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それとの話

 伊那止(イナヤミ) (アキラ)と名乗った軍人に連れられ、軍施設の中を進む。


 施設の中を進む間、虚の周囲に近づかないようにクリスティーナが伊那止に伝えたことで周知されたのか、目的地にたどり着くまでその集団に寄ってくる人間はいなかった。



「アダムとイヴはいいのか?」


「カプセルを壊せそうには見えなかったからな、恐らく大丈夫だろう」


「恐らくってのが怖ぇな」



 現在この場には、アダムとイヴを除いた〈不死隊(アンデッド)〉全員が一塊となって移動している。


 矢岸としては見張り用に2~3人は研究所に残しておきたかったのだが、虚からは必要ない、伊那止からは全員が出頭するようにと言われてしまい、渋々見張りを置かずについてきたのだ。



「射手、なぜ矢岸はあんな思いつめた顔をしてる」


「不安なんじゃねぇかな、ウチの隊の中でも隊長ってこともあって責任感は強かったし、ウロ様に迷惑かけたくないってんでああなってんのかもな」


「あぁ……あいつも損な男だな」



 ハハハと笑う射手をよそに長い廊下を進んでいく。


 クリスティーナの研究所からかなりの時間が経過しているはずだが、それらしい部屋は見えてこない。


 ただただ無機質な壁と床、そしてときたま扉のような窪みが見えるだけだ。


 しかし、クリスティーナと伊那止が何も言わずに進んでいくため、虚になにか言うこともなく、会話も少なく静かなまま進んでいる。



「着きました。どうぞ、中へ」



 伊那止は行き止まりでもない廊下の途中で立ち止まり、中に入るように促す。


 虚には何もない廊下を示されているようにしか見えず、首をかしげる。


 しかし、クリスティーナや矢岸、射手などの〈不死隊(アンデッド)〉の隊員たちもそんな素振りは見せず、平然と中へと入っていく。



 続々と何もない空間に消えていく者たちの背を見ながら、その場に立ち尽くす虚。最後には伊那止のみが残り、二人きりとなってしまった。



「?なぜ入らないんです?もしかして警戒されてますか」


「そういうわけではないが」

「お前たちには何が見えているんだ?」

「私には何もない空間に入っていったようにしか見えなくてな」



 そう言った瞬間、伊那止は虚に対して腰の拳銃を向けた。



「あなた、この管理局の人間ではありませんね。他の管理局の身分証も持っているようには見えません。どこから来たモノですか」



 両手を頭の上に上げ、降参の意志を体で伝えながら心底わからないといった顔で伊那止へと話す。



「外からだ」

「お前たちの言う〈万死荒野〉から来た」

「身分を証明できるものはないし、虚という名前もつい先ほど自分で決めた」

「大将殿に聞けば私に対しての何かしらの証明はしてくれるだろうさ」



 そこまで言えば、伊那止の拳銃を握る手から少し力が抜けた。


 なるほど確かに、戦いに身を置く人間ではないのだろう。大将や矢岸であれば今の言葉だけで一瞬でも気を抜くなんてことはしなかった。



「私に害意は無い、私に誓おう」

「まぁ、かといって握手などしようものなら大変なことになるのでな」

「そういったものは今は遠慮させてくれ」



「ふぅ……分かりました。では臨時ですが、入れるように設定しますので少々お待ちください」



 そう言った伊那止は何もない空間からSFドラマで見るようなウィンドウを呼び出し、何かを入力していく。


 入力し終わった瞬間、目の前に壁が現れ、ブロックが崩れていくように開いた。


 虚が中をのぞけば、先ほど入っていった面々がこちらを見ている。


 矢岸などは失念していた!と叫びそうな顔でこちらに謝罪をするように見ていた。



「なるほどな、何かを識別して認識できるようになる仕組みなのか」


「そういうことです」


「おおかた住人の認識証とかそういったものか」



 伊那止が効果範囲外に下がったのを確認してから中へと入る。



 入った途端にガチャガチャと金属のようなプラスチックのようなものがこすれる音を立てながら何かが一斉に動いた。


 周囲を見るまでもなく囲まれている。それも銃火器を向けられた状態で。


 クリスティーナはなんとなく察していたのか平然とした顔で正面を向いている。



 部屋をぐるりと見渡せば、天井は高く、奥行き、横幅ともに広大だ。生前の記憶で例えるのなら体育館と国会議事堂、そして裁判所を合わせたような作りだった。



『実際に見たことも行ったこともないがな』



 虚も正面を見る。


 そこには老若男女様々な軍人が座っていた。


 自分の席の前に名前や役職が書いてあるタグが浮いているが、読めないし読む気もない。



 ただ、気がかりなことが一つ。


 なぜか全員から凄まじい敵意を向けられている。


 それも虚だけでなく虚側の人間全員に対してだ。外部のモノである虚を警戒するのなら理解はできたが、虚以外それも大将であるクリスティーナを敵視することの意味が理解できていなかった。



「ふむ」

「私たちが何かしたか」


「知らねぇ、入ったら”こう”だった。何かしらの予測と話し合いの末に敵対されてるとかかもな」


「何かしらが分からないのでは何もわからんな」



 クリスティーナは一歩前に進み、胸に手を当てて話し出した。



「〈人類連合東部管理局:大将〉クリスティーナ・アルギメス、招集に応じ参りました。いかなる御用でしょうか、管理総督殿」

        この先、星があるぞ     

   星を押すと良い、作者のテンションが上がる   


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