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それと新たな誕生の予感

 幾千幾万の異形を退けて奥地へと進む。


 今後ろを振り返っても〈掃除屋(クリーナー)〉の拠点はおろか、自分が元居た場所すらも見えないほどに進んできた。



 このくらいの距離であれば全力疾走ですぐに戻ることが出来るのだが、急いでもいないのに走る理由はないし、無駄に走ることを虚は嫌った。


 戦場に置いて無駄な体力の使用は厳禁だ。

 疲れは判断力を鈍らせるし、いざというときに息が上がっていれば潜伏もできない。


 現在の身体で肉体的な疲労を感じることは稀であろうが、沁みついた習慣はなかなか抜けないもので、緊急時や思わず、といった瞬間以外では走らないようになっていた。



 歩みがゆっくりなこともあり、虚が異形の群れの中を進む速度はそこまで早いわけではなく、全体で見ればそこまで進んでいるわけではない。


 しかし歩いた近辺には異形が崩れ去って砂のようになってしまった跡が残るため、まともな思考を持っていないであろう異形でも何か異変が起きているのではないか、と動きを止める一因になるのでは、というものが虚の思惑であった。



 意味がなかったとしても何も試さないよりは遥かにマシな行動であろう、と移動中にもなにか異形の情報に繋がる何かを得るための種をまき続けた。



 そんなことを続けながら歩くことしばらく。


 虚が次の一歩を出そうと体を動かしたとき、衣服の布ずれとは異なる音が背後から聞こえたような気がして動きを止めた。



「振り返るのは好きではないのだがな」

「振り返ってよかったことなどほとんどないからな」

「大体が不快だった」



 内心を言葉にして吐きながら嫌々に振り向いた。



 そこには塵の山、の中に少しずつ異形たちのパーツが生えた奇妙なものだった。


 長時間見ていたら精神が参ってしまいそうなほどに悍ましく、そしてどこか神聖さを感じさせるような矛盾した何かだ。



 ただの塵だとは思えずに観察する、よりも先にそれに向かって手を差し入れた。



 容易く入った腕をさらに奥へ押し込み、中でもぞもぞと動かしてみる。


 塵山の中は妙な生暖かさがあり、少し湿っていた。

 その感触に虚は首を傾げて内部を弄り続ける。


 虚が触れて塵になったものは、例外なく水分が抜き取られてカラカラに乾いた状態になる。初めに触った植物や〈不死隊(アンデッド)〉、研究所内で全てを塵へ変えたあの時も、水分など微塵も感じなかった。



 異形を塵へ変えた瞬間、崩れ去るときに触った時には水分は感じず、海岸の砂のような細かい粒へ変わっていたように思ったが、今触っているこの塵山の内部は少なくとも水を含んだ状態でなければあり得ない感触だ。



「知らぬ間に小雨でも降ったか?」

「それとも蘇生の兆候か?」

「妙に心地よい触り心地だ、思わずこのままでいたくなるな」



 もう片方の腕も塵山の中へと突っ込み、軽く動かしてみる。


 内部の塵にそこまで大きい抵抗はなく、動かそうと思えばもっと大きく動かすことも可能な程度。湿っているにしては軽い手触りであったためまた一つ疑問が増える。


 ならばと大きく塵をかき混ぜるように動かす。


 これまた不思議なことに、内部をかき混ぜた場合であっても手に伝わってくる湿った感触と妙な生暖かさに微塵の変化もなく、どこの塵を触っても一定の湿度と温度を保っていた。



「まるで生きているようじゃないか」

「まさか、まさかまたこの体は生物を生み出してくれたとでも言うのか?」



 新たな生命が誕生するのではないか、またこの体が何かを与えられたのではないか、と虚の表情が目に見えて変わっていく。


 無表情の皴一つなかった顔に深いしわが刻まれ、表情筋が大きく動いた。


 口角が上がり、口が三日月型へと歪む。



「こんな塵の中から生まれてこようだなんて!まるで伝承に聞く不死鳥のようじゃないか!!どうやって生まれてくるのだ、どうやって生命を形作る!!?こいつは連れて帰るぞ、気に入った。私が気に入った!!迷惑なんぞ知ったことか、コイツが這い出てくるまで待っていてやろう」



 塵山へ向かって一息で話し切った虚は周囲の塵を搔き集めて塵山へ被せながら、それに向かって独り言を呟き続ける。



「お前はもしや卵なのではないか?だとすれば私が内部に手を入れたことで成長の阻害をしてしまったかもしれないな。謝罪しよう、申し訳なかった。しかし卵であるならばなぜその外部にほかの異形の部位が飛び出ている?卵であるならば内部に収められていることが正常なのだろうが……もしや、アダムとイヴのように今までの異形たちの塵が混ざって重なって生まれた存在なのか?本当にそうなのであれば早々に帰って奴らと対面させてやりたいものだ。そして自慢したい。お前たちを私が”作り出した”のだという事実を……だから生まれてくるのなら早く出てくるのだな」



 異形のパーツが所々に生えている塵の山へ向かって話しかけながら、自分で崩した異形たちの塵を搔き集めて山へかけるそのすがたはまさに魔女のようで―――



 ―――救世主などという綺麗な存在とは程遠い。

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


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