第二十九話 隠匿の魔法
カーロス国宮殿内書庫では玲一行が皆そこでスサノーを中心に緊急の会議を開いていた。
「では第一にですが―――」
「どーーーんっ!」
スサノーが作戦を言おうとしたその時、何者かがドアを思いっきり蹴破った。
「くそ……」
「あらら~?なに話してたんですか~?きゃはっ」
「アルム……ちっ、こんな時に……」
リョウマが愚痴を零すとここぞとばかりにアルムが重ねてくる。
「見たところ何か大事な会議でもしてたんですかね~?もしかして~」
アルムがこちらを見下すようにして嘲笑しながら話している最中、足に少し魔力を込めてリョウマに急接近して話を続ける。
「わぁたし達を倒そうだなんて計画……じゃありませんよねぇ!?きゃははは!」
それを聞いたリョウマは少し訝し気な表情を浮かべるが、すぐに冷静な表情を保とうとした。
「きひゃひゃ!ばぁればれですわぁ!図星……ですわね?」
「ふん!」
「きゃっ、こわーい」
リョウマはその笑い声が聞き飽きたのか、左足を即座に捻り、アルムの脇腹目掛けて蹴りを入れるが、簡単によけられてしまう。
「ちっ、何しに来たんだよ」
「決まってるでしょうが……こいつ、碓氷玲の処刑!ですわよ」
言いながらアルムは後ろからナイフで刺そうと目論むシュシュの真紅の艶やかな髪を無造作に掴み、玲達の方へ投げる。
「うぅ……!」
「シュシュ!大丈夫か!」
「あんたは許しませんわよ……メイド野郎~、あなたさえいなければさっさと玲を殺せたのにぃ……変な魔法使って邪魔してぇ!ただで済むと思ったらっ……」
怒りに任せシュシュに飛びかかろうと姿勢を低くすると、ヒュナが肩を気持ち強めに掴み、静止させていた。
「……ありがとうヒュナ……はぁ、まぁいいですわ……ここに来た目的は玲の排除ですからぁ、早速ですが」
アルムが再度屈み、一瞬で玲の鼻先にまで接近する。
「くっ……桜魔法……」
「させねーですわぁ!」
玲が魔剣を取り出し魔法を唱えようとするとアルムが魔剣を上から抑え、強引に鞘に収めさせ、爪で首筋を撫でた。
「はいさよ~なら~」
「させません」
腕を振り上げ、首を目掛けて振り下ろすと、横から魔剣ではない、カーロス国で騎士に配布される両刃の剣でヴィーヴルはその腕を受け止めていた。
「影が薄かったかもしれませんが、私も戦えるのですよ」
(私が出る幕では無い事ぐらいわかってますが……何とかして面映い思いを払拭しなければ……)
「君は……見ない顔だぁ……ん~名前は?」
ヴィーヴルが腕を跳ね返し、体制を立て直しながら応える。
「あなたに御使いしたつもりは毛頭ありませんので……」
問いに答えながら地を蹴り一気に間合いを詰め、剣を縦に振り下ろす。
「教えるつもりはありませんっ」
豪快な音と共に地が割れ砂埃が舞う。
「あ~思い出したぁ……君、リョウマ様の悪口を……」
「それ以上言ったら腕ごと切り落とします」
アルムが言い終わる前にヴィーヴルが先ほど以上に速いスピードで顔をアルムの鼻先近くまで近づけ刃を肩に押し当てる。ちなみにもうすでに刃が少しめり込み血が滲み出ていた。
「なにをそんな怒って……」
ヴィーヴルは真顔の圧をかけ、さらに肩に入った刃を押し込む。
「あぁ!くっ……こんの!」
アルムは腕に走る激痛をよそに足を振り上げ、ヴィーヴルの腹を蹴り少しの距離を取った。
「はぁ、はぁ……はは……こんのクソアマがぁああ!ちょっと攻撃が入ったからって調子に乗ってよぉ!はぁ……ちっ、ここじゃあれだと思ったけど使うしかないようですわぁ!」
そう叫ぶとアルムは刃がめり込んだ腕の反対の腕を前に掲げ、魔法を唱える。
「斥力魔法……裂」
「ふっ!」
ヴィーヴルはアルムが詠唱を終えると同時に横から斬りかかる。
が、アルムはにやりと笑って見せた。まるでヴィーヴルのその行動を予測していたかのように。
