第二章完結記念:幕間 Fragments of fact(後編)
こちらは第二章完結記念の幕間の後編になりますこちらは第二章完結記念の幕間になります!
多少二章の内容も含みますが、二章を読んでいない方でも楽しめる話となっていますので、ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです!
蘇った記憶の一番最初は俺がアーブル・リブヌイという孤立した村に生まれてから三年後のころだろうか。
そのころには周りには血の繋がりがない子供で溢れていた。合計で三十人ぐらいだろうか。
そう、私には親がいなかった。否、正しくは親が俺達の育児を放棄したのだ。それを二年後の僅か五歳という若さで実感したと共に、怒りが込み上げてきた。
「なんで、僕達を生んだんだ。クソ……」
「ロコちゃーん?どこかな~?あ、いたいた~」
ロコがいつもの隠れ家、とも言い難いが裏庭にある草木の生い茂る中作った秘密基地に居座っていると、先生が探しに来た。
「もう~またこんなの作って。ダメって言ったでしょ~」
ロコは密かに先生のことが好きだった。それはラブの方ではなくライクの方ではあるが。
「はい、ゲノちゃんが待ってますからね。行きますよ~」
「……はい」
「拗ねないの」と宥めながら抱っこする。ロコはこの抱っこが好きなのだ。
青い綺麗な髪だったことを今でも覚えている。その表情こそ忘れてしまったが、先生はいつも笑っていたように思える。
抱っこされながらしばらく歩くと大きな木の門が見える。これがロコ達が住む家である。正直”家”という言い方は俺にとっては呪いの言葉のようで嫌いだ。
門をくぐると皆がこちらの方を見て、先生を呼ぶ者や、ロコを呼ぶ者がいた。
その中でも一際大きな声でロコの名を呼び、飛び掛かってくる者が約一名。そう、ゲノ・スケローイである。この家の中で唯一同い年ということもあり一番仲がいい。
「ロコぉ!またひみちゅきちぃ?ねぇ?ぼくずっと絵描いてたのに~全然来ないから~」
「もうわかったわかった」
……が、先生の腕から降ろされるや否やこうして飛び込んできて質問攻めを受けるので何かと面倒なのだ。
「ほぉら、ゲノちゃん。ロコちゃんが困ってるよ?」
そう言われ少し拗ねながらもゲノは落ち着きを取り戻す。
ここまでがロコにとっての一日の始まりである。
「で、なに描いてたって?」
部屋に向かう途中でゲノが先ほど言っていた絵について問う。
ゲノは忘れていたのか、数秒考えた後答える。
「あのね、絵を描いてたんだぁ!」
「それは知ってるよ……だから何を描いてたのって」
なるほどとゲノは口をあんぐりさせる。
「前にせんせーが言ってたでしょ~?そのデザイン?っていうのかな、考えてたんだ~」
前に先生が言ってた……?そんなことがあっただろうか……
数秒考えた後、先週のことを思い出した。
「はーいみんな今日の授業はここまでで、宿題を出したいと思います~」
週に三回ある授業という生活するうえで必要となりゆることを学ぶものが存在し、その中でも裁縫の授業の時だった。
「授業で作成したこの糸のイラストを応用して、人形を作ってもらおうと思います!」
部屋にいる子供はそれぞれ苦悶の表情をする者もいれば、喜んでいる者もいた。ゲノはこの授業が一番得意なんだそうで当然ながらワクワクしていた。
「……といっても最初から人形を作るのは難易度が高いので、まずはイメージをイラストにして描いてもらいます!期限は来週までですのでゆっくり考えてくださいね~」
言い終わると、その日の授業が終わった。
「……確かに言ってたね……」
「ロコはどんなの描いた~?」
「えぇ、とそうだな、また後で見せてやるよ」
言えないのも無理はない。なにせ描いてないのだから。あの授業の日、実は半分寝ていたのだ。なので糸で作るイラストももちろん出来ない。どうやってそこから人形を作れというのか。
とにかくゲノが後で見せるというロコの言葉を忘れてくれることを切に願い、速足で自分の部屋に入る。
「はぁ、まずいな、あぁ言ったものの確かに皆もう描いてるみたいだったし……ん~」
目の前の白紙の紙を見ながら、今日が授業日ということを思い出し、ふと時計を見ると、後十分しかないことに気付く。
「やべっ……えっと……もうこれでいいか……」
授業開始の鐘が鳴り、皆が一斉に席に着いたことを確認した後、先生が口を開く。
「はい、今日も裁縫の授業です~というわけで、宿題、やってきましたか~?」
やったよという言葉がはびこる中、ロコは俯いていた。
「ロコ?だいじょうぶ?」
ゲノが心配そうに顔を見てくる。
今は見ないでくれ、いや、やったんだ、やりはしたんだが……とても見せられたものではないからな、頼むからその無駄にキラキラした目で見るのは本当によしてくれないッ―――
「あ~かいてるじゃん~」
