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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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恋愛相談① 清河美優編

 この学校の入学式の時点で清河美優は周りからの注目を浴びていた。

 整った顔立ちに真っ白な肌、黒い髪も腰まで伸びていて、男子からの注目を浴びるだけでなく、そのコミュニケーション力で女子や先生達からも厚く支持されていた。

 そんな彼女が今、慶喜の目の前で座っており、今教室には二人だけだった。そんな状況で慶喜が思っていることといえば……


(うわぁ~、めんどくせぇ……。だから、鍵を閉めてたのに。なんで俺の読書を邪魔するかなぁ)


「え、えっと、ここってさ……」

「ちょっと待て」


 美優が何かを言おうとしたとき慶喜は手の平を美優の方に向けた。決していやらしい意味ではない。ただ、美優の言葉を止めただけである。


「な、何?」


 美優は自分が話す前に止められて、何か自分に失礼があったのではないかと、服装を整えてから慶喜をまっすぐ見た。

 大抵の男子ならその目を直視できずに目を合わせようとしないが、慶喜はそもそも目を合わせる気がないように椅子にもたれかかって、目線を上に向けていた。

 それから、一度ため息をつくと、美優を見た。


「質問する前に自己紹介してくれない? 一応俺は清河さんのことを知ってはいるけど、それでも自己紹介をするべきだと思うのだがどうだろうか?」

「は、はい。確かにそうですね。それでは私から……」


 それから美優は軽く自己紹介をしたが、実際慶喜は聞いていなかった。


(自分で言ってなんだけど、俺別に清河さんを知る気もないし、大体の情報はクラスの男子達が騒いでいるのを聞いているしな……)


「……です。よろしくお願いします、って聞いてます?」

「当たり前だろ。自分で言って聞いていない奴は最低だと思うけど?」

「なんか、逆に信用感が下がりましたけど……」


 美優が苦笑いしているのをよそに、慶喜は自己紹介を始めた。


「俺は志賀慶喜。名前は徳川慶喜と同じ漢字だ。名字は……こころざしに恭賀新年の賀だ。あとは……そうだな、一年二組だ」

「そうなんですか、それではお隣のクラスなんですね」


(いや、知らねぇけど……。隣のクラスってことは一組か三組だな。まぁ、そんなのどうでもいいや)


 一通り自己紹介も終わったことでさっそく美優がさっき言いそびれた質問した。


「ここって恋愛相談部なんですよね?」

「正確には恋愛相談部の部室な」

「……意地悪ですね」

「よく言われない言葉だ。なんたって友達がいないからな」

「……すみません」


 美優は慶喜に友達がいないと言わせたことを謝っていたが、慶喜は特に気にしていなかった。


(いや、自分で言って自分でショックを受ける奴はただのバカだろ……)


 とりあえず、今のままでは話が進まないので慶喜は美優に話を振った。


「ここに来たってことは恋愛相談とかだろ?」

「は、はい! ここってそういうのを手助けしてくれるところって聞いたけどホントなの?」

「恋愛相談部と名乗っておいて恋愛相談しなかったら詐欺だろ……」


 慶喜は呆れながらそう言って、美優はそうですねと言ってやっと笑った。さっきから緊張しきっていてどうやったら緊張をほぐせるか慶喜は少し悩んでいたのだ。


「それで、今回が初めての依頼で俺もよくわからないんだけど、依頼内容を聞かせてほしいのだが」

「えっと……少し長くなりますけどいいですか?」

「そこでダメって言ったらどうなるんだ?」


 慶喜がそう言うと、美優は呆けた顔をしてから、さきほどよりも長く笑った。


「慶喜君って面白いんだね」

「お、おう……」


(まさか、会って数分しか経っていないのに名前を君付けで呼ばれるとは思っていなかった。これが噂に聞くコミュニケーション力か)


 慶喜が驚いていると美優は今回の依頼について説明をし始めた。



 実は私には好き、とまでいかなくても気になっている人がいるの。いつもはね、クラスの人達とたわいない話をしているんだけど、あるとき四組にいる佐々希(ささき)亮雅りょうが君がかっこいいっていう話になったの。