「そんなことぉ、わからなくてなぁにが王女ですかぁ」
「は?何言って……」
アルムの言っていることがわからなかったヴィーヴルは、すぐに理解することになる。
破竹の勢いで簡単に剣が裂けたからである。
軽快な音を立てながら二つに裂かれた剣が落ち、柄だけが残ってしまった。
「あぁ……そんな……」
「あぁん?なんですぅ?なぁんでそんなに落ち込んで……え?」
アルムが反応できる速さよりもはるかに速く、ヴィーヴルの手が腹に当たっていた。
「何を……」
アルムの困惑を無視し、魔法を唱える。
「添加魔法……贋作師」
「お前……魔法なん……ゴボッ!?」
何かの確認をしようとした瞬間、アルムは、口から吐血していた。
「アルム様!」
それもそのはず、腹から無数の肋骨が突き出していたのだ。
「グフッ……カハッ……こ……んの……ぉ……!」
アルムの目が左右別の方向に向きながらもヴィーヴルに向けて魔法を撃とうとその場に踏ん張る……が、飛び出した肋骨二十四本が肉を裂き、血が止めどなく噴き出しているのだ、足に力が入るはずもなく、その場に膝から崩れ落ちた。
恐らく最後の抵抗なのだろう、ヴィーヴル付近の地面が不規則に裂け、轟音を立てた。
ヴィーヴルは腹に二十四の穴を空けたアルムの悲惨な姿を見てその場に立ち尽くす。
「……だから、この魔法は嫌いなのです」
そう言っていると後ろからヒュナが殴りにかかってきていることに気づかずそのまま後頭部に一撃を加えられた。
「くそ……」
一瞬苦悶の表情を浮かべるが、すぐにいつもの冷静な表情に戻り、反撃しようと体を捻るが、ヒュナの後ろ姿が見えたところで体を制止させた。
「アルム様……」
地面に力なく座り込んでいるアルムにヒュナが歩み寄っていた。
同情したのか、はたまた哀れんだのか、ヴィーヴルはヒュナの後ろまで行き、口を開く。
「これは、私の独り言ですが……私の魔法は私の思い描く偽薬効果を強制させるものなのです。私の場合何かが増えた気がするというものですね。これは思いや物質限らず起こります。それが一時的に形となり、攻撃と転じているだけなのです。つまり……今見てもらったらわかる通り、肋骨が増えたと一時的な錯覚をアルムに強制させただけですので、今は傷跡も跡形もなく消えています……血は残りますが。ま、数日もすれば治るでしょう……」
そう言い残し、リョウマの元へ帰る。
「リョウマ様、すいません、お見苦しいものをお見せして」
「あ、あぁ、いいんだ、気にしなくて……その、すごい……魔法を持ってるんだな……なんで申請しなかった……?」
国の騎士になるためにはまず自ら持つ魔法をそれぞれの国に設置義務のある魔法市役所に申請しなければ違法魔法覚醒者となり、最大で懲役六年の処罰が下されることとなる。
これは騎士は基本的に物理攻撃による警備を主とし、魔法を使うのは別で魔法警備隊が設置されているからで、特例で魔法を申請していればその者は魔法騎士として魔法騎士団に所属することになっている。
「すいません……自分の甘い考えです……」
アルムを抱え、どこかへ行こうと部屋を出るヒュナを目で追いながら謝罪をする。
「いや、大丈夫。お前は俺が直々にスカウトしたからな、色々と事情があるんだろ、仕方ねーよ……」
聞いた限りだとヴィーヴル自身の想像力に依存するのだ。あんなものを生み出す自分のことが嫌なのだろう。
「ありがとうございます……あの、追わなくても?」
するとリョウマは静かに首を横に振る。
「いや、もういいだろう、まぁ、また来るとは思うが、その時はその時だろ。あのヒュナとかいう付き人も目の前で主人があんな状態になったんだ、しばらくは大丈夫だろ」
少しの間沈黙が続いた後、リョウマが再度口を開く。
「まぁなんだ、まだ罪悪感があるかもしれねーが、俺は感謝するよ。ありがとな、ヴィーヴル」
「……リョウマ様……もったいなきお言葉でございます」