「あっ!ちょ!」
ゲノがひょいっとロコが手に隠し持っていた宿題の紙を奪い、先生も元へ走る。
「せんせー!ロコがちゃんとやってた~」
「あら~そうなの?えらいね~でも勝手にとっちゃダメでしょ?先生見てたからね~」
そう言われた後、なんの悪びれることなく席に戻る。
「ごめんね~はいこれ、でも先生ほめてたよ~」
「でもってなんだでもって……」
渡された……いや、返された紙にはクマのイラストが描いており、その下には自分がこれまで宿題をやらなかった戒めの意味も含めて”グマズ”という名前を添えていた。
「そういうお前は何描いたんだよ」
待ってましたと言わんばかりに満面の笑みでカバンから一枚の紙を取り出し、ロコに見せる。
「どう?にんぎょーだよ~えっとね名前はティルムっていうんだ~」
そこには頭の頂点を蝶々結びにして括り、ベストを着せたお坊ちゃんのような人形が描かれており、ちゃんと色も塗っている。
「はーい静かに~。皆さん書いてきたと思います人形の設計図を、今度は形にしていきたいと思います!」
皆が喜びの歓声をあげる中、ロコは憂鬱だった。
それはそうだろう、先も言ったが前回の授業は寝ていたのだ。針の使い方も覚えているわけがなかった。
「ふんふふーん♪ふんふんふーん♪」
数分が経ち、不器用ながらも頑張って形になってきている子もいれば、隣のゲノのように順調に顔が出来上がっている子もいた。
「な、なぁ、ゲノ……」
「な~に?」
ロコはもうこの際だと思いプライドを捨てて聞くことにした。
「なんでそんなにできるんだ……?その……裁縫……」
「えっとねえっとね、じゅぎょー受けてた!」
内心そうだろうとは思っていた。思ってはいたがいざ言われるとなぜあの時寝たのかと自分を呪ってしまう。
何かを察したのかゲノがロコの手元を除き、不思議そうに首をかしげる。
「んん?まだ糸も通してないじゃん!」
「あ、えぇと……ん……(わかってんだよそんなことはぁ!)」
そして何より最悪なのがそれを聞きつけて先生がこちらに歩み寄ってきたことである。
「あらあら、ロコちゃんどうしたの~?」
「あのね~ロコがまだ糸通してない~」
黙れと言いたくなったが、実際皆ができているのにも関わらず自分はできていないのだ、当然だろう……
「あら、そうなの?ん~そうね、じゃあ先生と一緒にやってみましょうか?」
「え、いいんですか?」
もちろんと至極当然のように言ってちょうど左の席が空いており、そこに先生が座った。
周りの人からしたら普通のことかもしれないが、この時のロコにとっては何よりも救いであった。
「じゃあまずはねぇ……」
丁寧に教えてくれているのだが、ロコはそれよりもある一言が頭の中を支配していた。
―――好きだ。
「はい、これでいいかな?」
数分後、ほとんどそれまでの時間を先生の顔を見つめることに使ったが、なんとか形にはできた。
ちなみに色は十分で急いで描いたので白、つまり塗っていないので白クマになった。
「はーいじゃあ皆さん今日はここまで!早くもゲノちゃんとロコちゃんが完成しました~拍手~」
すげーという言葉が浴びせられる度にずきずきと心が痛む気がした。なにせ先生の力を借りて、否ほとんど先生がこの白クマを作ったようなものだからだ。
ゲノはもちろん自分の力で仕上げたので素直に喜んで……いると思った。
「ロコ……大丈夫?」
何が?そう最初に思った。
「え?何がだ?」
「いや……だって、全然喜んでないからさ、えっと、失敗でもしちゃった?」
そう言われて最初は腹が立った。が、だんだんとその気は失せる。
「お前っ……」
「ごめんね、僕、教えたらよかった……やっぱり、ロコが笑ってないのは悲しいから……」
ゲノは涙を流した。自然と怒りは収まる。これは同情ではなく、ただ、悲しいのだ。
友達であるロコが笑っていないのがゲノにとっては耐えられないのだろう。
「い、いや、その……自分では、作ってないから……って」
「そんなことない!先生言ってたよ!手を動かしたのはロコ、つまりロコの努力の結晶なんだって!」
ロコはその言葉に圧倒され、もはや何も言えなかった。
「……ごめん、怒らせるだけだったね……」
「いや……いいんだ……僕こそ、ごめん」
その後数秒が数分と思えるぐらいの時間を過ごした後、授業が終わりゲノに呼び出される。
「どうした?」
「あのね……その、こ、これあげる……」
そう言って渡されたのはティルムだった。
「え、でもこれ……」
「いいの!これで、少しは笑ってくれるかなって……」
誰よりも早く終わったとはいえ本人の傷だらけの指を見ると相当頑張ったことがわかる。あげるとはいえさすがにこれは……
「受け取れないだろ……だってゲノ頑張って作ってたじゃないかよ」
ゲノはそれを聞いてブンブン首を振る。
「頑張ってはいたけど、これ、ほらロコの誕生日にって……ダメ……かな」
