけどな。

 水柱を下から突き上げて顎へアッパーをかましながら、他の属性について考えを巡らせる。

 そうだ、ちょっと試してみよう。風を攻撃に使ってないから、ちょっとくらいは余裕がある。


「ブライアン先輩、ヴァン先輩。もし私の声が聞こえたら、魔法打ち上げて教えてもらえます?」


 声を風に乗せて、二人の元へ飛ばしてみる。単なる思い付きだけど、どうかな?

 ――二箇所から、魔法で作られた柱が上がった。

 おお! これは使えるね! 一方向だけど、考えてることが伝えられるよ!


「今から土で頭上に岩を落とします。狙うならそれ以外で」


 言うと共に、岩石落とし。割れた破片がブライアンの風魔法で粉々にされ、ドラゴンの目を襲う。

 わお、思った以上に連携取れる! 凄い! 主にブライアンが!!

 それじゃ、今度は火魔法にチャレンジだ!


「翼を火で炙りますね」


 火でできた矢を翼膜に刺していく。火が消えた直後に逆側の翼に水が叩き込まれる。私が下側から矢を刺したから、ヴァン先輩は上から。

 うん、これなら相殺されないし、バランスも崩しやすいよ!

 やったーと喜んでいたら、エディが光を放ちながら、


「そんなにまでして攻撃したいか?」


 と聞いてくる。

 

「そりゃそうですよ。私はそのためにここにいるんですから」


 ふうん、とつまらなさそうな声。えー、何で?


「俺とだけ連携取ってればいいのに」


 ぎゃー!? 何だそれ! 何よそのセリフ!! 独占欲ってヤツです!? 嫉妬!? 何この人!! 恥ずかしい! 嬉しい! バカ!!

 照れ隠しで光の柱をドラゴンの顔面にぶち当てた。気分は除夜の鐘撞き。




 広めの緑地公園の上空に、ドラゴンが差し掛かった。


「ソフィー。二人に『全力で上方から叩き込め』って伝えろ。ヤツを地面に落とす」


 エディの言葉をうけて、すぐさま二人に伝達。私たちも水魔法と光魔法を打ち込む。

 目論見通り、公園にドラゴンが降り立った。


「今だソフィー、ヤツの影と首輪、繋いで固定しろ!」


 ああ、やっと分かった、エディが狙っていたこと。

 ドラゴンを追って地上に戻り、全力で闇を操る。逃げられないように頑張る! そのまま地面に倒れててちょうだい!


「今だけはウィルに感謝してやる」

「というと?」

「この前ソフィーを助けに行けなかったのは、同じことをウィルにやられたからだよ。戦法の参考になった」


 ああ、もしかして、暴走の時の。


「普通に影を縫い止めるより、首輪と繋いだ方が、暴れにくいしな」


 話しながらも、影を避けるように光を突き刺していく。主に目に。うわうわ、これは辛いね。

 風に乗って飛んできたブライアン。一目見て状況を把握したらしい。鎌鼬を発生させて、翼膜を的確に刻んでいく。

 どっちの魔法も、ドラゴンの動きが小さくなったお陰で狙いやすいみたい。凄い凄い、足止めバッチリ決まってる!


 ただ、ね。

 全力で影を縫い付けてるんだけど。一人でドラゴンを留めておくのは、だいぶキツい。

 降り立った私とエディは既に離れていたんだけど、もう一度私の横に来て、背中に手を当ててくれた。

 あれ? 光の回復魔法? 少し身体が楽になった。


「長時間浮かんでいたせいで、全身の筋肉が変に固まってる。癒やしてやるから、そのままもう少し、頑張れ」


 目を攻撃するよりも、捕獲し続ける方に比重を置いたのか。

 分かった! 期待に応える!!




 ――闇の魔力が、どんどん減っていく。

 もう少し、もう少し保って。もう少ししたら、魔法局の人たちが、助けに来てくれるから。

 汗が、髪の生え際を伝って落ちていく。残り少ない魔力を出し切ろうと思うんだけど、身体が拒否反応を示してるみたい。

 暴走とはまた少しだけ違う、体内の乱れ。

 はあっ、と息苦しい中で何とか息を吸ったら、エディの光魔法が、少し変化した。

 これ、暴走した後に感じた魔法だ。身体を優しく流れて宥めてくれる、温かい魔法。

 息が楽になる。身体が素直になる。


「エディ」

「どうした?」

「ありがとう。これで最後まで力を出し切れる。

 だけど、ごめんね、もう闇は使えなくなる。繋ぎ止めておけない」


 私の言葉を聞いて、ブライアンの魔法が更に激しくなる。

 留められてるうちになるべく飛べないようにしておこう、というヤツかな。

 追いついたヴァン先輩も、氷の刃で同じように翼膜を切り刻み始める。


「大丈夫だ。よくやった、ソフィー。

 もしまた飛ばれたとしても、だいぶダメージが溜まってるはずだ」


 エディの言葉と同時に、ドラゴンの戒めが解けた。







 ……あーーー! もう! 腹立つ!!!