その会話を聞きながらその間後ろではスサノーが玲に相談を持ち掛けていた。
「あの、玲様、一つ提案がありまして……」
「はい、なんでしょう?」
「足、もうすぐ治る見込みですよね?」
聞くと玲の代わりにシュシュが答える。
「はい、レイ様の足は明日にでも完治いたします」
スサノーは首を縦に振りながら続ける。
「わかった。なら、シュシュと共にアリアドネ御一行と合流していただけませんか?」
「……はい、僕も、そのつもりです。でもスサノーさん達は来ないんですか?」
スサノーが申し訳なさそうに目を伏せる。
「申し訳ありません……私たちは世間的にはあなたを見逃したというレッテルを貼られていますので、汚名返上をしなければなりません故……」
「え、でもじゃあ僕も残った方が……」
スサノーはそれを聞いて今度は否定するように首を横に振る。
「いえ、それは必要ありません」
「え……?」
玲が困惑していると、スサノーが微笑みかける。
「だってあなたは……無実じゃないですか、残って贖罪をしようだなんて、どの国の者が言おうとこの私が許しません。こう見えて私、結構地位高いのですよ?」
それを聞いて玲は何かの引っかかりが外れたように感じ、つい笑みが零れた。
「よし、ではシュシュ、玲様をベッドにお連れして足の回復に専念してください」
「承知いたしました。さ、レイ様肩をお貸しいたします」
まだ痛みが引いていないが作戦会議が始まったころからずっとシュシュから微量ながら今に至るまでずっと回復魔法をかけてもらっていたので誰かの手助けがあれば歩けるようになっていた。
「……アリアドネさん……」
だが、玲は痛みなどさほど気にしてはいなかった。
スサノーの一言であの危機感、アリアドネ達が危険なのではないかという危機感が確信に変わったのだ、気が気ではない。
シュシュがその様子を見て話しかける。
「心配なのは、重々承知ではあります。が、元気な姿でアリアドネ様御一行に会うためには、まずは回復に専念しなければなりませんよ?」
「―――そう、ですね」
玲は考えれば考えるほど深まる不安を無理にでも一旦は隅に置いておくことにした。
「…………ゲノが……そうか、そう、なのか」
生えた男はそれを感じ、涙した。
「そう、逝ったの」
また後ろにいた男も、同じく涙した。
「同じ種として……同じ、仲間として……これはなんだ……」
「それは、涙、だね、弦さん……」
「ほう、これが……か、よく知ってるな、泉さん」
泉と呼ばれた男はその場で立ち上がり、赤く染まる空を見上げる。
「数……また減ったね」
「あぁ、そうだな……でも、だ」
弦と呼ばれた男も立ち上がり、振り返る。
目線の先には幾数もの仲間が犇めき合っており、こちらを見つめていた。
「我々死の放浪者は、まだこんなにもいるのだ。暮らしていけるさ……」
「で、次の依頼は?」
泉がそう聞くと、弦は目をつぶり、何かを感じ取る。
「……ウスイ……レイの、排除、または……その他の魔剣の回収……だそうだ」
「じゃ、もう始めちゃっていい?」
泉が合図を送る準備をすると、弦は肯定の意を含めて頷く。
それを確認した泉は後ろに犇めいている群衆に体を向け、腕を素早く横に振ると同時にその群衆は瞬く間に消え、一気に辺りは静まり返った。
「……我々も、行くぞ」
また二人も同様に一瞬でその場から消え、本当の意味での静寂がそこには生まれた。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第二十九話、いかがでしたでしょうか?
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別界勇者は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!