ロコはそれを聞いてはっとした。そうだ、今日は九月の二十五日、僕の誕生日か、すっかり忘れていた。
「そ、そうか、いや、ダメじゃない、うん、ありがとう……」
それを受け取るや否やロコは久しぶりに笑みを浮かべた。
「ロコちゃん!ゲノちゃん!どこ!?早く逃げて!」
唐突にそんな声が響き渡る。先生の声だ。
「どうしたのかな?」
ゲノが疑問を抱いている。僕もそうだ。
ドタドタと廊下を何者かが走ってくる。
「ここにいた!早く!」
「ねぇ、先生、どうしたの……?」
「キョウガ国よ!前に授業で話したでしょ!」
キョウガ国。この家の数キロ先にある国だ。
何故わざわざ向こうからこちらに向かってくるのか。それは僕達が罪を犯しているからだ。罪を犯しているから、罰しに来るのだ。否、今回の場合僕達からすれば襲われると言った方が正しいか。
家が襲われる理由として、まず十人以上の子供を育てる場合、近くの国に申請を出さなければならないのだが、運悪くここは声を聴かないと有名なキョウガ国が最寄りなのだ。
今まではなんとか身元を隠蔽し、それぞれ偽の住所でやり過ごしていたのだが、今になってばれたのだ。
罪人にはとことん制裁を下す国だ。この家があるアーブル・リブヌイ諸共滅ぼすつもりだろう。
「そんな国がなんで……!どうせあいつら僕たちの事情も知らないんでしょ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないの!ごめんね、隠せなくて……とにかく後はあなた達だけだから!」
そう自分達を慰め、手を引き外に出る。
「……嘘……そんな……」
「せんせーどうしたのぉ?」
先生が今まで見たこともない、絶望の表情をしていた。
ロコもその光景を見て半ば察しがついた。
「人が……いない……」
おそらく村にある馬車で逃げようとしたのだろうが、もぬけの殻であった。
今から村を滅ぼさんとする人達が来るのだ、待ってられないのも無理はない。が、少しは待てなかったのかという怒りがこみあげてくる。
先生が力なく二人を抱き寄せる。
「あなた達、私のこと好き?」
「……?うん、すきー」
「もちろん……」
ロコはその時、別の意味で絶望した。
先生は囮になるつもりだ。
そしてついに「その時」が来た。
それからのことはよく覚えていない。
先生が「その者達」の前に躍り出て、気付くと体から赤い液体が零れ落ちていた。
僕達はもう一度親を失った。
ロコとゲノはそれから頭の中が空っぽになり、逃げながら考えた。
強くなってやると。
その十一年後、十六で守の象徴ナファハ国に道中恵んでもらいながらも辿り着き、大騎士団カズィオンに入る。アーブル・リブヌイ出身と聞いて受け入れてくれた国はここが初めてであった。
手元にある二つの人形は薄汚れており、糸も解れていた。
絶対にこのチャンスをものにする。そう人形に、先生に約束した。
崩れ落ちた家の前で、ロコは目を開ける。
目の前にいたゲノも同様にこちらを向く。
「……その人形、僕があげたのに……ごめんね今までバカにして」
ゲノは謝罪するが、ロコがそれを否定し首を横にふる。
「大丈夫だ。俺も忘れてて……すまない」
ロコは空を見上げ、あの時から変わり果てた赤い空を見上げる。
そして、一息ついた後、ゲノに言う。
「行こう」
「……うん!」
―――作戦後、現在―――
ロコは空を飛んでいた。
それは命令でも何かを駆逐するためではない。
今、抱かれているゲノを、故郷に返すためである。故郷といっても本当のではなく、二番目の故郷ではあるが。
よほど眠たかったのだろう。あれだけ元気だったゲノが、今やスヤスヤと寝ている。
ゲノは死んだ。
あそこにベッドはあっただろうか?眠ってくれるといいが。あぁ、そうだ、いつもゲノははしゃいで先生に怒られていたな。
ゲノが死んだ。
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死ん
やかましかった声も、今となっては永遠に聞いていたい。
ロコは涙を流す。
そして気付く。
あぁ、そうか……
執着していたのはゲノではなく、俺だったんだ。
Fragments of fact-END-
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第二章完結記念:幕間 Fragments of fact(後編)いかがでしたでしょうか?
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
そしてなんと来週から三章開幕です!
お楽しみに!
執筆の励みになりますのでよければコメントやブクマお願い致します!
別界勇者は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!




