20.邪魔
ゲーム通り……のイベントではなかったけど、ゲーム通り、私たちはドラゴンを退治した。魔法局員の皆さんが後始末をしている後ろで、私たちは身なりを整える。
ちょちょいのちょい、ではなかったね。でも、誰も怪我してないんだから、いいのいいの。ヒロインのお仕事、達成したよ!
やったー、という気持ちを込めて両手を伸ばし、大きく息を吸う。
さて。
「エディ先輩、まずはウィリアム先輩たちの所へ戻らないとダメですよね。絶対心配してますし」
隣に立つエディに顔を向けると、何故だか顔を顰めている。
え、何か悪いこと言った?
「ようやく他人行儀な言い方じゃなくなったのに、何で元に戻ってるんだよ」
他人行儀、とは。首を捻っていると、笑いを堪えたブライアンが、
「先程は、呼び捨てにしていましたし、敬語もなくなっていましたよ。なるほど、無意識でしたか」
と教えてくれた。マジか。いつも内心で考えてることの癖が出ちゃった?
そして、それにエディが文句言ってる、と。
「最初っから言ってただろうが、畏まんな、気楽に気軽にしろ、って」
「それは、でも」
「ソフィーはもう俺の彼女だろうが。何で遠慮するんだ」
「かっ!?」
彼女!? なの!? 両思いだって、それが判明したところで止まってたでしょ!?
「えー……僕は先に戻っていますね。アルに無事な姿を見せに行ってきます」
あっ、逃げた! ブライアン逃げたな!!
「……話し合う必要があるな?」
ずずいっと顔を近付けて、エディが凄んでくる。
「ストップ、ストップ」
「何がだ」
「顔が近すぎて恥ずかしい!」
目尻の下を僅かに染めたエディが、軽く咳払いをして離れてくれた。
******
私は半泣きのローズにハグされ、エディはウィリアムに肩パンされ。感動の再会(?)を終えた私たちは、ウィリアムのサロンで一息ついた。
「エディ、ちゃんと言ったの?」
ローズがエディをジト目で眺める。言った……言った、って、えーと、アレだよね。何でこんな所で公開処刑?
顔を覆って俯いちゃったけど、あれ、これ、かえって報告してるも同じじゃない? ダメだ自分。
「じゃあやっぱり、ウィル兄様! 約束、守ってくださいね!!」
約束、とな?
ウィリアムを見ると、どことなく呆れた表情でエディへ目をやっている。
「私は前に言ったな? エディ」
「あ?」
「自分で何とかしろ、タイムリミットは年内だ……と」
「何とかしただろうが」
「甘い。お前たちの様子を見る限り、単に最初の山を越えただけだろう」
何とかする、タイムリミット、最初の山。
ふむ?
「すべきことはまだ山ほどあるだろう。彼女がどうしたいか、お前がどうしたいか。何をどこまで根回しするか。何を退け、どう動くか」
いつも通りの二人の言い合い。
話している内容はほとんど分からない。私がどうしたいか? ってトコだけは意味が通じるけど。えーっと……何に対して「どうしたいか」なの? とりあえずエディは好きだよ?
「ウィル兄様! 全面協力でしょ!!」
「うん? ローズには約束していないよ?
ただ、エディには約束したからね。自分で何とかしたら邪魔はしないでやる、と」
「つまり、エディが何とかするまでは、兄上は邪魔をする?」
アルバートの言葉に軽く頷くウィリアム。
腕組みを解き、にこやかな顔で人差し指を立てる。
「手始めに。
ソフィア嬢。君、今は魔力は増大しているけれど、それ以外はどうなっている? 前期テストの結果は凡庸だったね?」
うぐっ! ……確かに、あの頃はパラメーターも低かったし……要は微妙な成績ってことで……まだ後期の期末テストを受けてないから、判断材料は前期期末テストの結果で……。
「後期テストでは、少なくとも学年三位に入ること。私からの課題だ」
「何故兄上がそんな条件を課すのです?」
アルバートの疑問に、ウィリアムがその場を見渡す。
「単純に、彼女に素質があるのかを知りたい。あるいは、それを成し得る意志の強さがあるのかどうか。
それからね。彼女がドラゴン戦でどれだけの活躍をしたのか、学内にはまだ知らない人間もいる。そんな子がウィルと一緒にいてごらん? また嫌がらせを受けるよ?」
あ、プチいじめの話、知られてた。知られないように必死になってたのに! 骨折り損だったのか!
「ウィル兄様、それじゃ、昼食を邪魔していたのって」
「当然、エディの危険を遠ざけるためさ。単に近付くのも問題だったが、ソフィア嬢が嫌がらせを受ければ、心が乱れるだろう? より危険だ。
嫌がらせは、相手の実力があれば黙る輩も多い。そのためにも数字で示すのが手っ取り早い」
むむむ。一理ある。
二つ目、と、中指が伸びる。
「数字を出そうにも、期末までは結果が分からないからね。嫌がらせを受けた時の対処を見させてもらおうか」
「以前、面白い対処を見ましたよ」
ブライアンが含み笑いをしている。
言わないで! パンツ丸見え事件は言わないで!!
