それに任せたプラン
この前に一話投稿しております。
よろしければそちらからお読みください
「私は私が使う」
「話を進めるなら早急にな」
「戦争は速度が命だ」
虚の背後の男がいつの間にか用意していた椅子に座り、この状況であろうことか足を組み、顎を上げ、軍を見下ろすかのように目線を向けた。
その態度に腹を立てた一人の兵がその手に持っている銃を虚へ向けた。
正面の管理提督のみを見ているその女は、構えられた銃を見ることはなく、部下であろうはずの〈不死隊〉も銃をちらりと見た後は主人を守るでもなく目線を外し、管理提督付近の軍人たちを見ているだけ。
その行動に対し堪えが効かなくなってしまった兵の一人がその場で銃を発砲。
フルオートでばら撒かれる金属の塊は銃の反動により軌道が逸れ、そこら中に飛び散った。
その光景を前にしても虚は一瞬身構えただけで、本当に恐怖を感じていないかのように座ったまま。
発砲音を聞き、即座に動いた〈不死隊〉も何人か存在したが、動いた人物は全員が体中をハチの巣にされて倒れ伏していた。
一人の堪えの利かなかった兵によって生み出された真っ赤な血の池。
その血が兵の足元へ流れ、靴が汚れた、かに思えたその瞬間。流れてきていた血が巻き戻るように戻っていく。
血の池は徐々に小さくなり、倒れていた隊員も徐々に立ち上がっていく。
完全に立ち上がった後、ハチの巣になった体から銃弾が押し返されるように出て、カランと軽い音を立てて地面に落ちた。
部下の死亡も、蘇生の瞬間すらも見ず、真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに管理総督を見据えている虚に兵士たちは恐怖を覚え始めた。
そしてそれは向かい側にいる軍人たちも同じこと。
生物の平等な終着点たる死を当然のように無視し、まるで部下の死が些事であるかのように話を進めることを促すこの女に何らかの感情を持たないというのはとても無理な話だ。
「おや、図らずも私の言葉が事実だと証明してしまったな」
「体に異変は」
「ございません」
「そうか、働きは覚えておく」
「下がれ」
命を賭して虚を庇おうと動いた兵にすらこの態度だ。
大事な部下を持つ人間なら間違いなく憤慨ものだが、この場で感情を表に出すことは良くないとわからない人物はここにはいない。何も言わずに虚との対話を進めようと努めている。
「先ほどからヒソヒソ、いいやポチポチと、かな」
「その画面を使って相談しているようだが」
「話は纏まったか」
「もう少しここいらの兵と遊んでいた方がいいかな?」
「いいや、その必要はない。こちらの意見は纏まった」
慌てたように答えた管理総督をみてニコリと笑い、すぐにいつも通りの表情に戻る。
虚は続きを促すように手を動かし、話を聞く。
「虚殿が提案した案を中心の作戦を立てよう。しかし、採用するのは君のみが戦場に降り立つプランだ。クリスティーナ大将や〈不死隊〉を連れて行くことは許可できない」
「ふむ、まぁそうなるだろうな」
「そんな予感はしていた」
「そちらから言えばまだこいつらは軍の管理下から離れていないのだろうからな」
「申請の承認がされる前に私兵として動かすのは拙いのだろう?」
「そうだ、クリスティーナ大将が了承したとは言え、実際にこちらが許可を出しているわけではない。であればまだ彼らは君が言ったように、まだ軍の所属だ」
「まぁ、自分一人でもなんとかなるだろうし、それでいい」
「私だけを戦場の中心に落とせ」
「作戦は決まった。では現地に向かう準備に取り掛かってもらう。場所までは伊那止に案内させる」
最後に管理総督は虚に向かって敬礼の構えを取った。
「健闘を祈る」
「その言葉はいま戦場にいるであろう兵士に送ってやれ」
「きっと涙を流して喜ぶだろうさ」
伊那止が背後の扉を開け、退出するように促した。
虚たちは素直に従って部屋から出て行く。
最後の一人が出て、扉が閉まった後、この会議室内に全員分のため息が吐き出された。
全員緊張していたのだ。
あんな得体の知れないものを間近に見せられて緊張しないほうが異常なのだ。
あのような会議の後なのだから、虚と名乗るあの埒外の存在をどうするのか、という話題になることも納得できようものだ。
長ったらしい会議の内容を書記官は簡略化しながらデータに打ち込んでいく。
「あの女を今後どう利用するのが東部管理局にとってプラスになるのか」
「あの蘇生能力を使って医療技術をさらに発展させられる」
「無理やりにでも捕縛して実験体にするべきだ」などという馬鹿げた話すらもスルーせずに分かりやすくまとめる。
数十分後、話題が減ってきたのか、続々と軍人たちが退室していき、最後には管理総督と書記官だけが残った。
「総督はあの人物をどのように扱うことが正解だと思われますか」
意見をまとめている書記官としては至極真っ当な質問。
それに管理総督は笑って答える。
「あれは放置が正解だ」
「放置、ですか……」
今まですべての問題への解決策、最善策を打ち続けてきた管理総督からあまり聞くことのない声音で、ほとんど聞かない回答が出た。
放置。それが最善だと管理総督は思っているということ。
「それは、なぜです?」
「なぜと言われてもな、」
「自然現象と人間がまともに戦おうとしても、勝てるビジョンなんて浮かばんよ」
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