 闇魔力は底を突いたけど、他はまだ使えるんだよ! 全属性適性者を舐めるなドラゴン!

 上から、全力の土魔法で岩盤を落とす。


 エディも、ブライアンもヴァン先輩も、一瞬固まった。

 ぶわん、と、体内を撫でていた魔法が染み込んで、私の力になる。


「闇魔法がなくても! 飛ばさせない!!」


 上から岩の楔をガツガツ落としていく。岩石の雨霰。しかも尖ってるからね!

 ククッと、エディが笑った。


「ああ、いいな、ソフィー。俺も参加しなきゃな」


 上空から、光の柱が落ちてくる。ドラゴンの足元が氷漬けになる。風の刃が、岩の楔の合間を縫っていく。

 ふふん。リトールの魔法使いを甘く見ないことだね!!




「ええ、将来有望な学生さんが多いようで。我々もうかうかしていられませんね」


 ドラゴンが、完全に地面にへばりついた。上空からの膨大な風圧が、岩の楔を打ち消し、私たちの所まで風になって届く。

 完全な第三者の声。言っている内容。考えるまでもない。魔法局員が来た!

 振り向くと、ゲーム通り、たくさんの魔法使いが構えを取っている。


「ミッション成功です。皆さん、ええ、よくやってくれました。

 もうひと頑張り、お願いしますよ!」


 現場のリーダーらしき魔法局員が、ドラゴンの横っ面に火球を飛ばす。おお、クリーンヒット。


「あの! 魔法の相殺と他への余波は!?」

「ここにも結界を張りました。ええ、余波は気にせず全力でOKです。

 相殺に関しては、様子を見ながら適宜対処します。

 ええ、はい、マグニフ魔法局を甘く見ないでくださいね」


 火の魔法使いと水の魔法使いが連携して、熱湯を作り出している。土の魔法使いが大きな土手を作って、その中に熱湯を溜めていく。……茹でドラゴン?

 魔法使いって、凄い。

 魔力だけじゃなくて、精度とか、応用とか、連携とか、戦術とか、とにかく色々凄い。私たちは、まだまだ学生なんだ……。


「学生だろうと、僕たちは魔法使いの一員です」


 ブライアンが、大きな魔力を溜めている。


「クラークさん、全ての魔法を自由に使える時間ですよ? 思う存分暴れてください」

「暴れる、って……」


 女子に向かって言う言葉ですかね?

 でも、ま、それもそっか。


「うん、確かに。私は、この時のために4月から頑張ってきたんだもん! 私の仕事、やり遂げてみせる!」


 私の大声に、ブライアンは少し目を開いて、それから吹き出した。


「なるほど。ようやく納得できました。

 あなたの魔法は、『傷付く人を少しでも減らして、周囲の人たちに笑っていてもらう』大事な魔法ですね」

「何でブライアンが勝手に納得してるんだよ!」


 回復から攻撃に回ったエディが、ぶーたれている。

 それに答えず、ドラゴンの背中に向けて、大きな風の槍を突き刺すブライアン。

 精度が足りないなら、デカい魔法をガンガンぶつける。うん、いいね。

 よし、私も。

 えーと、確かドラゴンって、顎の下、逆鱗があるっていうよね。そこに攻撃を受けると手が付けられなくなる、厄介な一点。

 その辺りに、光でスカーフを巻き付ける。他の魔法を弾く、防御魔法の一種。土魔法の結界ほどの威力はないけど、これは他と相殺されにくい光魔法。


「何してるんだ?」


 不思議そうなエディに、笑顔を向ける。

 

「怒って暴れられると厄介でしょ? こうしておいてから……」


 首全体に強烈な風魔法をぶつけて、僅かに鱗を浮かせていく。

 魔法局員が、浮いた隙間に細かな魔法を的確に刺していく。

 私たち学生じゃ難しい、だけど魔法局員ならできる。うん、やっぱり思った通り。


「クラークさん、噂に違わぬ実力ですね! ええ、はい、卒業後は是非魔法局に!」


 リーダーさんに勧誘を受ける。


「考えておきます!」


 私の一言に、エディから嫌あああぁぁぁな気配が流れてきた。

 ……怖っ。ドラゴンより怖いよ?




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