唇に人差し指を当ててくれたから、黙っていてもらえるみたいだね。ああ、良かった。……エディの機嫌が悪くなってるけど、それでも言えないものは言えないの!
「以前のような可愛らしいものじゃなくなるだろうね。さて、どうするかな?」
上流階級の嫌がらせをどれだけ捌けるのか、ってことかな? が、頑張る。
ていうかこれ、別にウィリアムの邪魔じゃないよね??
面白がってる風なウィリアムは、薬指を立てる。
「今回の活躍を目の当たりにした人間は、自分たちの元に引き入れようと躍起になるだろうね」
「魔法局、ですか?」
ローズが頬に手を当てる。
「ゼヴィアが元々狙っていた。これを機に、入局を望む声が更に大きくなるだろう」
エディが舌打ちする。うん、あの場で勧誘受けたもんね。見てたもんね。
「他にもいるよ? 我々王家もだ」
「ああ……そうですね。優秀な人材は、国で押さえておきたい」
アルバートがうんうん頷いている。
横にいるブライアンもだね。彼はアルバートの側近。アルバートの指示で動くだろうから。
「レフィニド家もだろう? ローズ」
口を尖らせて黙り込むローズ。
「夏からこちら、レフィニド侯爵は大変に目をかけていたそうじゃないか。ローズとも仲が良い。……使いたいだろうねぇ」
反論できないんだろうローズが、こめかみを押さえる。親の意向はローズの思うようにはならないよね。
「騎士団長は、孫を使ってでも引っ張り込みたいんじゃないかな? クリスは魔法剣士だ。より強い魔法剣士を望むのならば、代々剣に強いシヴァル家に、魔法に強いソフィア嬢の血を混ぜるのも一つの方法だ……クリスを使ってね」
何だよ孫を使うって、と、エディが吐き捨てている。しょうがないよ、お祖父さんがどう思うかな、って話だから。クリスの意思は無視かい! って、私も思う。
「忘れてはいけないよ、このリトール学園もだ。ディーン先生が守護を担っているが、今のままだと彼の負担が大きいままだ。彼レベルのスペシャリストではなくとも、ソフィア嬢ほどの使い手であるなら、教員の立場を与えてずっとこの学園にいてもらいたいんじゃないかな」
4月に私が思い至ったこと。9月にブライアンと話をしていて感じたこと。
全属性が使えて、しかも力が付いた私は、あちこちから引っ張りだこ! 嬉しくない!! 進路はたくさんあるね、って、まあ、そうなんだけどさぁ。
「ほら、ソフィア嬢の争奪戦だぞ、エディ」
私自ら動くのは王家としてだけだが、他は、なぁ?
と、ウィリアムが笑う。
小指が上がる。え、まだあるの?
「私が行う『邪魔』としては、これが最後。
ソフィア嬢。君の休日、全て私がもらうよ」
はぁあ?
私の目は点になり、ローズは両手を口に当て、エディが掴みかかろうとするのをアルバートとブライアンが止めた。
******
私の邪魔がどうこう以前にお前が片付けなきゃならないことを解決していくんだな、と言い残し、私はウィリアムに連れ出された。どこに行くんだろう。
「休日をもらうとは言ったけれどね。平日の、例えば昼食とか、授業後とか、そういう時間は好きにしていいんだよ」
半歩前を歩くウィリアムは、私の方へ軽く振り返り、ニンマリ笑いかける。
彼の思惑がイマイチ分からない。それじゃ、休日に何をさせようっての?
「私名義の客室へ招待するよ」
「え? ……いやいや、簡単に言いましたけど、それってつまり王宮ですよね」
「当然だろう?」
「私が気楽に行ける場所じゃないですよね!? 粗相があったら切り捨てられそうですよ!?」
「怖じ気づかなくてもいいよ、そんな怖い場所じゃないから」
――あれ。これに似たやり取り、どこかで。
「休日は、私の元へ来て、各種教育だ。今後の君に足りない部分を補うよう、手伝おう」
「何故に、王太子殿下直々に……?」
「ああ、私が全て教えるわけではないよ? ふさわしい人間を用意しておく。
さっき言っただろう? 君はあちこちから狙われている。
……最低限の教育すら施していないようでは、マグニフ国王家として、学園の先輩として、恥ずかしい限りだからね」
失礼と思いながらも、足を速めてウィリアムの横まで進み、顔を見る。
なんて、なんって優しい顔。まったくもう。
「ウィリアム先輩」
「うん?」
「それって、ホントに『邪魔』ですか?」
ふくくく、と笑ったウィリアムは、
「エディがどう感じるか、だからね。邪魔されたと思っているから、それでいいんだ」
まったく手間をかけさせる、と言うウィリアムに、馬車に乗せられた。
御者へと行き先が告げられる。――王宮。
「……まだ休日じゃないですよ?」
「今日はドラゴン戦の報告だ。
忘れているのかい? 君は国王陛下へ直訴したんだ。当然、報告義務もある」
あ、そっか。ん、そうなの? え、そうだったの!?
心の準備ができないまま、私は王宮へとドナドナされていった。