 そのとき、みっちゃん、えっと……三上みかみ美麗唖みれあっていうお友達に「二人はお似合いだよ」って言われて、なんか意識し始めちゃって……。

 何回か会ったことがあるんだけど、その度に今の話を思い出しちゃって逃げてばっかりで、全然話せなくてどうしよかなって思っているときに、倉間先生がここを紹介してくれたの。

 それで、今回私がこの部に頼みたいのはどうやったらその……亮雅君と話すことができるかな~って。告白なんてまだ恥ずかしいし、それにまだ自信もないし……その……告白が成功するかどうかって意味じゃなくて、私が亮雅君のことが好きなのかどうかわからないって意味で……。



 美優はちょっと長く話をして疲れていた。

 それを見た慶喜は部室に置いてある紙コップを取って、自分の鞄の中からいろ◯すを出した。キャップを開けて、紙コップに注ぐと美優に差し出した。


「あ、ありがとう……」

「昼にジュースを飲もうと自販機に行ったら、ボタン押す瞬間に廊下を走っていた奴が俺にぶつかり、間違って違うボタンが押ささったんだよ。家に持ち帰ってから、土にでもかけようと思って取っていたんだよ。まさかここで役に立つとはな」

「慶喜君の家って畑でもやっているの?」

「いや、なにも。だから、近くの公園でばらまこうとでも」

「そ、そうなんだ……」


 他の人はどうか知らないがせっかく買った天然水を無駄にするというのは結構楽しいと慶喜は感じていた。ジュースであれば、味があるので無駄にする気にはなれないが、天然水となると味が付いていないのにどうして味の付いているジュースと同じ値段なのか慶喜にはわからなかった。だから、そもそも無駄な金を払っているのなら、それも無駄にしてしまおうというのが慶喜の意見である。


「それより、さっきの話についてなんだがな……」

「う、うん……」


 慶喜の後の言葉に美優は息を飲んだ。どういうアドバイスをしてくれるのかが楽しみであった。


「話はマジで長ぇし、なんかいかにも青春してますな~、と思いながら聞いていました」

「……」

「……」

「……え? それ……だけ?」

「うん、そうだけど?」


 慶喜の言葉に美優はもはやどんな顔をすればいいかわからなかった。これはただの感想である。これを聞いて自分は一体何をすればいいのだろう。


「えっと……、ちゃんとやってる?」

「いや、全然」


 その言葉に美優は怒りを通り越して呆れかえっていた。

 そんな美優を見て、慶喜はため息をついた。それでも怒らない美優は聖人と言っても過言ではない。


「わかったよ……、ちゃんとやりますって。なんか無反応だとこっちが傷ついたよ、もう」


 なぜか、慶喜が怒っていたが美優は慶喜がちゃんと動いてくれるのならこの際どうでもいいかと結論付けた。


「そうだな、とりあえず俺がサポートするのは一週間だ。それ以降は清河さんが自分から行動すること、それでいいか?」

「あ、ありがとう!」


 美優は立ち上がって大げさに礼をした。そのとき、慶喜の鼻にいい匂いがしたが、そこで顔を変えないでいられるのが慶喜である。


(一週間という短い期間は俺の私情なのだが、ここまで感謝されると申し訳ないな。だからといって変える気はさらさらないけど)


「それじゃ、来週の月曜日まで手伝ってやるから、火曜日からは自分でな」

「うん! ありがとう! あ、そうだ、それと慶喜君」


 美優は自分の鞄を持って、教室のドアを開けたとき、思い出したかのように慶喜を見て言った。


「そこの問題の答え間違っているよ。正解は(ⅰ)が凝縮で(ⅱ)が凝固だよ」


 そう言って美優は教室から出て行って、階段を降りていった。

 最後に残された慶喜はため息をついてから、間違っている箇所を直した。


「気体から液体が凝縮で、液体から固体が凝固ね。は~、誰だよこんな問題簡単とか言った奴……」


 プリントを直した後、ファイルに綴じてから鞄の中に入れた。教室を出て行くとき慶喜は教室の中を見て思った。


(はぁ、結局本読めなかったな)



前回の話の解答です。

①(ⅰ)凝縮(ⅱ)凝固

②拡散

③273

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