打ち合わせをしよう
昼休みは残り十五分しかなかったので慶喜はできるだけ早く説明した。
「清河から少し聞いたと思うが今度の休み、俺と一緒に買い物でもしないか?」
「確かそうやってストーカーがいるかどうかを確認して、確実的なものになったらストーカー対策について話すんですよね」
「ああ」
香月は自分の話を信じてもらえなかったことを悲しく思っているのか、一瞬目を悲しそうに伏せた。慶喜はそれに気付きながらあえて、何も言わなかった。
「ストーカーの存在が確認でき次第、どういう方法で捕まえるとかはまだ考えていないんですよね」
「考えてるぞ」
「そうですよね、まだ考えてないですよね。……って、あれ?」
「慶喜君、もう考えてたんですか?」
慶喜の言葉に香月だけでなく美優も驚いた表情で慶喜を見た。美麗唖はなんとなく予想していたそうで大して驚いてはいなかった。
「全部は考えていないがな。大体はもう考えがまとまってるぞ」
「教えてください!」
香月は机から乗り出して向かいにいる慶喜の顔をジッと見つめた。
それを見て美優は慌てて香月を慶喜から離そうとしたがそれを美麗唖が止めた。また何かを企んでいるようだが、美麗唖のことだ。大体わかるだろう。
「近い。離れろ。そして悪いが教えるわけにはいかない」
「どうしてですか?」
「……今それを言ったらお前は絶対それを実行する。それは俺の予定を狂わすことになる」
「絶対にしません」
「絶対という言葉は百パーセントだ。今の百パーセントはどう考えても言わないことの方だろ」
「……」
慶喜に話す気はないようで、香月もそれを感じ取って深く追求するのをやめた。時間の無駄になることは忙しいアイドルにとっても嫌なことだろう。
慶喜は軽くため息をつくと、休みの日の予定について話し出した。
「次の休みはいつだ?」
「土曜日は午前で撮影が終了しますので午後なら大丈夫です」
「そうか、それなら土曜日の二時でどうだ?」
「……わかりました」
香月はポケットからスケジュール帳を出すと土曜日のところに書き込んだ。
それを見て不審に思ったのは慶喜だけではない。
「あれ、香月ちゃん自分でスケジュール帳に書き込むの? 私はてっきりそれもマネージャーさんがやるものだと思ってたんだけど」
「マネージャーさんは仕事のことで私はプライベートのことを書いているの」
「なるほどね~」
特に香月は短い期間であるが学校に通うことになっている。友達ができればその分出かけることも多いだろう。
(俺はそもそも友達がいねぇからそんな心配はいらねぇな)
香月が書き終わったところで慶喜は美優と美麗唖を見た。
「お前らは土曜日空いているか?」
「空いてるよ~」
「私も特にないかな」
「なら俺達を尾行しろ」
「オッケ~」
「え、どういうこと?」
慶喜は香月と一緒に行動しているのでストーカーが本当にいたとしても気付かない可能性がある。というよりストーカーとは本人に気付かれないように尾行するのが第一の基本だ。他の人にバレてもその人にバレなければある程度は続けられるものだ。
だから香月と一緒に歩いている慶喜が見つけられなくてもおかしな話ではない。だから、第三者である美優達にそのストーカーを見つけさせるのだ。
慶喜がそう説明すると、香月も美優も感心したように納得した。
「慶喜君って本当にすごいね」
「ストーカーを捕まえるプロみたい」
「俺が捕まえられるのはど素人のストーカーだけだ。プロのストーカーは捕まえられねぇよ」
「ストーカー君だったらそのプロのストーカーになれるんじゃない?」
「確かに」
「なぜそこで肯定するんだ、清河」
慶喜がため息をつくと今更のように香月は疑問をぶつけた。
「そういえばどうして志賀君ストーカーって言われてるの?」
「あぁ、それはね~」
「ちょ、ちょっとみっちゃん……!」
美優は慌てて止めたが美麗唖はまた面白そうに言った。
「この美優ちゃんを尾行したり、あとこれは私達以外知らないんだけどスマホを使った……」
「みっちゃん!」
「痛い! ご、ごめんって美優ちゃん」
美麗唖は美優に頭を叩かれたが、反省の色は見えない。その続きが気になる香月は慶喜の方に口を近づけ美優に聞こえないように言ってきた。
「スマホで何をしたの? まさか盗撮じゃないよね?」
「そんな疑惑を持っている本人に普通訊くか?」
「普通は訊かないけど志賀君は答えてくれそうだよね」
「……はぁ」
最近自分の行動が読まれているようで落ち着かない慶喜だが、別に隠すことでもないので美優に聞こえないような音で言った。
「スマホで盗聴したんだよ。授業が終わる前に清河に電話をかけさせてな」
「合意の下での盗聴なんだ」
「そう言われると嫌な感じだな」
「志賀君もそういう感情はあるんだね」
(だからお前も清河も俺を何だと思ってんの? 人間だぞ? 無口で眼鏡をかけた情報なんちゃらという宇宙人じゃねぇんだからな。いや、宇宙人も人だから人間か?)
一体みんなは慶喜のことを感情がない人だと思っているようだが、なぜそう思われるかは慶喜はさっぱりわからない。
そこでチャイムが鳴った。
「五時間目もそろそろ始まる。帰るぞ」
「次なんだっけ~?」
「体育だよ」
「私は数学」
「……」
そこで部室のドアを開けようとしていた慶喜は視線を感じて後ろを向くと、三人がジッと見ていた。どうやら慶喜も言わなければならないらしい。
「……国語だ」
「そっか~」
「それだけかよ……」
「え、他に何か言うことあるの?」
「知らねぇよ。人と話すことねぇし」
「あ、やっぱりそうなんだ」
(やっぱりってひどくね? 俺ってそんな人付き合い悪そうに見えるか? まぁ、見えるだろうな)
自己完結した慶喜がドアを開けるとそこにはまだ人がいた。どうやら廊下で弁当を食っていたらしい。 そこまで香月と一緒にいたいのかと思うとやはり香月は慶喜が思っている以上に人気アイドルなんだろう。
慶喜は最後にもう一回ため息をつくと他の三人が来る前に部室を離れた。




